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No. 00197
DATE: 2000/11/22 19:47:47
NAME: ブルー
SUBJECT: 冒険者『だった』ころ
俺の名前はブルー。元は、しがない冒険者の一人だった。
だが今はもう、冒険者なんて真っ平ゴメンだと思ってる。
何でかって?そんなにはやるんじゃねぇよ、これからその理由を話すつもりなんだからよ。
……当たり前だ、あんなコトが起こってみろよ、どんな奴だって多分ショックを受けるだろうさ、あんなコトが目の前で起こればな……
あれは今から……もう8年も前の話になるか。
俺は血気盛んな冒険者って奴だった。
……なんだって?今でも十分血気盛んだって?ついでに単純ヤロウだってぇ?
けっ、それは性格って奴だよ。変えたくても変えられねぇものなのさ。
いいじゃねぇかよ、くっだらねぇコトをグチグチといっっっつまでも愚痴ってる奴よりはずっとましだと思うぜぇ?
……すまねぇ、話がそれちまった。
ま、とにかく。俺は草原の国に生まれ、物心ついたときから旅を生活にしていた。どうして旅をしてるのかは、まだガキだった俺には分からなかったが、決して犯罪を犯して逃げまわってるって風ではなかったな。
危険も幾つもあったと思う。だが、俺達はここオランにたどりついて、無事に仕事にもありつき、定住できた。
そのうちに、やっぱり旅をしたくなった。というか、冒険者って奴に憧れ始めた。
んで、親の制止も聞かずに、二人で家を飛びだしたんだ。
……何で二人かって言うのは、俺を冒険に出そうと画策してた奴がいてな。
名前はネイって言った。言いだしたら聞かないタイプの女だった。ついでに俺の恋人だった。
ネイと二人で、パダの遺跡を探検してみようって言うことになっちまって、親を説得して……あ、いや、ネイが俺の親まで説得して、晴れて冒険者ってものになったのさ。
特に理由もないまま今まで貯めた金で、俺は装備を買い、出発ってことになっちまった。
奴は根っからの魔術師だから、俺が盾にならないといけない。自然に装備は重くなっていった。アイツは身軽だって言うのによ……
ま、そうゆうコトで、道中特に何もなくパダの遺跡に辿り着いた。
入口近くは大分荒らされてたけど、ネイはどこかから情報を仕入れてきて、結構浅めの場所にいいお宝があるって言うから、そこへ行ってみたんだ。
結局、俺はネイには逆らえなかったからなぁ……
お宝までの道のりは、新米冒険者の俺達にはちょっと荷がかちすぎるシロモノだった。
浅いと入っても遺跡をけっこう入っていったと思う。薄闇の中を恐る恐る、俺はネイの盾になって先を歩いていった。
途中、罠に引っ掛かりそうになったり、落とし穴に落ちそうになったり……俺は何度死にかけたことか。多分、普段は信じてねぇが「神」が助けてくれたんだろうと思うくらい、危険な道だった。
何度引き返そうと思ったんだろう。何度「帰りはもっと危険だから」と思い留まっただろう。
でも、そんな思いは宝を目にしてからすっかり消えちまった。
目の前に、鍵がかかった大きな箱が一つあった。見た目ですぐ「宝箱だ」とわかっちまうような、そんな大仰な宝箱。大きさは、30p四方くらいだろうか。
喜びに震えながら、俺達は宝箱をに駆け寄り、そっと蓋を持ち上げてみた。
鍵はほとんど用を為さない物らしかった。力任せにブロードソードの柄で箱を叩くと、鍵はあっさり壊れた。
その拍子にちょっとだけ開いた蓋のすき間から、金色の輝きが漏れた。
これは財宝に違いない。俺は確信した。ふと横を見ると、ネイも同じコトを思っていたらしい。
俺達は互いの目を見、しばらくしてから笑いだした。
「……あはははは!こんなに簡単に辿り着いちゃうとはねぇ!」
ネイが笑いながら言う。俺も同じコトを思っていたから、ネイに頷いた。彼女は尚も喋る。
「これだけの財宝だよ?山分けして一生遊んで暮らしたとしても、余っちゃうんじゃないの?」
「ああ、早く開けて、どの位入ってるか確かめようぜ」
その時、俺らは舞い上がっちまってた。喜び勇んで、鍵を壊した宝箱を開ける……やはり中から金色の光が漏れてくる。光が漏れて、溢れて……一瞬、視界が金色に埋め尽くされる。
あまりの眩しさに俺達は反射的に目を閉じ……光が失せたのを測って目を開く。
宝箱は開いていた。中には、目を疑うほどびっしりと金貨が詰まっている。今まで見たことのない量の金貨に、俺達はしばらく声も出ず、その場に立ち尽くしていた。
先に我に返ったのは、やっぱりネイだった。金貨を両手ですくいあげては落とし、歓声を上げている。
「あはははは!すごい量!ねぇブルー、これ全部持って帰るとしたら、一体どれだけの重さなのかしらねぇ!」
俺もネイに答えて金貨を手にしてみた。ずっしりと重く、ひんやりとしている。本物であろう質感が、手に伝わってくる。
俺もネイに倣って大声を上げて歓びを表現しようとしたとき、目の前に一振りの剣が現れた。
その刀身を見ても、柄を見ても、見知った剣……あれは俺のブロードソードだ。
でも何でこんな所に?俺は剣を抜いた憶えなんてねぇし、だいたい俺の剣はここに……
と思って、脇に差した剣を確かめようとした瞬間、隣で絶叫が響いた―――
とっさに振り返った俺の目には、信じられねぇ光景が広がっていた。
ネイが、変わり果てた姿をしていた。
俺のブロードソードを心臓部分に突き立て、うつろに金貨を見つめている。
その瞳に、今まであった生気や理性などは全くない。
思わず俺は、ネイの肩を揺さぶったが、ネイは返事もせず揺さぶられるままになっていた。
そこで、俺はようやく、ネイが死んでしまったと分かった。だが、分かっただけだ。実感は伴わない。
俺は恐慌状態に陥っていた。手についただけの金貨をつかみ、転がるようにその部屋を出たのだった。
その後俺は、どうやってあの遺跡から戻ったのか分からない。
だが、気がついたら、俺はパダの街からオランへと戻ろうとしていた。
……俺は恋人を失った。この手で殺しちまったも同然だ。
しかも、知らねぇうちに恋人を見捨てて、一人で戻ってきやがった。何て汚ねぇ野郎なんだ、俺は!くそっ!
……それから俺は一つだけ、誓いを立てた。
今後、如何なる事があろうとも、俺は剣を帯び鎧をつけることだけはしねぇ、と。
そうして俺は、一人で生きていた。生まれたときから叩き込まれた歌と楽器の知識を活かして。
……そういやぁ、俺の新しい生徒になったメリープ嬢と、パムルって草原妖精が言ってたなぁ。
「きままに亭」って言う、冒険者達の酒場があるんだってな。
俺自身は、自身で立てた誓いがあるからもう冒険には出るつもりはねぇが、それでも冒険者って言うのが嫌いになったわけじゃねぇ。
久しぶりに、面白い話を聞きに行くのもいいかも知れねぇな。
そう思って、俺は夜の街を歩きはじめた……
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