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No. 00196
DATE: 2000/11/22 00:41:05
NAME: グレン
SUBJECT: おやじと息子
◎おやじと息子◎
俺は、この大きな町をもう少し知りたいと思い、あちら・こちらをブラブラと歩き回った。
すると、職人通りとでも言った面持ちのある通りに出くわした。そこを懐かしさと興味深さに引かれ、
散策していると、「兄さん、見かけない顔だな。」と、パイプをふかした職人風のドワーフが
親しげに声をかけてきた。「そんなに、キョロキョロしながら歩いてると、すぐに田舎モンだと
ばれちまうぜ。がっはっは。」(悪かったな!田舎モンで)俺は相手にしないで通り過ぎようとした。
「待ちなよ兄さん、せっかく同族に会えたんだ。よかったらワシん所へ寄って話でも聞かせてもらえんかな」
グ〜〜ッ(何で、こんな時に!)「ガッハッハ、飯ならおごるゼ!さぁ家へ入んな。」
俺は、仕方なくそのおやじの家へ寄った。「わしの名は『ボルドー』、兄さんの名は?」おやじは、
テーブルに掛けながら聞いてきた。「わたしは『グレン』エストンの麓のトルガ村から来ました。」
「そんなに、畏まるな。飯でも食いながらゆっくり話てくれ。おーい、飯はまだか。」
そんな、ボルドーの言葉と、ドワーフ好みの食事のせいで、いつの間にかボルドーと自分のおやじを
ダブらせながら、これまでの事全てと今の気持ちまで吐き出してしまっていた。
パイプを吹かしながら、「そうか、冒険者何かやめて家で働いたらどうだ?家は、指輪職人じゃないが、
武器や防具の装飾の細工をしてる。器用なあんたなら出来るだろう。」
(グ)「いや、気持ちはうれしいがそれは出来ない。言ったろう、冒険者になった訳を・・・」
(ボ)「そうだったな、それなら家に住んだらどうだ。部屋なら余ってるぞ。」
(グ)「それはうれしいが、どうしてそこまで・・」
パイプをおいて、思い出すように話し出した。「わしにも、息子がおった。十数年前まではな、
息子は、ドイルと言ってヤツも冒険者を生業としてた。今のあんたと、かわらん年頃だった。
だが、冒険者なんていつ命を落とすか知れない。奴も少しは出来るようになった頃、背伸びし過ぎの
仕事に手を出しちまった。それが息子の最後さ。息子の亡骸さえ家には帰って来なかった。」
それ以上、ボルドーはその事について話さなかった。
それから、夜遅くまで他愛のない話をして、結局そこに泊まることになってしまった。
翌朝、ボルドーはすっかり身支度がすんで朝食をとっていた。
「おはよう、グレン。どうだい、泊まり心地は。」
「あら、グレンさんおはよう。食事出来てるわよ」奥さんのデイルさんだ。
「おはようございます。ゆうべはいい夜でした。それと、もし本当によろしければ、
ここにご厄介になってもよろしいですか。」
(ボ)「そうか、そりゃ良かったよ。だが言っとくぞ、これからココはお前さんの家だと思っていいんだ、
もっと、気楽にやってくれ。なぁ、母さん」「もちろんですよ。グレンさん、さぁ召し上がれ。」
◎依頼◎
「それからお節介ついでに、お前さんの武器と防具をワシに用意させてもらえんかな?」
ボルドーが、俺の格好を見ながらそういった。(確かに、俺の装備と言ったら形見の斧だけで、
とても『冒険者です』と胸を張れるような格好はしてなかった。)
「ありがとう。その代わり、俺に何か手伝わせて下さい。」
「それなら、早速頼みたいことがあるんだ。仕上がった武器を本通りの『レイチェル刀剣店』まで
持って行ってくれんかな。」「そんな事で良いならお安御用。」俺がそういうとボルドーは工房から
布にくるまれた剣を持って出てきた。「すまんが頼むよ。場所はこの地図に書いておいたから。」
店に着き用件を済ますと、店の主人が仕事の依頼をしてきた。その内容は・・・、
「そう言えば、ドワーフってのは、夜目が利くんだったよな。今、町の下を流れてる下水道の支線に
大ネズミが住み着いてるんだとサ。町の衛兵達は殆どが人間で下水道の支線じゃ暗いし、おまけに狭くって
