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No. 00172
DATE: 2000/10/05 16:15:42
NAME: メリープ
SUBJECT: 初めての夢
それは、18歳になる直前の話だった。
「おーいメリープ!降りてきなさーい!」
ある日の夕方、私はぱぱりんに呼びだされて、二階にある部屋からぱぱりんのいる一階の店に降りていった。
一人の、知らない男の人がいた。
「よぉ、はじめまして。俺はゲイルノート。ゲイルで良いぜ。
ここでしばらく働かせて貰う。よろしくな。」
そう言ってゲイルノートは笑った。
ぱぱりんも、片付かない店の中や倉庫が片付く、と喜んでいる。
私も、「よろしくお願いしますねぇ」と返事はしたものの、その後ぱぱりんとゲイルが何を話していたのは、全くといっていいほど憶えていない。
二人の話に、一応参加していたらしいことは憶えているけど……
その翌朝から、ゲイルはうちの店に来て、店の中や倉庫などを片付け始めた。
「良くここまでちらかせるよな」とか、文句は多かったけど、その分働いていた。
勿論、一人じゃ片付けられる量じゃなかったから、私も手伝うことにしていた。
だけど、ゲイルはホントによく働いていたと思う。
だって、片付けることを知らないぱぱりんが、今までちらかし放題にしてきたあちこちが、だんだん片付いて綺麗になっていくんだもん。
最近「店が手狭になってきた」とぱぱりんは言ってたけど、今まで片付けなかったせいじゃなかったのかなぁ?と思えてきた。
そんな些細なことから、ぱぱりんに対する反抗心というようなモノが芽ばえてきたらしい。
今までぱぱりんの言うこと、やることに何の疑問も持たなかったけど、今は違う。
ぱぱりんの仕事の内容、やり方、そう言うものを、今までほとんど知らなかったと言っても良いのかも知れない。
ゲイルが家に来て、話をするようになってから、ぱぱりんのやり方とかに、どうしても我慢できないものを感じ始めてきていた。
「お前はパパの跡を継ぐんだぞ?だから、パパのやることを見て、自分が何をしなきゃいけないのか、よーく考えるんだよ?」
今まで、ぱぱりんのこの言葉が全てだった。
ぱぱりんの後を継いで、この街で食品を扱う商人になる。
それが私の生き方だと思っていた。
だけど、ゲイルと話すようになってから、私の進みたい道がだんだん見えてきた。
ぱぱりんが私に求めている道とは違う、もっと自由な道が……。
商人になりたい。ぱぱりんみたいな立派な商人に。
その気持ちは変わっていない。
でも、この店にずーっといるのは耐えられない。
ぱぱりんが嫌いなんじゃない。世界は私の知るよりもっと広くて、知らない場所がいっぱいある。
広い世界が目の前に広がっているのに、そこに行けず指をくわえて見ているだけなんて、我慢できない。
……確かに私は今まで外のことを知らないで育ってきた。それがぱぱりんの愛情だってコトも分かるよ。
でもね、これから商人になるんだったら、もっと世界のこと、世間のことを知らないとやっていけないでしょ?
だからね、ぱぱりん。
私、行商人になりたいの。
ぱぱりんにそう言ってから、私への監視の目が増えた。
ぱぱりんは、私が行商人になることを許してはくれなかった。
「危ないから」「そんなに甘いものじゃないぞ」って、普段温厚なぱぱりんが珍しく声を荒げて怒った。
あまりの迫力に、それ以上何も言えなかったんだけど……。
だからって、私は夢を諦めた訳じゃない。
ある夜中。監視の目がなくなるほんの少しの時間を見はからって、私は窓を開けた。
外には風が吹いている。
私は、今までほとんど使うことのなかった銀のショートソードを携え、深呼吸をして精神を集中する。
口にするのは、しばらく使ってなかった精霊語。
「お願い。誰にも見つかりたくないの。監視者達の動きを止めてくれる?」
そして、そっと階下に降りて外に出た。
一応周囲を見まわして、監視の目がないことを確認してから、走りだす。
ゲイルが教えてくれた、冒険者達の集まる酒場「きままに亭」へ……。
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