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このエピソードは00191「それぞれの思惑」の続きです。 *************************** <剣を使えない身としては、頭で勝負いたしましょう> ──決行前夜。 裏通り一歩手前という、いささか中途半端な場所にある酒場で、レアティーズ・エルシノアに雇われた6人は顔をつきあわせていた。やる気のない店主が経営するこの酒場は、昼時はそこそこ混むが、夜は閑古鳥が鳴きっぱなしという状態である。それをいいことに、レノマ、ソイス、リーファン、リルファーナ、ラス、クプクプの6人は、ここを情報交換や打ち合わせの場所に決めていた。 「……ということで、作戦の確認はいいかな?」 明日、とるべき作戦をひととおり確認して、レノマは残りの5人の顔を見回した。話術と、経験年数、そして人懐こいその性格で、こういった話し合いの場では、彼がとりまとめをすることが多い。 「明日の夕刻、例の女主人が出かけるという情報は確実なんでしょうか? 夕刻よりは、夜明け間近の時間を狙ったほうが人目にはつかないのでは…」 不安げな表情で、リルファーナが口を開く。 「夜明け間近でも、護衛たちは油断してないだろうね。だとしたら、女主人が出かける時間を利用したほうが、作戦はたてやすい。実際、それを利用して侵入方法を考えたんだから……でも、出かけるって情報は確実なんだよね?」 レノマがにこやかに、隣に話しかける。そこにいたラスがうなずいた。 「ああ、そりゃ確実だ。あの女も遺産だけで食ってるわけじゃねえからな。息のかかった商会の1つや2つはある。それ絡みの会合が明日の夕方から開かれるんだ。彼女が出席しないわけにはいかない」 「それに、もしも中止になれば、こっちも中止すればいいってばさ♪ 明日の次はあさって、あさっての次はしあさって〜〜♪」 クプクプが踊りながら言い添えたそれは、数少ないこちら側の有利の1つである。守る側は、いつ来るのかがわからない。が、攻める側は、自分の都合で攻めていいのである。 さて。一方、守る側。ガートルード・ウッテンベルクに雇われた冒険者たちは、今日もまた交代で警備していた。ロビン、ハヅキ、パムル、ミュラ、メリープ、ケイの6人である。 「もう少しだからがんばってちょうだいね。…くれぐれもよろしく」 もう少し…というその言葉は、裏に『あのジジイがくたばるまであと少し』の意味が隠されていて、ちょっぴり不穏であるのだが、雇われたほうはそれを知らない。 だから、色気満点の女主人にそう言われて、ロビンなどは鼻息を荒くしていた。が、ケイは、ふと気になった。とは言え、それは別のところが気になっただけ。 「あの…不安がとりのぞかれるまで、チャ・ザ神殿でフェリス君を預かっていただいてはどうでしょう? 事情を話せば、協力してくれると思いますが…」 さすが、チャ・ザ神官。いいところに気が付いた。…が、それは女主人に、にこやかに却下された。 「あら…それはちょっと…。フェリスは人見知りをする性質で…いくら周りが神官様とは言え、4才の子供にそれは可哀想だわ。かといって、私もいろいろと用事があるので、一緒にいるわけにもいかないし……。ということで、がんばってくださいな」 そう言われれば、これ以上無理に勧めることはできない。そして、警備は続くのである。 <始まり始まりぃ〜〜> 「…もう気づいたと思う?」 「まだじゃねえの? ま、すぐに気づくさ」 ウッテンベルク家の外壁の上である。小さな子供のような影と、大人には見えるが、どちらかというと小柄な影が、塀に腰掛けた姿勢で言葉をかわした。言うまでもなく、子供のように見えるほうが、クプクプ。もう1人がラスである。2人とも、念入りに変装した上に、覆面までしている。何と言っても、警備している側は、そのほとんどが顔見知りだ。こちらの正体が知れると、いろいろとやりにくい。 