No. 00170
DATE: 2000/10/01 13:44:52
NAME: コラン
SUBJECT: 別れと出会いは表裏一体であること〜1〜
多少古ぼけた、暖かみのする宿の二階の個室。
下からは、ごく平和な人々の喧噪が聞こえて、
私は手にもったナイフをそのままおろすべきか否か、多少ためらっていた。
(いや、ここでやらなければ…。)
そう自分にもう一度気合いをいれて、鏡に向かう。
長い、非の打ち所のないまっすぐな黒い髪。
この髪は、以前貴人がほめてくれたものだ。
「あなたの中で唯一髪だけが綺麗。」と。
一瞬、閉じこめていた記憶が、暴走を起こして
私はもう一度、黒髪にあてたナイフにためらう。
(とりあえず、肩まで…か。)
そんな保身的な考えに自分でも苦笑するが、どうしても、一回でそれ以上切るのは無理だ。
綺麗。綺麗。
鼓膜の中をぼんやりと支配する貴方の絶対的な声を、
切り裂くように、
ナイフにおもいきり力をこめた。
…続く…