どうにもならんのだと。そこでだ、あんたらドワーフなら夜目は利くし、背も低い打って付けの仕事じゃないかい。
おまけに、上の住居に顔を出す奴らも居て、住人から苦情も出てるから、いい金になるらしいよ。
どうだい、やる気があれば俺が紹介してやるよ。」
(今度は、だいぶ冒険者っぽい仕事だが初めての戦闘はさけて通れないな・・・)
「どうした、ヤなら他に廻すぜ。」
(グ)「はい、是非やらせて下さい。」(まぁ、どうにかなるだろう・・・)
(主)「なら、話を付けて、後で連絡するよ。」
俺はボルドーの家に戻りそのことを説明した。
「そいつは良かったな。だったら、大急ぎでお前さんの装備を揃えなくっちゃな。」ボルドーは、
なぜか嬉しそうにそう言ってパイプを吹かした。(俺は戦闘が心配でしょうがないってのに)
(ボ)「それから、お前さんは、そこに転がってる盾と武器を選んで、傭兵ギルドの訓練所に行って来な。」
(グ)「訓練所?」
(ボ)「そうさ、戦闘に不慣れのままじゃ、高々ネズミとは言っても、殺られちまうからな。」
その通りだ。俺は急いで古びた小盾と片刃の手斧を選んで、訓練所に向かった。
その夜、レイチェルの主人がやって来た。「こんばんわ、グレンはいるかい?今日はご苦労だったね。
それで仕事の件何だが、衛兵達が言うには、『ネズミの数さえ分からないから、金額の決めようがない』
って言うんだ。だが、それじゃ始まらんから、こういう話を決めてきた。いいかい、あんたは下水道に潜り、
ネズミ達をやっつける。それでその鼻を切り落としてくれば、鼻1個、つまり1匹辺り10ガメル。
100匹倒せば1,000ガメルどうだい?やってみるかい?」「おっと、言い忘れたが、やるのは
あんた一人じゃない。ネズミがいなくなったらおしまいだからな。」
俺は主人に礼を言い、早速、明日から始める事にした。ボルドーが心配そうに俺を見ていった。
「明日からで良いのか?戦闘の方は大丈夫なのか?」
(グ)「心配かけてすいません。武器の扱い方は学んだので、後は実践の方がいいと思います。
なんていっても命がかかってますから・・・」
◎下水道◎
ジメジメして、ひどい汚臭のする下水道の入り口へやって来た。
「さあ、行くか!」俺は、ボルドーの用意してくれた円形の小盾と、手に吸い付くような感触の
手斧を持ち、奥へ進んだ。ネズミの大繁殖してると言う支線の入り口へ着いて、しばらく進むとそこは、
まるで迷路のように枝分かれしている。「これじゃ迷子になりそうだ。」恐怖を打ち消すように声に出して
自分に話しかけた。
キィーッ、突然何かの声がして振り返ると、牙をむいたネズミが目の前に現れた。
咄嗟に斧で振り払うと、運良くヒットしてネズこうを下水にたたき落とした。ヤツは姿勢を立て直し、
再び襲ってきた。俺は無我夢中で斧を振り回し、気が付くと其処には、ボロボロになったネズミと
血塗れになった俺がしゃがみ込んでいた。我に返った俺は、躯から鼻を切り落とし小袋に入れ、また
しゃがみ込んで煙草に火をつけた。正直な話、足が竦んで立てなかったという方が正しかった・・・。
それから、ずいぶん長い間其処にいたように思う。足の震えが取れた頃、ようやく帰途についた。
恐怖を忘れる為に、暖かい布団を思い出しながら・・・。
それから1週間、俺は多くのネズミと恐怖心を相手に戦い続けた。「斧も盾も、それと体も傷だらけになり、
少しは冒険者らしい風貌になってきた。」と、ボルドーは言ってくれた。まさか、自分の第2の人生を
下水道に育てられるとは思わなかった。最近、だいぶネズミの数も減ってきたし、そろそろ、別の仕事でも
探してみようと思い、ボルドー親父に相談した。
(ボ)「ぼちぼち、次のステップへ進むのも良い頃合いだろう。只、あまり背伸びはするなよ。」
親父はそれ以上何も言わず、パイプを吹かした。
デイルさんは、話を聞きながら、いつものように微笑んでいた。
俺は、二人に「お休み」と言って、夜の町に繰り出した。
(そうだ、しばらく『気ままに亭』にも行ってないから、今夜辺り行ってみるかな。)
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