「んじゃ、気づかせてあげるってばさぁ〜〜♪」 そう言って、クプクプが塀の上から飛び上がった。手近な木の枝に飛び移り、わざと小枝をばきばき折りながら下へと降りていく。その音に気が付いたのか、屋敷のほうから足音と声が聞こえ始めた。それを確認して、ラスも塀から飛び降りた。 草地に着地した、クプクプとラスの姿を見つけて走ってきたのは、パムルである。さすがに足が速い。そしてその後ろを、パムルに遅れつつも走ってきたのはロビン。 「いい組み合わせじゃねえか」 「ドラマチックだねぇ〜〜」 パムルとロビンの組み合わせを見て、ラスとクプが視線を交わす。そしてそのまま走り始めた。 「誰だにゅうっ! 待つんだにゅ〜〜〜っ!」 追いかけ始めるパムル。 「ぬおっ! 来たな、悪党どもめ! みんな、気をつけろ! 賊が侵入したぞぉっ!」 あとの言葉を、中庭方面に向けて叫んでおいてから、ロビンもパムルに続いた。 外壁の、裏手のほうで声がする。ということは、計画は始まったのだ。物陰に隠れてその瞬間を待っていた、レノマ、ソイス、リーファン、リルファーナの4人も、うなずきあって行動を開始した。 リルファーナとリーファンが、魔法を詠唱する。“ディスガイズ”が発動すると同時に、2人の姿は、ガートルードと、そのメイドになった。変身ではなく、幻覚の魔法であるため、その人物に完全に成り代わることは無理だが、目くらましにはなる。 2人が持っていた発動体の杖は、盗賊2人の協力を得て何とか、老人のように変装したレノマとソイスが持つことにする。お粗末な変装ではあるが、しないよりはマシである。そのまま、4人はウッテンベルク家の門をくぐった。 中庭を警備していたメリープとケイは、先刻のロビンの警告で、あたりに警戒の目をくばっている。ミュラとハヅキも、子供部屋の近くの廊下で同じように警戒していた。廊下の窓からは、門から続く道を、先刻出かけたはずのガートルードがメイドを伴って戻ってくるのが見える。そして、その後ろには、老人が2人。客だろうか? だが、油断はできない。 そのまま、2人の客を伴ったガートルードとメイドは、ハヅキとミュラがいる廊下とは反対側の廊下へと足を進めた。そこからなら、中庭が臨める。 背負っていたリュートを持ち替え、老人の1人が演奏を始めた。軽快なテンポと、見た目からは想像できない声。レノマである。レノマから、杖を受け取ったガートルードが、魔法を詠唱する。リーファンの声で。彼が唱えた“リプレイス・サウンド”は、レノマの歌う歌を、子供部屋から聞こえてくるかのように操った。そしてそれは、中庭で警備していた2人と、子供部屋の前の廊下で警戒していた2人の耳に届いた。旋律にこめられた威力は、中庭からケイを子供部屋へと引き寄せた。 「え? あれぇ? ケイさん?」 自分も歌は気になるが、警戒を忘れてはならないと、自らに言い含めたメリープは、隣でふらふらとケイが歩き始めたのを驚きの表情で見つめた。だが、ケイの足は止まらない。 「えと…あのぉ……」 1人取り残されても困る。とりあえず、ケイを止めなくてはならない。…が、どうやって? なにぶん、突然の出来事だ。ケイを止める手段を思いつかないまま、メリープはケイの後ろについて歩いていった。落ち着け、メリープ。 そして、廊下でも同じような光景が繰り広げられていた。部屋から聞こえてくる音が気になって気になってしょうがないのはミュラである。警備はしなければならない。先刻の客もうさんくさい。だが、今はそれよりもこの歌が気になる。 いざという時のために預かっていた子供部屋の鍵をもどかしそうに開けて、ミュラは部屋の扉を引き開けた。 「え!? ちょ、ちょっと!」 突然のミュラの行動に、彼女をとめようとハヅキは手を伸ばした。だが、一瞬遅く、ミュラは部屋の中に入ってしまう。 「うわ、早っ!」 どうしたらいいんだろう。自分は…ミュラをどうにかすべきか。