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No. 00191
DATE: 2000/11/02 12:16:38
NAME: メリープ
SUBJECT: 9の月12の日
ゲイルに「きままに亭」の存在を教えてもらってから、私は夜更かしをして真夜中家を抜け出し、きままに亭に入り浸ることが多くなった。
最初は純粋な好奇心で。
その後は、商人として一人前になるための社会勉強の場として。
そして、色々な人にあって面白い話を聞くため。
時間のあるときにはなるべく酒場に行くようにしていた。
いつも新鮮な話が聞けるし、料理は美味しいし……日頃お家にこもっている私には、ここの雰囲気はとても気持ちよかった。
こんな居心地のいい酒場にちょくちょく通うようになって、私には一つのわがままが芽ばえ始めていた。
9の月12の日。
誰もが一つだけ持っている、アニバーサリーデイ。
それは、誕生日。
酒場にいる友人に、一緒に祝って欲しい、って。
たまたま入った酒場で、たまたま出会っただけの人に、そんなこと頼もうって思い付くなんて、私って何て世間知らずなんだろうって思った。
でも、生涯に一回しかない「その年齢」の誕生日。
とびっきり大切な人達に、祝って欲しいと思うじゃない?
新王国暦512年の、9の月、12の日。
私の、18歳の誕生日。
この記念すべき日を、家族だけじゃなく、きままに亭にいる人達にも祝ってほしい。
そう、心に決めた。
その夜、ぱぱりんには何かイヤな予感がしていたらしい。
私の行動が、明らかにおかしいとどこかで勘付いてしまったのかも知れない。
だからその夜、ぱぱりんに聞かれた。「この後何かあるのか?」って。
その時明らかに私の表情が変わったんだと思う。
それで、「何かあるに違いない」と、悟られてしまったんだと思う。
でも、一旦やるといったら何があってもやってみる性格だと、有り体に言えばわがままだと、ぱぱりんも知っている。
私がここまでわがままで世間知らずに育ったのも、ぱぱりんが私を外に出してくれなかったからだよ。
って、全然筋の通らない理論をぱぱりんに突き付けたら。
「……仕方ないな、今日は誕生日だし、行ってきなさい。ただし、なるべく早く帰ってくるように。」
いかにもしぶしぶといった感じで、ぱぱりんはそう言った。でも、
「先に言っておくが、今日だけだぞ、こんなことは。」
……さすがに、しっかりと釘をさされてしまった。
ぱぱりんのお許しをもらった私は、足どりも軽くきままに亭にやってきた。
カウンターには、薄茶の髪のすらりとした女性と、ピエロの格好をしたお子様が座っている。
女性の方はカヅキ。お子様の方は、草原の妖精パムル。
いつものように、少し慣れてきたここの流儀で挨拶をし、ぱぱりんからもらったお小遣いでCセットを頼む。
ややあって運ばれてきた料理を食べながら、唐突に一言。
「今日、私の誕生日なんですぅ☆」
二人とも、さすがにいきなりのことで面食らったらしい。
……いくら何でもいきなりすぎたと、後で思ったけど、それは後の祭り。
先に反応したのは、ピエロなお子様、もとい草原の妖精、パムルだった。
「おめでとうだにゅう!お姉ちゃんいくつになったんだにゅう?」
突拍子もない、しかも私事だったのに、パムルは自分のことのように喜んでくれている。
18歳と答えると、パムルはまた楽しそうにこう言うのだ。
「18歳にゅう?オイラの半分だにゅう!
……Cセットはお誕生日祝いなんにゅう?」
そのつもりだったのでパムルに頷くと、彼はこう店員に言った。
「オイラにもCセットー!」
そして今までのやり取りを聞いていたハヅキも、メリープを見て一言。
「誕生日か、おめでとう。」と。
今まで言われた「誕生日おめでとう」より、深く心にしみいった。今のハヅキの言葉は。
「みんなでおんなじメニュー頼むのもたまにはいいにゅう☆」
パムルの一言に、苦笑で応じたハヅキもまた、店員にCセットを頼んだ。
完全に私のわがままなのに、パムルもハヅキも受けとめてくれて、それがとても嬉しくて……
気がついたら泣き笑いの顔をしていた。
でも、せっかくのお祝いの席、泣いちゃいけないって、一生懸命笑おうとする。
そしていつしか、私をちょっとだけ惑わせた涙はどこかへ吹き飛んで、今までで最高の笑顔を私は二人に向けた。
その2〜3日後。
夜中、性懲りもなくお家を抜け出した私は、パムルに会う。
「これ、誕生日プレゼントなんだにゅう☆」
パムルがくれたのは、手鏡くらいの大きさの、一枚の絵。
「髪の毛の銀色を出すのに、苦労したんだにゅう。お姉ちゃんにあげるにゅう。」
そんなパムルの一言に感激して、私はありがたく似絵を受け取ることにした。
その似絵は、今も私の部屋に大事に飾られている。
ぱぱりんも、この絵を見てあまりにそっくりだからって驚いてたっけ。
「誰にもらったんだ?こんな立派な絵を?」
って、この絵を見るたびぱぱりんは私に聞いてくるけど。
お絵描き上手な草原のピエロだよ、と言ってもぱぱりんは信じてくれない。
新王国暦512年、9の月、12の日。
私の18歳の誕生日。
今までで一番楽しかった誕生日。
似絵を見るたび思い出すはず。いや、きっと生涯、忘れることはないはず。
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