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No. 00177
DATE: 2000/10/11 07:37:21
NAME: パムル
SUBJECT: オイラがお絵かき好きな訳。
朝日が顔に当たるのを感じて小さな人影が目を覚ました。
飛び上がってくるくるきょときょとせわしなく頭をめぐらせる。
粗末で小奇麗にととのったベッド。
こじんまりとした静かで居心地のいい部屋。
「あり?なんでオイラこんなトコで寝てるにゅ?」
その人影はベッドに座り込むと頬をつねってみた。
「いてて。夢じゃーないねぇえ」
ある日一人の草原の妖精が何を思ったか熊の巣穴にちょっかいをかけた。
じゃれあう小熊に好奇心を目一杯刺激されたのかもしれない。
今の時期の子連れの動物の気性の荒さと恐ろしさぐらい理解してるだろうに。
子を守ろうと猛り狂い襲いかかってくる母熊の怖さぐらい解ってるだろうに。
草原妖精は無我夢中で逃げた。獣道を文字通り転がり落ちるように走る。
その種族の多くがそうであるように、この草原妖精も逃げ足の速さには
自信があった。見る見るうちに母熊を引き離してしまうとついさっきの
恐怖すら忘れて声をあげて笑い始める。コイツは何でもかんでもとにかく
「自分が楽しいと感じること」にすりかえることにかけては超一流の腕だった。
名前を「パムル」という。
お気楽なグラスランナー。
まぁ真面目なグラスランナーというものはあまり見たことも無いが。
ところがどっこい、このお調子者の草原妖精どこか一つ抜けている。
転がり落ちるように・とはいえあくまで(走っていた)ハズが何時の間にやら
木の根に足をとられ見事にころりと転がった。
そのままころころころころ。
麓まで転がり落ちるころには見事なボロゾーキンの出来上がり。
「き、気をつけよう・暗い夜道と下り坂・・・にゅにゅぅう」
ぼそりと言い残すとぽてっと気を失った。
そして冒頭へ。
ボロゾーキンを拾って回復させてくれたのは麓の村の小さな神殿の神官。
優しい優しい年配の女性。
「傷ついた人を助けるのは当然のことですよ」
そう言ってせっせと怪我の手当てをしてくれた。
マーファの敬虔な信者らしい。
目のふちに笑いジワ。そして笑窪。
パムルは一目でその神官を気に入った。
神様は信じなくたって、その信者を気に入ることはある。
「助けてくれたお礼だにゅう」
そう言って神殿の仕事の手伝いを買って出た。
もっとも本来の神殿としての機能より、孤児院としての役目が大きいらしく
専ら子供の遊び相手と言ったもの。
齢30を数えてもまだまだ遊び好きな草原妖精。どちらが子供かわかりゃしないと
年長の子に笑われもしたりして。
数日を過ごすうち、パムルは神官の癖を見つけた。
礼拝堂にかかった美しい女性の絵を見ては溜息をもらすのだ。
気になって仕方ない好奇心の塊はさっそく疑問を口にした。
たちまち神官は優しい顔を悲しげに曇らせる。
「ここにはね、お金が無いの。この絵もあと数日で売りに出されてしまうのよ」
この絵は主人の形見なんだけど。主人は有名な画家だったのよ。
そういって寂しそうに微笑んだ。
そしてパムルはその絵のモデルが若りし頃のこの神官であることに気が付いた。
その日からパムルは神官に隠れてせっせこせっせこその絵を模写し始めた。
もとよりの手先の器用さも手伝って何度も描き直すうちにそっくりな物が
描けつつあった。それでもパムルは満足出来ない。
絵の温かみがぜんぜん表現出来なかったのだ。
「外だけ似ててもしょうがないんだにゅう」
その絵が描きあがる前に、とうとう元の絵が売られてしまった。
買ったのはこの村の先にある町の領主。
美術品はステータス。飾っておけばそれでいい・という人間らしい。
それからやっぱり数日後。
パムルは町の牢屋に放り込まれていた。
売り先の領主の家に忍び込んでその絵を失敬しようとしたのだ。
うっかり見はりに見つかってとっつかまってはこのザマだ。
「おいらなーんもとってないじゃんかにゅ〜」
じたばたじたばたして見たがまぁ悪いことは悪いこと。
「しばらくおとなしくしてな。盗ったもんが無いならいずれは
外に出られるさ。その場で始末されなかっただけありがたいと思えよな」
あまりに犯罪者らしくないその態度に見張りの衛視は毒気を抜かれて
力なく笑ったもんだ。
そのまんま日は過ぎて。
温情あってパムルは外に釈放された。
「もーくるなよ」と最初に会った衛視が苦笑と共に別れをつげる。
「ダイジョーブだにゅ」
けれどもパムルはその舌の根も乾かぬうちににまたまたその領主の館に忍び込み、
分厚い絨毯の下から一枚の絵を取り出した。
当然その絵はホンモノの方で。
以前忍び込んだ時、捕まる寸前こっそりとすり替え隠しておいたのだ。
「見る目が無い人には、オイラの描いたのでもいいじゃんかにゅ」
さすがに2度目ともなるとこそこそ見事に逃げおおせた。
それからそれから。
パムルはその絵を神殿に送った。
それから後どうなったかは知らない。
もしかしたら一騒動あったかもしれないが
もしかしたらまた小さな神殿をその絵が飾っているかもしれない。
。
お気楽なグラスランナーはそれ以上の心配なんてしなかった。
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「という訳なんだにゅう。こんなんで歌になる〜?」
「もっちろん。おもしろいのが出来そうじゃない!」
くすくす笑いながらティカねーちゃんがオイラに相槌を打つ。
今ね、新しい歌のネタ探しの真っ最中。
オイラの昔話でいーならいくらでも話すにゅう♪
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