それともここで警戒し続けていたほうが……と、そこまで考えたとき、背後に別の人間の気配がした。振り向いたハヅキの目に映ったのは、杖を掲げたメイドである。その口が上位古代語を紡ぎ始める前に、ハヅキは手を伸ばした。メイド姿のリルファーナの腕をねじりあげる。 「…きゃ…っ!」 かすかな悲鳴とともに、呪文は途切れた。 (魔法使いか……やばいな…) ハヅキがそう考えた瞬間、聞き慣れない音が聞こえた。なんだろう、呪文? …と、同時にメイドを掴んでいないほうの腕に何かが触れる。……手だ。そう認識した直後に、ハヅキの意識は途切れた。 <なかなか緊張感あふれてきたかもね> そんなわけで外周組。追いかけてくるのは草原妖精の俊足。パムルである。速い速い。すさまじく速い。そこから1歩も2歩も遅れてロビン。だがしかし、ロビンも声だけは負けていない。 「こら待て悪党どもっ! 俺様の剣の錆になるがいいっ!!」 「待つにゅ〜〜〜〜」 のんびりとした声で、だが足だけは止まらずに追いすがる2人。そして逃げる2人、ラスとクプクプ。ラスも足には自信がある。が、相手が草原妖精となれば話は別。草原妖精を相手にできるのは、同じ草原妖精だけ。 「別れるぞ。走れ」 1歩先を行くクプクプにそう言って、走っていた勢いのまま、外壁の上に飛び上がる。 「1周すれば落ち合えるってばさ♪」 本当に1周するつもりかどうかはともかく、そう応えてクプクプはさらに走る速度をあげた。外壁の上に移動したラスを気にはしたものの、パムルはクプクプを追いかけることにしたらしい。ただでさえ小さな影がより小さくなるのを見送って、ラスは壁から飛び降りた。そこへ届く大声。 「ぬぅっ! いい覚悟だ! 言い残すことがあるなら今のうちだぞぉっ!」 ロビンである。バスタードソードを構えたまま、全力で走ってくる。それを出迎えてラスも腰の剣を抜いた。 一方。 「……礼を言う。眠りの精霊よ」 その耳を隠すために、ローブを目深にかぶったままのソイスが、崩れ落ちるハヅキを見下ろしてそう呟いた。ハヅキが聞き取れなかった音は、ソイスの呟いた精霊語である。眠りの精霊への助力を願うための。 ハヅキにねじりあげられた右肩を押さえて、リルファーナが座り込む。 「魔法はもう無理であるようだな」 ソイスの言葉に、リルファーナが悔しそうにうなずいた。そこへ、廊下からガートルード(=リーファン)が走り寄ってくる。子供部屋のなかを覗き込むと、そこには、歌に引き寄せられたミュラとケイ、そしてケイのそばでおろおろしているメリープ。 肩を押さえてくずおれているリルファーナにちらりと視線をやって、リーファンは杖を掲げた。詠唱した呪文は“眠りの雲”。 ケイとメリープはそれに抵抗できなかった。すかさず、ソイスが、支配していたシルフを呼び出して“静寂”を唱える。これで、眠り込んだ者が起き出す心配をなくすはずだったが、ひとつ計算違いがあった。たった1人、小柄な少女が魔法に耐えていたのである。音を失った室内で、ミュラは周りを見渡した。今まで聞こえていた歌が聞こえてこなくなったことで、その呪縛から逃れたのである。一瞬にして状況を把握する。 「起きてっ! 敵だよ!」 叫んでも無駄だとはわかっている。が、叫ばずにはいられなかった。もとより、“静寂”のなかで聞こえるはずはないとわかっている。というわけで、叫ぶと同時にケイとメリープを蹴り起こす。せめて手で起こしてやれとも思うが、そこはミュラ。…いや、かがみ込んで手で揺り起こしていては、次の行動に出るのが遅れる。いつ、敵から攻撃がくるかもわからないし。だからまあ、足で蹴り起こして正解なんだけども。 中庭を臨む廊下では、レノマが呪歌をやめて、子供部屋へと向かって走っていた。タイミング的にはそろそろ“静寂”がかかっている頃だ。どちらにしろ自分の歌はもう届かない。 廊下の角を曲がったレノマの目に入ったものは、扉の前に立つリーファンとソイス。