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No. 00164
DATE: 2000/09/18 00:26:55
NAME: カヤ
SUBJECT: 蜜蜂
雲が切れ、月明かりが二人の人影を映し出す。ハザード河縁に建つ屋敷の屋根上。ほっそりとした男の影が、小柄で身をかがめている影・・・つまりオレ、に近づいてくる。
男が間合いを持って足を止める。あらかじめ決めてあった合図を交わすと、男から紙に包まれた荷物を渡された。大きさは・・・そうだな、よく魔術師が持っている本くらいだろうか。それが済むと、男はオレをろくすっぽ見向きもしないで、身軽な調子で立ち去る。
これで彼の仕事は、とりあえず終わり。しっぽになんかくっつけていてもそれはオレの知った事じゃない。
ここからはオレの出番。とりあえず、この場所から降りなきゃな。
生ぬるい夜風に吹かれ、栗色の髪をばらまきながら、屋根の上で身をかがめ歩き出す。大きな屋敷だが、屋根の所々痛んでる。商人の家らしいけど、手入れくらいしたらどうかとおもう。これじゃ、踏み抜かないように歩くの大変だっつーの。
オレの仕事はこの包みを、ここから盗賊ギルドまで持って帰ること。オレはこれ専門。ギルドの仕事は役割分担が出来てることが多いんだ。ちなみに、さっきの男はこの包みを屋敷の中から持ち出す役割だったワケ。
しかしあの男アホ?なんで受け取り場所がこんな屋根の上?まあ、理由はわかってる。この屋敷仰々しくも、ハザード河から引いた水をたくわえたミニ堀に囲まれているのだ。
こんなことに金かけるなら屋敷をもっと立派にしろっての!
さあ〜て、どうすっかな。屋根やテラスが作り出す広大な四辺形を眺める。北側が河に面したこの迷路のようなこの屋敷の、このごみごみした中に抜け道は隠されているもんだ。
苔だらけの樋を伝い、棟から隣の建物へと移る。滑り止めに付けている黒皮の手袋が、湿った苔でグッショリと濡れた。サイテー・・・。そんな調子でリズミカルに屋根から屋根へと移っていく。
北東の細長い建物の先端まで出てきた。よっと、屋根の上から身を乗り出す、そこから樋や窓枠を伝って、地面に着地。
ぐるりっと周りを見回す。人気は無し。見覚えのある茂みの中をかき分け、庭師の使っていたと思われる長い梯子を引っぱり出した。来る前に見つけて用意して置いたモノだ。
これで堀の外塀まで渡る。渡った後の梯子は、塀の外の河に投げ捨てとけばいい。
ちょろいちょろい。いつもは逃げ道は3パターンは用意しとくけど、今回はストレートで終わり。さ、とっとと帰ろ。
ギルドにたどり着くと、片目鏡をかけ錐のように痩せている初老の男が机に向かい作業をしていた。
「蜜蜂か」
オレが入っていくと、顔も上げずに通り名を呼ばれる。
これドーゾ。
男から受け取った包みを片目鏡のテーブルの上に置く。片目鏡はふん、と鼻を鳴らして、包みを開けはじめた。
「ふん、ちゃんと持って来れたか」
近くにいた馴染みの盗賊がオレの頭をくしゃくしゃにもむ。
「こいつは、これでも蜜蜂って呼ばれてるくらいだからな、花から取った花粉は巣に持ち帰るんだよ」
気安くさわんなーっての!絡まれてるうちに、じーさんの検品が終わり、オレの仕事も終わった。
「ご苦労だったな」
あ〜あ、つまんない仕事だった。早く帰って寝よ。
「まだ帰るんじゃねぇ」
帰りかけた足が止まる。訝しげに振り返るオレにじーさんはにこりともせず言った。
「これからもう一度、採蜜だ。今度はあんなんじゃなくもっとやりがいがあるぞ」
・・・サイテー。長い夜になりそうだ。
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