No. 00169
DATE: 2000/10/01 01:52:07
NAME: ビエネッタ
SUBJECT: 『針金指』のはなし
村の酒場のリーベン婆さんには、自慢の孫娘がいる。
孫の名前はビエネッタ。
固くて太くて爆発しそうな藁色の髪にそばかすだらけの低い鼻、丈夫そうな歯が見える大きな口。
酒場の客に、婆さんはよく言う。
「ビエネッタはあたしの若い頃にそっくりさ。将来は絶対美人になる!」
そのたびに酒場の客は苦笑している。
なんてったってリーベン婆さんはぎょろりとした目にがたがたの歯、体つきだってエールの樽といい勝負だ。
ビエネッタは村ではちょっとした顔だ。
もう年頃だというのに、花もリボンも手に取らない。
藁色の髪を荒縄のように結って、悪ガキ共と村をかけずり回る。
ケンカとなったら金的、かみつき、なんだってやる。
村の男はてんで相手にならない。
酒場の客に、婆さんはよく言う。
「ビエネッタはあたしの若い頃にそっくりさ。並の男じゃ相手になんないよ!」
そのたびに客は苦笑している。
婆さんの死んだ旦那のデール爺さんはしょっちゅう婆さんにひっぱたかれていたのだ。
穴の空いた壺、色あせたタペストリーやひびの入ったガラス玉。
村の酒場にはたくさんのガラクタが飾られている。
これはその昔、腕利きの冒険者『針金指の』リーベンと『鉄壁』デールが掘り出してきた宝だという。
100の罠は解いてみせたという婆さんのほら話は村のみんなが知っている。信じているのはビエネッタだけだ。
酒場に客がいない時、婆さんはビエネッタだけに手品を見せる。
手首をひねるだけでガラス玉を出して見せたり、入り組んだ知恵の輪をあっという間に解いて見せたり、
そして「秘密だよ」と言いながら針金だけで鍵を開けて見せたりもする。
酒場の客に、婆さんはよく言う。
「ビエネッタはあたしの若い頃にそっくりさ。将来は絶対いい冒険者になるよ!」
そのたびに客は苦笑するばかりだ。
よく晴れた初夏の日、ビエネッタは村を出た。
子分の悪ガキ共、ちょっと気の弱い従弟のピノは泣いてひきとめた。
きれい好きの娘やぶちのめされたことのある若い男は冷ややかな目で見送った。
その他の人間の半分は驚き、半分は思った通りと納得した。
村の門で、婆さんにぎゅっと抱きしめられてからビエネッタはにぃっと笑った。
「それじゃばーちゃん、行ってくる!」
酒場の客に、婆さんはよく言っている。
「ビエネッタはあたしの若い頃にそっくりさ。そのうち沢山のお宝を持って村に帰ってくるよ!」