そしてその後ろで肩をおさえてうずくまっているリルファーナ。 「…大丈夫かい? どこか怪我を……」 「ごめんなさい。もう魔法は…」 そこへ、気配が伝わった。音はしない。子供部屋の音は今、シルフが運ぶのをやめている。だが、それよりも濃密な気配。思わずレノマは顔をあげた。 短剣を手にしたミュラが、部屋に1歩だけ足を踏み入れていたソイスに攻撃をしかけてきたのだ。 魔法使いたちが恐れていた接近戦である。 <そろそろヤバイかな?> そしてこちらも接近戦。いや、「戦」というのは間違いかもしれない。ひたすら走り続けてるだけだから。 「待つんだにゅ〜〜!」 「イヤだってばさ♪」 ……平和な光景に見えてしまうのは何故だろうか。 そして、平和な光景はもう1つある。 「くぅっっ!! おのれ。俺の前に出てきたからには、その命、捨てる覚悟と見た! おとなしく俺様にやられろ! だから動くなぁっ!」 走ってきた勢いで振りかぶった剣はかわされ、そしてそこから切り返した剣もかわされ、ロビンが覆面の敵をにらみつける。 (……そろそろ飽きてきたな) 覆面の敵はそんなことを考えていた。というわけで、片付けることにする。剣をかわしざま呪文を呟いてそっと手を伸ばす。ロビンの脇腹に指先が触れた。次の瞬間、ロビンは草むらに倒れ込んでいた。 「ああ…言い残すことはあるかって聞くの忘れたな。ま、いいや」 しっかりと、眠りの精霊の力が働いてるのを見て、ラスはロビンのそばに膝をついた。そして、腰の小さなポーチから墨を取り出す。ただの墨ではない。雨の中でも使えるようにと作られた、特製の墨。脂で練ったそれは、水で洗っただけでは落ちないと大評判の盗賊御用達の品である。それを手に、ラスはロビンの服をめくり上げた。「………っと、こんなもんかな〜〜」 ロビンの胸元からへそにかけて、落書きをする。腹踊りが出来そうな顔が仕上がった。そして、仕上げにとばかり、顔にも落書きをする。右頬に“FO”、左頬に“OL”。 落書きが仕上がった頃、声と足音が2つずつ聞こえてきた。……本当に1周してきたらしい。 そんな平和な光景をよそに、子供部屋は緊迫していた。 ミュラが繰り出してきた短剣を避ける術はソイスにはない。かざした左腕が切り裂かれる。 「きゃぁっっ!」 声を上げたのは、当然ソイスではない。何故かメリープである。ミュラに蹴り起こされたケイとメリープは、一瞬、状況の把握が遅れた。ミュラが攻撃をしかけようと走り出したのを見てから、ようやく今の状況に気づく。そして、ケイは一番先にフェリスに駆け寄った。 「こっちに!」 フェリスを引き寄せて抱きかかえる。その横で、メリープはおろおろし続けていた。 「え…あのあのぉ」 そこへ、ミュラの攻撃である。実戦を見るのは初めてのメリープ。自分が何をどうすればいいのかもわからない。ソイスの腕から飛んだ血を見て思わず悲鳴を上げたのである。中庭を守っている時には、いざとなったら“転倒”の魔法で、と思っていた。だが、部屋の中にノームはいない。……あたりまえ。だが、経験のないメリープには、ノームがいないというだけで、次が考えられないでいた。 そして、ソイスのすぐ後ろで、リーファンも迷っていた。魔法を使う気力はまだ残っている。だが、目の前の少女は先刻の自分の魔法に耐えたのだ。次が効くとは限らない。それより、杖を掲げて呪文を詠唱する時間があるかどうか。 「……ひきましょう」 背後でレノマが声をかけた。接近戦になっては、自分たちに勝ち目はない。まして、魔術師の1人、リルファーナが魔法を使えない状態である。 「ええ。……残念ですが。…行きましょう、これ以上は無理のようです」 そう言ってうなずいたリーファンに、ソイスもうなずいた。 魔法を警戒して、ミュラが1歩距離をおいた隙に、ソイスとリーファンは走り出した。レノマは、リルファーナを立たせてひと足先に走り始めている。 「依頼は果たせず、であるな」 走りながら、ソイスが呟く。 