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No. 00011
DATE: 2000/12/23 03:17:36
NAME: アイシェン・リー
SUBJECT: 最初で最後の歌声
僕はこの村では嫌われ者だった。
何時も魔物の子と言っていじめられていたからだ。
何処をどう見て魔物と言うかはっきり言ってわらかなかった。
どう見ても僕は普通の人間の子でしかなかったからだ。
ただ他の子と違うと言うのは森で拾われたと言うくらいだった。
それだけで魔物といわれるのは心外だったが、この村の伝承に
”森で産まれし子は人と人ならぬ者の間に生まれたし子なり”
と言うのがある。
だが僕は森で生まれたかどうかすらさだかでは無い。
ただ森に捨てられて居たとこをこの村の猟師・ルバに拾われだだけなのにである。
僕に優しいのはこの親代わりのルバだけであった。
他の大人は僕を嫌な者でも見る目で見て居たからだ。
これでもまだ幼い時はそれが嫌で泣いたこともあるが、何時からかそんなやつらを見くだすようになっていた。
自分を知りもしないでただ伝承に踊らされているバカなやつらと・・・。
そのころだろうか、森に出掛けるようになったのは。
もし自分が本当にこの森で生まれたのなら親と言う者がこの森にいるのでは無いだろうかと思っての事でだ。
否定するにしろ肯定にするにしろ真実を知ってからでも遅くは無いと思ったからだ。
それに森に居る方が心が落ちついたからね。
嫌味を言われる事も無い・・・ただただ美しい物を見ているだけでいいからかもしれなかったから。
ふらっと精霊でも顔をだしそうなそんな感じだったが未だ精霊と呼ばれるものに会った事は無い。
ただ居るのかもしれないが僕には見る事も声を聞く事もできなかったね。
何時からか親を探す事よりここが自分の居場所のような気がしていたからだ。
あても無く森を歩き疲れれば休むか家に帰る。
それが僕の中での当たり前にてなっていた・・・だからか、親がわりであるルバの言葉を余り聞いていなかったのは。
今では僕よりこの森の事を詳しい者は居ないと勝手に思っていたからである。
だがそれが仇になった事は後にも先にもその日しかなかった。
その日の朝、ルバに「最近森の中で狼を見た奴がいる」と言われたがそんな事はすぐに忘れていた。
自分はまだ会った事がなかったからだ。
昼頃だっただろうか?何時ものように歩いて居ると前の茂みが不自然に揺れたのである。
この時になってやっとルバの言葉を思い出し僕は後ろを向いて逃げ出そうとしていた。
逃げる事、それしか僕には出来ないから。
だが後ろを向いたのは間違いだったかもしれない。
茂みから飛び出してきた狼の爪の洗礼を背中に受けたのである・・・。
激痛が走るがとにかく走る事・・・それが今の僕に出来る事だった。走って村に帰る事。それが唯一助かるてだてだと思って居た。
だが背中が痛い・・・思うような早さで走れない・・・。
ゆっくり近づいて来る死の恐怖。
だが僕はこんなとこで死ぬつもりはこれっぽっちもなかった。
だがそう思っても死ぬ時は死ぬ・・・それが定めと言うものである・・・が僕は運が良かったみたいだ。
きゃんきゃんと声が聞えたので足を止め振り向いて見ると狼が逃げて行くところであった。
助かった。だがどうして助かったかよくわからなかった。
とにかく助かった事を何かに感謝していたら前方から、
「大丈夫か?人の子よ」
声からして女の人だった。見てみると、淡い金髪にエメラルドグリーンの小柄な女性だった。
が、人ではなかった。その耳は長く森の妖精、エルフである事を覗わせていた。
「君、君はあのエルフかい?」
エルフは微笑むと、
「エルフを見るのは初めてと見えるがそうか。だがそれだけ話せれれば大丈夫だな」
「話せるから大丈夫と思ってほしくないよ。僕は今、背中がとても痛くてね」
「それはすまぬ。そうだな・・・」
と言うとエルフは持っていたリュートを構えると歌を歌いだしたのだ。
僕はいきなり何をするのかと言う思いがあったが、その歌を聞いていると背中の痛みが少しずつではあるが消えて行く感じがした。
いつのまにか僕はその歌に聞きいっていた。
しばらくして、
「これで少しは楽になったのではないか?」
「確かに痛みはだいぶひいたよ。今のはなんなんだい?」
エルフは微笑むと、
「それは良かった。だが手当てはしかとするように。
呪歌、旋律を使い魔法を引き出すもの」
「呪歌・・・」
それは今までの中で何か1番衝撃を受けたものだったからだ・・・。
「それでは気をつけるのだぞ」
と立ち去ろうとするエルフを僕は、
「よかったら僕の村にこないかい?良い目で見られはしないがお礼ぐらいはさせてほしいね」
「お礼などいらぬ。そんな物欲しさにしたのでは無いからな」
「なら・・・」
と言って僕は自分の村に纏わる伝承を歌の様に語った。
それは僕が初めて語った歌でもある。
初めてだから下手ではあるがそのエルフは、
「なかなかの物だな。良い歌い手になれるぞ」
「それはどうも」
その言葉を交わした後エルフは森の中に消えて行った・・・まるで森に溶けるように。
そして僕はこの出会いのおかげで進む道を見つけた気分であった。
村に残る伝承を語り、歌を紡ぎ後に残す事・・・それが僕のやりたいことだと。
その後、僕は傷が癒えてから村を出た。
多くの伝承、歌に会う為。そして、まだ見ぬ物をこの目で見る為。
この時より僕は名前を変えた・・・アイシェン・リーと・・・それは唯一この村との繋がりを現す物。
この村に残る古い言葉で”森から来た者と”言う・・・それが1番僕にあっていると思ったから・・・。
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