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No. 00185
DATE: 2000/10/22 03:21:08
NAME: カルタルと愉快な仲間達&名も無き語り部
SUBJECT: 冒険者達の休息
これから語るのは、若き冒険者達の物話。
ささやかな、それでも本人達にとっては苦難に満ちた冒険を終わらせた後の、穏やかなひととき。
だから、血なまぐさい話が苦手な御婦人でも大丈夫。
忙しさに追い回されてるあなたも、しばらく手を止め立ち止まって聞いてみて欲しい。
暇そうな君もよっといで。
退屈はしないから・・・たぶん、だけれども。
さて、この物語は小さな山の中腹から始まる。
主人公たる冒険者は6人。
樹木がおおい茂った道なき道を歩いているこの6人は、昨日やっと一つの冒険を終えたところ。
冒険と言ってもなんのことはない、ただのありふれたメデューサ退治。
だが彼等にとっては、恐怖に満ちた大冒険だった。
しかも、誰も死者を出すことはなかったものの、決して手放しで喜べる結果ではなかった。
話してみれば、なんのことはない。
ただ、メデューサの体が真っ黒焦げになってしまっただけ・・・ちなみに、最初から依頼人には「証拠になる魔物の首がなければ報酬は出せない」と言われていた。
まあ、些細な事だから、冒険についてはこれ以上語らないことにしようか。
気になる人には、『石は燃えない』という小さな思いつきがケチの付き始めだった、とだけ言っておこう。
そんな失敗のせいで、最初のうちは皆の心も少しばかり沈みがちだった。
だが、若さゆえの活気は、そう易々と眠りっぱなしになるものではない。
まだそれから一日も経っていないと言うのに、彼等の表情には明るさが戻りつつある。
そんなこんなで、もう既に昼よりは夕方に近くなった時のことだった。
「オーイ。こっちの方、木々が開けて広場になってるぞー」
先頭に立つ戦士が後続に声をかけた。
声にはまだ余裕があり、彼の底なしの体力を見せつけてくれる。
他の5人には、そこまでの余裕はない。
「おっしゃっ!ロスパル、今日はこの辺で野宿にしようぜ」
6人の中で特に賑やかそうな青年が、戦士−ロスパルにこう告げると、後ろから歓声が上がった。
「うむ、ありがたいな。儂はもう腹ぺこだよ」
そう言いながら、一番後方にいたドワーフが、情けない顔をして腹に手をやる。
「ウワ〜、ゴージックってば、ホント〜にお腹が鳴ってるじゃないのぉ。卑しいお腹よねぇ」
ドワーフ−ゴージックの前を歩いていた少女が、笑いながら振り返る。
「なにおう。ユニトの方こそやせっぽちで、腰回りが頼りなさ過ぎる」
「ゴージックに言われたくないわよ〜。ドワーフのお腹は、どう考えたって大きすぎるんだからぁ」
ゴージックと少女−ユニトは、いつもの言い争いをはじめる。
「待ちなさい、ユニト。私だってお腹が空いてますもの。ゴージックのお腹からすれば、当たり前でしょう?」
「ゴッホン・・・ノーティ。それは、どういう意味なのだ?」
ゴージックの隣を歩いていたマーファの神官−ノーティが微笑みながら二人を取りなそうとするが、あまり役には立ってない。
「あはは。ダメじゃないのぉ、ノーティ。それってぇ、よけいに傷口を広げてるんだよ〜」
ユニトがにんまりと笑いながら、ノーティに囁きかける。
「ユニト。早く行って、ロスパルやカルタルと一緒に、準備を手伝え」
「分かってるわよ、兄さん。じゃあ、先に行ってるね」
ゴージックの前で地面に倒れそうになっている魔術師が息も絶え絶えにうながすと、ユニトはそれに従い走っていった。
木漏れ日に照らされた彼等のたわいのないやりとり。
それは、幼い頃から繰り広げられてきた平穏の象徴だ。
苦笑いを浮かべながらユニトを見送っていたゴージックが、隣で息を整える魔術師に向かって心配そうな表情を向ける。
「デリト、お前、もう少し体を鍛えんといかんな。冒険者に必要なものは、まず体力ではないかと思うぞ?」
「放っといてくれ。暇があったら魔術書を見ていたい。ボクには力がない。このままじゃダメだ。ダメなんだ」
忠告するゴージックに、とりつく島もない返事をする魔術師−デリト。
まあ、疲れている人間の反応だから仕方ない事なのだろうが、それにしても少し言葉に険がある。
そんな二人の間に立ち、ノーティが双方に向かって微笑みかける。
「まあいいじゃないですか、二人とも。とりあえずは休みましょう」
