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No. 00179
DATE: 2000/10/13 00:13:04
NAME: ラハリト
SUBJECT: 酒場にて〜豊満な胸に目がくらんだ男の話〜
草原の上に体を横たえる。こんな風に寝ころぶのは久しぶりだ。
豊満な肢体に目がくらみ、酒場で飲んでいた時につい口に出ちまった一言で、オレは今オラン郊外の草原にいる。
目の前には・・たまの外出でハメを外す孤児達と、麗しい肢体のキティアが楽しそうに自然と戯れていた。
一人だけ場違いな場所にいるオレは、最近子供達が消える事件があるとかで、万が一の為の用心だそうだ。
そんな訳で、今のオレの腰には使い古された長剣がその身を寄せていた。
軽く目を閉じ、オランに戻った後に彼女から受け取るであろう謝礼について考える。
まさかただ働きってワケじゃあるまい。しかし金っていうのも無粋でいけない。まさか・・・?そんなよからぬ考えに思いを馳せているとふいに名前を呼ばれた。
薄く目を開けると輝くようなキティアさんの笑顔と豊満な胸が目に飛び込む。素晴らしい眺めだ。
「森の方にサランの実がなっているんです。取りに行ってみませんか?」
残念ながら甘酸っぱいサランの実は食いしん坊な小鳥達によって取り尽くされていた。
子供達も落胆の声を上げる。しかし滅多に来ることのない自然の中に放された子供達は、すぐに新しい遊びに興じ、おもいおもいに飛んだり跳ねたりと実に騒がしい。
オレの足下にも遊んでくれとせがむ餓鬼、もといお子様がまとわりつく。
離れたところではキティアさんが子供達に草笛の吹き方を教えている。上手く吹くことの出来ない子供がキティアさんに吹いてみてと、手を伸ばし自分の葉っぱを差し出している。
しばらく適当に子供をあしらっておく。しかしなんでこんなに元気なんだ。…昼寝の一つもできやしない。
ん?さっきまでまとわりついていた餓鬼がいねぇ。
すぐに、木の根本で一人うずくまっていた子供を見つけた。キティアさんも同時にその子の異変に気が付いたらしい。
子供は青い顔をして腹痛を訴えた。慌てるキティアさんを落ち着かせ、子供の病歴について聞いてみるが、至って健康な子でこんな事は初めてだという。
手を握ってみるが握り返す力が弱く、軽く痙攣を起こしている。おそらく食中毒だな。しかし昼食はキティアさんが用意した物でみんなが口にした。…ってことは。
「おい、お前なんか食べなかったか?」
サランの実を食べただぁ?しかし、サランの実は取り尽くされていたはず。多分、間違った毒性のある実を食べたのだろう。
「そんなこと、・・・街に戻ってお医者の所へ行きましょう!」
キティアさんが子供をその胸に抱える。こんな時だがちょっと、いやかなり羨ましい。
いやいや、そんな場合じゃなかった。
「いや、ここで吐かせたほうが早い」
悪いがここで彼女と押し問答をしていても時間の無駄というものだ。
そう思ったが早いか、震えている子供を膝の上でうつ伏せに押さえつけ、口の中に手を突っ込む。苦しそうに体を震わせる子供から吐き出された吐瀉物からは、消化されかけた昼食と黒い実のカスが出てきた。
やっぱりな、孤児院なんて所で育つとガッついていけない。
あらから吐き尽くしたらしく、子供はのざえることしかしなくなった。よし、後は十分水分を取らせてと、そこで腰にある水袋に伸ばした手を止める。おっと、オレの水袋は酒が入ってんだったな。
キティアさんに頼み近くの川から水を汲んできてもらい、ぐったりしている子供に半ば無理矢理水分を取らせる。
応急処置はこんなところか。よっしゃ、子供の呼吸も正常にったし、もう暫くすりゃ顔色もよくなるだろう。
その後街へ戻り、神殿近くの医者に診せたところ応急処置の的確さを誉められた。まあ、当たり前ってとこだな。
しかし、子供が食した実はかなり毒性が高い物らしく、しばらくの入院を要するらしい。キティアさんは子供が助かったことには顔を輝かしたが、医者の話を聞いている内に段々と笑顔が消え、険しい顔になっていった。
おお、キティアさん、あなたにそんな顔は似合いませんぞ。
「すみません…でも…」
言葉を濁らせうつむく彼女を見て、迂闊にもオレはまたもや口を滑らす。
「貴女の悩みはこのラハリトの悩み、貴女の為とあらば例え悪魔と戦うことになっても辞せません!」
ああ、言っちまった…。
彼女の笑顔を奪ったのは、今の孤児院にも彼女自身にも入院費をひねり出すことが出来ない、という現実だった。とは言えオレにだって人にくれてやれるほどの金はねえ。
子供を胸に抱え祈るようにうつむく彼女の横顔を見ていたら、ふと幼少の頃に見たことのある「聖母」と名付けられた絵を思い出した。
しょうがねぇ…いっちょ稼いでくるか。
ってオイ。オレはまだ今回の報酬だってもらってないんだぞ、なのに馬鹿な餓鬼の為に命張るのか?いつからオレはお人好しって文字が名前の前につくようになった?
いや違う、全ては彼女の為だ。最後にまとめて彼女から報酬を頂こう。
聖母のからの報酬なんざ考えるだけでゾクゾクするってもんだろ?
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