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No. 00186
DATE: 2000/10/27 22:39:22
NAME: グレン
SUBJECT: 旅立ち
彼は、オランからほど遠くない小さなドワーフの村に生まれた。名は「グレン・ボルザック」父は元冒険者で、今は3流の指輪細工職人として細々と暮らしている。
数十年の月日が過ぎ、彼には5人の弟妹が出来た。彼は父の見習いとして働いていたが、その暮らしはとても十分とはいえなかった。彼が30歳の誕生日を迎える間近のある日、父は言った「グレン、いい腕になったな。もうワシよりいい物を作りやがる。これからは、おまえが指輪を作れ。ワシはお前のために、いい石を採ってきてやる。そうすればきっと客も増えるだろう。たのんだぞ!」
次の日、父は若い頃使っていたハンドアックスを片手に採掘現場のある山に向かった。
しかし、父の笑顔を見たのはそれが最後だった・・・
4日後、父は冷たくなって戻ってきた。愛用の斧と小さな原石と共に・・・
グレンは悩んだ、なぜ父はあんな事を言いだしたのか。6人兄弟の長男として育った彼は、どこか抜けたところがあり、世の中の事や、近郊の情勢などには疎く、村では「頑丈・間抜け・大食らい」として有名で、決して職人として認められる程ではなかった。
弔いの済んだ日の夜、母が悩むグレンに声をかけた。「お父さんはきっと、忘れられなっかたのよ。冒険者として過ごした若い頃の夢のことが・・・
指輪職人といっても、お父さんは3流でしたからね。小さい子供たちが独り立ちできるまで我慢していたのよ。グレン、あなたはこれからどう生きていくの?自分の生き方をしっかり考えなさい。弟や妹のことは気にしないでねいい子達だものお母さんがしっかり育てていくわ。あなたの食費が減れば楽なものよ。クスッ。じゃあ、おやすみなさい。」
グレンは形見の斧を手に夜空を見上げた・・・
(父さんの夢って何だったんだい?)
グレンが30歳の誕生日の朝、彼は弟妹と母を前に話し出した。
「父さんは最後に言ったよ。『たのんだぞ!』って、だから兄ちゃんは、お前達のことを守ってかなきゃいけないんだ。・・・でも、ホントは父さんの見てた夢ってどんなモノか知りたいんだ。だから、もしお前達が許してくれるんなら、兄ちゃんは旅に出たい。その代わりちゃんと仕送りはするよ。
みんな、どうだろう・・・ねえ、母さんはどう?」すると母は立ち上がり部屋の隅から、埃のかぶった背負い袋と形見の斧を持ってきた。
「行きなさい。」母は微笑んでそう言った。
弟たちは、小さな袋を差し出して言った。「僕らのお小遣いを集めたんだ。
少ししかないけどね。エヘ!」「お兄ちゃんあたし達は平気だよ!」
グレンは、その目から溢れるモノをどうしても止めることが出来なかった。
「み・みんなグシュ、ありがとう。かあさん・・グシュありがとう・・・」
そして、グレンは家族の思いを胸に抱き。父の残した斧を手に「亡き父」の見た夢を探す旅へ歩き始めたのだった。
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