「ふむ、その通り。まずは休まねばな。そうと決まれば、デリト行くぞ!」
ゴージックはノーティの言葉にすぐ反応して、デリトを急かして先に進んでいった。
彼はデリトの対応を気にしていなかったようだ。
なんだかんだと言いながら歩くうちに、デリトの顔にも笑みが浮かんできた。
その後ろからノーティも歩を速めて進み、広場にそろった彼等は野宿の準備に取りかかった。
日は既に、大きく傾きつつある。
だが、まだ世界は明るさを失ってはいない。
彼等も活気を取り戻し、紡がれる言葉は、もはや奔流のよう。
語り部の出る幕はなくなりつつある。
「ロスパルー、肉は頼んだぜ」
「ああ、まかせていてくれ、今から獲ってくる」
「ユニト。まぁたお前は火をジーっと眺めやがって。水をもうちょい汲んでこいって」
「あらぁ、もうノーティが汲んできてるじゃない?あ〜、あたしが邪魔なのねぇ。ひどいわ」
「いいんですよ、カルタル。それにあなたは、ユニトが火の世話をしてくれているおかげで、安心して調理の準備ができるんでしょう?」
「あのなぁ、アイツが火を見ていると、俺はかえって怖いんだよ。またサラマンダー呼ばれでもしてみろ、焦げるのは俺だけだって言うのがまだ分かんないのか?・・・はあっ!アヅゥッ!・・・へっへっへぇ、おもしれえ。ノーティ?後は、任せたぜ!」
「ちょっと、カルタル。ねぇ、どうしろと言うの?私、料理は苦手なんですよ」
「あはは〜、カルタルぅ〜、なに怒ってるの〜?」
「待てユニトっ。てめえっ、皮鎧の上からでも熱かったんだぞ!」
「ちょっとした乙女の嫉妬よぉ、追いかける程のモンじゃないでしょ〜」
「るせー!おめーは絶っっ対にそんなヤワな女じゃねぇ!!」
「ユニト。お前はいつもやりすぎだ」
「ああっ、兄さんは大人しく休んでてよ。ほら、まだふらついてるじゃないの。ちょっとぉ、カルタル、ゴメン。あたしが悪かったからぁ。ちゃんと水汲み行ってくるわよぉ、ね?だから、そんなに怒んないでよぉ」
「じゃートットと行ってきゃがれっ・・・まったく、いつもいつも・・・ウォッチョー!ユ、ユニトっ、いらんところで魔法を使うんじゃねえ!」
「うっはっは。悲鳴の種類が豊富だな、カルタル。まあ、そんなに怒るなよ。・・・それよりも、飯は出来たか?」
「まだだよ。で、ゴージック。追加の薪はどうした?」
「もう集めたぞ、ほれ」
「な、なんだよオイ?この山は!?」
「薪だよ、薪」
「・・・・・・まき?」
「きゃあっ!噴いた、噴いてるわ。ちょっとお願い、誰かこっち来てくださいっ」
「あ〜、もうイイから、二人ともそのまんま置いとけっ」
「カルタル、今日は収穫無しだったよ。干し肉と木の実で我慢してくれ」
「おう、かまわねぇよ。どうせ明日には”きままに亭”でうまいモンが食えるんだから。ほら、ノーティ、ちょっとどいてな。後はコレとコレとコレを、ザーッと入れてだな、こっからの火加減がコツなんだよなー・・・よしっ。ゴージック、薪くれよー、早く早く」
「うっはっはっはっは。カルタル、『ナベショーグン』という言葉は知っているか?」
「へ、何だそれ?って、それより早く薪くれよ、まきー」
太陽は大地に触れて眠りにつこうとし、人の時間も終わりを告げようとしている。
太陽の休息に伴い、徐々に闇が世界を覆い始める。
それでもこの広場は、ほのかに明るく、暖かいままだった。
食事がはじまっても、彼等のにぎやかな声は、まだ途切れない。
「ん?・・・カルタル、今日は特に味が違うな」
「ほう、デリトは感覚が鋭いな。儂には分からんぞ。食えるというだけで充分だからな」
「ドワーフは、岩でも何でも食べるんでしょぉ?味が分かんないんじゃないの〜?」
「ノーティ?大人しく食べなさいって言ってるでしょう」
「るさいわね〜、ノーティみたいにお祈りしてから静かにゆっくり食べてたらぁ、冷めちゃうじゃないの」
「そこまでしなくても良いですから、口の中に食べ物を入れたまま喋るのだけは、やめて下さい」
「あ、ごめん。飛び散ってるね」
「ん?ちょっと待て。お前等、儂が本当に岩を食べると思っているのか?」
「あれ?食べるんじゃないの?」
「え?食べないのですか?」
「ノーティまで、儂をなんだと思っとるんだ・・・」
「ハハハ、ゴージックが自分から話していたじゃないか。儂なら岩ぐらい平気でかみ砕いてやるって」
「ロスパル、お前まで儂のささやかな冗談を真にうけおって」
「いや、オレは冗談だって知ってたけどな。あの二人は半信半疑だったもんで、念を押しておいたんだ」
「え?アレ、嘘だったの?」
