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No. 00183
DATE: 2000/10/19 02:26:50
NAME: ボナコフ
SUBJECT: ある神官の手記、彼の言い分
私、マーファ神官ボナコフは一昨日、としはもいかぬ少女が客の相手をするという商館、「真珠の壺」を訪れた。
むろん、神官としては言語道断の行為だ。しかし、薔薇のつぼみを舌の上で転がし、味わうということが、あの病的な状態の私には必要だったのであり、その点を説明し、諸君に理解を頂くことから、私は、この件全体に関する告解と懺悔をはじめようと思う。
……どうやら、私は行為の報いを受けはじめているようだ。だから私は、この体験を文書に著し、『事実を公にする可能性』をもつことで、神にも理解を求め、許しを請うつもりである。私は断じて悪くないのだ! あぁ、なぜ私ばかりこんなめに!
私は、人より抜きんでた倫理観、道徳感をもつために、損ばかりしている。この件も同じ因果によるものだ。少女の痴態を思い浮かべることが、どんなに神官として恥じるべきことか承知しているために、かえってそれを頭から離すことが出来ないというこの感覚を、わかってほしい。なぜなら想像というものは恐ろしいことに、抑えようと意識すればするだけ、頭に鮮明さを帯びて現れてくるものだから。はじめの内なら、この想像をさらりと受けながし、むしろ一笑に付すような感覚でふりほどくことができたかもしれぬ。だが、私という人間にはそれができなかった。思い浮かべる都度、強く反発を感じて、想像と取っ組みあうために、それは輪郭を明らかにさせていき、気づいたときには、妄想は何時でも私の頭の片隅に存在するようになった。そして、私はそのイメージに罪悪感を覚え続け苦しんだ……また別な苦しみも生じ、わたしの生活に安息はなくなった。そして、この状態から解き放たれるためには、実際に幼女に手を出せばよい、という事実にわたしは気づいた。ああ他にどうしようがある!
思えば若い頃も私は、わが仕える神マーファや、かの勇猛なるマイリーなどの淫らな姿を思い浮かべ、激しい自責の発作に囚われたことがある。それは暫くして収まりを見せたけれど、なぜ抑えることが出来たというに、それは神の罰を恐れたからというよりは、詰まるところ、『それ』が不可能事であるということに気づいたから、という事がいえるだろう。だが、今回のケースは違った。その気にさえなれば、現実、清らかなものを思う通りにできてしまう、この状況の元、妄想は私を脅迫するばかりであった。
しかし、二十年来、私はこの種の妄想を湧かせたこともなかったし、足しげく春を売る女の所へいく若者を、何度もたしなめもしていたのに、今回はなぜ、このような思考の袋小路に陥ってしまったのだろう。検証の必要を感じる。
それでは次に、私が実際に商館で過ごした夜のことも書かねばなるまい。
◇◇◇◇
順序を追って話そう。
以前に、「真珠の壺」に来る気を起こした時は、私としたことが、神官服を着たまま向かってしまった。おかげで、直前に気づいて、引っ返す羽目になった。だが昨日は、準備も万端に店に入る事ができた。服を着替え、仮面で顔を覆って。
愛想のいい店員の案内を受けて、私は部屋に通された。白桃色に塗られた壁がたいへん印象に残っている。そこで落ち着かぬまま待っていると、薄布一枚をはおっただけの姿で、栗色の髪の毛の、少女がはいってきた。歳の頃は八・九歳という所だった。少女が震える声で、わたしに酷い事するの、と聴いてきたので、まだこの仕事に慣れていないのだと察せられた。私は当然、否定した。この神官の私が少女の身体を乱暴に扱うような事があるはずはない。
そこで私たちは暫く問答を繰り返したように思う。しかし、私がいくら優しい言葉を掛けても、少女は理解を示そうとせず、温厚な私も少し気をいらい始めた。…そして、何も怖いことはないから、と言い含めて腰を浮かしたとき、少女は突然、扉の取っ手を掴んで、がちゃがちゃやりはじめた。そして扉が開かないと知れると、部屋の中をまわって、私と距離をとった。
逃げないでくれ、と頼んでも聞かない。だから私は、彼女を捕まえて、少し乱暴にしたかもしれない…あるいは頬を打ったかもしれない、しかし、それは彼女が再三のお互いの歩み寄りを拒絶したからだ、非は私にはない。
その後私は、乱暴を謝って、彼女をそばに座らせた。彼女が辛そうにしているので、ずいぶん気分が悪かった。その時、私は彼女を安心させたいと痛烈に思った。何もしない、ということを告げ、彼女の頭を撫でた。誓っていうが、その時の言葉は本心から出たもので、わたしはその場所に来たことさえ後悔しはじめていた。もはや神官の努めとして、不遇の身に絶望している彼女の心を癒すべきであると、思っていた。
結果としていうなら、その試みは挫折したことになる…。しかし、彼女が寒そうにしていたから…なのだ。お互い沈黙してしまって、そういうところに気が回ったからなのだ…。その場におらず、雰囲気を感じ得なかった者たちが、結果のみをさして私を非難する事に、私は強い遺憾を感じるものである。
◇◇◇◇
しかしもうやめにしよう、告解はここまでだ。あとは諸君と神に理解を求め、その御力をもって、私の運命が暗転するのを阻んでくれるように願うばかりだ。
話そう、息を弾ませながら部屋を出たとき、私は顔見知りに出くわしてしまったのだ。
それは私が以前、色情に溺れることを戒むよう説教した青年だった。その顔を見たとき、眼球からも発汗するようだった。
向こうは私に気づいていないような様子だったが……。あぁその時、彼は笑っていたのではなかったか?
もし神の助けも得られぬまま、運命が私を糾弾にかかるなら、私も、出来るだけの抵抗を試まねばなるまい。この街にはトラブルの解決を請け負う人種が多くいるようだから。
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