逃げ出した4人を追いかけようとしたミュラだが、廊下に飛び出した時点で諦めた。追いつけない距離ではない。ミュラとて、盗賊。足には自信がある。怪我人を抱えた彼らに追いつくのはたやすいだろう。だが、自分1人で追いかけるのは危険と思われた。追いつく前に魔法でも唱えられたらひとたまりもない。 「…ちくしょう。せめてロビン君でもいてくれたら、追いかけるのに……」 そのロビン君は、寝ていた。落書きされて。 「にーちゃん、そっちは終わったぁ〜〜?」 呑気な声をかけてくるのはクプクプである。そっちはちょうど終わったところだ。落書きが。 そこへ、笛の音が響きわたった。合図だ。 駆けっこしている(としか見えない)2人がたどり着く前にラスは呪文を唱えた。追いかけてくるパムルに向けて飛ばしたのは“混乱”の呪文。それが効いたのか、パムルは突然走るのをやめた。 「やた、らっきぃ〜だってばさ♪」 クプクプだけがそのまま走ってくる。 「戻るぞ。合図だ」 屋敷の裏口からレノマが吹いた笛を聞いて、ラスとクプクプは同時に外壁に飛び上がった。 <とまあ、そんなわけで> あらかじめ決めてあった路地裏で、レアティーズ・エルシノアに雇われた6人は顔を合わせた。7人になっていないところがミソである。 「あれぇ〜〜〜? お子ちゃまはぁ?」 クプクプの不満げな声。その隣でラスも溜め息。 「……骨折り損ってわけか」 「ああ。残念だったけど…。接近戦になってしまえばこっちに勝ち目はないからね。つかまる前に逃げられただけでも幸運だよ」 変装を外しながらレノマが肩をすくめる。 「そうですね。とりあえず捕まらなかったのは幸いでしたよ。……怪我人は出してしまいましたが。……大丈夫ですか、2人とも?」 魔法を解いて、本来の姿に戻ったリーファンが、ソイスとリルファーナに声をかける。 「大きな剣ではなかったのが幸いだ。傷は浅い」 服の上から縛った傷口を見下ろしてソイスが呟く。リルファーナも力無くうなずいた。 「ええ…ひねっただけですから、数日すれば元通りかと。……残念でしたね、今回は」 「う〜ん…しょうがない。エルシノアさんには、正直に話して謝ろう」 頭をぽりぽりと掻きながら、レノマが溜め息をつく。 でも謝るだけじゃだめ。前金も返してもらう。 だって負けは負け。 「とりあえず…守ったってことでいいのかな? いいんだよね?」 子供部屋の入り口に腰をおろして、ミュラが息をつく。ケイは、かかえていたフェリスをメリープにあずけて、ハヅキを起こしていた。 「大丈夫よ☆ フェリス君は無事だったし、よかったわ☆」 「あのぉ〜…終わった…んですか? えと…私…何も……」 フェリスを預けられたまま、メリープは未だにおろおろしていた。…落ち着け、メリープ。 「……あれ? 終わった…のか?」 起こされたハヅキがあたりを見回して呟く。ふと、気づいてつけたした。 「……2人、足りないような気がする」 「ああっ! 忘れてた! ロビン君とパムルちゃんは?」 叫んでミュラが立ち上がった。ちなみに、『ちゃん付け』されてはいるが、パムルはれっきとした男の子。…っていうか、大人。 そして、ロビンとパムルは外壁のそばにいる。1人は寝こけて。もう1人は呆けて。 だけどまあ、勝ちは勝ち。 <結局> 数日後。資産家の貴族、ジーク・エルシノアは、執事のマーセラスとチャ・ザ神官ニアス・ボローに看取られてこの世を去った。 そして、遺言状公開時、たった1人の孫フェリスの後ろに立っていたのは、美貌の未亡人、ガートルード・ウッテンベルクである。レアティーズ・エルシノアはさらにその後ろだった。ぎりぎりと歯ぎしりをして、ガートルードの赤毛をにらみつけている。 とりあえず、フェリスは何もわかっていない。だって4才だし。 ─── ジーク・エルシノアの冥福を祈る。 |
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