「嘘に決まってるだろーが」
「カルタル、あんたにゃ〜聞いてないわよ」
「で、カルタル、どうなんだ?オレには味の違いが分からないんだが?」
「へへへ、分かったのはデリトだけか。さて、デリト。なんだと思う?」
「む・・・分からない。何だ?」
「ヘッヘッヘェ〜、実はだなー、コレだよ!」
「へ、ヘンルーダですか!?」
「ああ、納得だ。メデューサ退治の残り物か」
「そう。いっつも干し肉と麦だけじゃ、飽きるだろ?この苦みが結構いけるんじゃねーかと思ったんだが、どうだ?」
「ん、不味くもないが、美味くもないな」
「ちょっと!落ち着いてる場合じゃないってば兄さん。もっとなんか言ってやってよっ」
「害がないことはボクも保証する。問題ない」
「兄さんがそう言うならそうなんだろうけど。でも、なんかちょっと・・・カルタル〜、本当にダイジョーブなのぉこれ〜?」
「むかっ。イヤなら食うなよな。お前の分は俺が片付ける」
「あ、待っててば。ゴメンって、ねぇ?ちょっとぉ、返してよ〜」
「ダーメだ、もうやんねー・・・っひょー!オガッ!・・・ジュッ!て、今ジュッ!っていったぞ。まったく手加減ナシか!?・・・オイ、本気で怒るな、な?オ、オーイ、止めろ〜。イヤ本当にお前危ないって」
すでに闇は森を包み込み、なおも自分を恐れぬ不遜な侵入者の心を脅かそうとしている。
その漆黒を朱で退けようとする焚き火の炎。
だが炎の抵抗はささやかで、膨大な闇を前にすると頼りないものでしかない。
しかし、それにも関わらず、闇は勝利を確信できない。
「ちょっと待ちなさいよ〜」
「焦がされまでして待てるかってんだ!」
「へぇ〜、そう?んじゃあ・・・・・・”大地の精霊よ、戒めの手を”」
「おわっ!お、お前、普通そこまでやるかぁ?」
「逃げる方が悪いのよぉ。・・・ほんじゃ、返してもらったわよ」
「なぁ、オイ?俺は、このまんまか?」
「ん〜?だいじょ〜ぶ、すぐ動けるようになるってばぁ」
「そりゃねーだろ」
「んふふふ、何ならぁ、あたしが食べさせたげよ〜か?」
「いらねー」
「ふぅん。食べさせて欲しい人は、もう決まってるんだぁ?」
「うぐっ!」
闇は、暗い思いを彼等の心へ送り込む隙間を見いだせない。
言い換えれば、不安を抱えるだけの余裕が彼等の心にない、とも言えるのだが・・・まあ、そこはそれ、サラッと流そう。
「ねぇねぇねぇ、ノーティ。・・・えっとねぇ、カルタルがね〜、ノーティとねぇ」
「さぁっ、残りを片付けよーかぁ!ユニトっ、いっくらでも食ってくれよな!!」
「あ〜、カルタル。ちぇ〜、もう帰ってきたんだぁ」
「どうかしたんですか、カルタル?」
「イヤ、何でもねぇ」
「何でもないことはないだろうがな、うっはっはっは」
「ほら、ゴージックもそう言っています。何かあるのなら聞きますよ?」
「いや、だから、え〜っと・・・えっとだな、そう、さっさと寝て、明日はまた仕事探しガンバローなって事だよ」
「ええ、そうですよね。みんなで一所懸命に頑張りましょうね!」
「そう力む事もないだろうノーティ。力みすぎると後が続かん。もしも、もしもだが、依頼がなければどうする気だ?」
「そんな事は関係ありませんよ。後がない私達にできることは、必死になって依頼を探す事だけですからね」
「ゴージック、ボクもノーティに賛成だ。僕らみたいに駆け出しの冒険者には、他に取り柄がない」
「オレもその通りだと思う。きっと、残り二人もね」
「ふむ、よく言った。皆がそう言うのであれば、儂もそれで良いんだよ。うっはっはっはっはっ」
「そうと決まればよ、さっさと見張りに立つ順番決めよーぜ。ロスパル、最初は頼んだからな」
「そうだな・・・最初にユニトとオレ。その次に・・・・・・」
こんな彼等の心にあるモノは、いったい何なのだろう?
彼等の心には、既に明日の夜明けの光が差し込んでいるのだろうか?
そう、きっと、新たな出発を象徴する朝日が差し込んでいるに違いない。
『明けない夜は有り得ない』
そんな自然の摂理が、自分達の明日にも当てはまると信じているのだ。
どんなにイヤなことや辛いことがあったとしても、必ず、いつかは新しい明日が始まるのだという事を。
希望はいつでも、目の前にあるのだということを。
・・・信じることは、力なのかもしれない。
・・・・・・。
さて、今日の話はこれでおしまい。
それでは、ごきげんよう。
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