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No. 00015
DATE: 2001/01/09 10:40:34
NAME: ブルー
SUBJECT: 陽気な生徒と青空教室
「おう、メリープお嬢か。久しぶりだな」
「お久しぶりですぅ、せんせぇ。今日は、この前言ってた新しい生徒さんを連れてきましたよぉ☆」
平日の昼下がり、とある陽当たりのあまりよろしくない路地裏。
かといってスラムという雰囲気ではなく、ただ単に路地の突き当たりと言うだけなのだが。
そこは、”元”冒険者、ブルーの家に近い場所であり、彼が楽器や歌の先生として学校を開く場所でもあった。
そこそこ静かで、騒音を立てても特に何も言われない、格好の場所だったりする。
「で、誰だい?俺なんかの生徒になりたいって言う物好きな奴は」
と言ってブルーはキョロキョロと辺りを見回す。それらしい人影はどこにも見当たらず、ブルーは眉を寄せる。と。
「うにゅぅ!オイラはここにいるにゅ〜!」
足元の方で何やら声が聞こえる。ブルーは声につられて足元を見つめ……絶句した。
ピエロの格好をした草原妖精が、くるくる踊りながら叫んでいた。その手にはグラスランナー用の小さい笛を持ち、ぶんぶんと振り回しながら。
「分かった分かった!分かったから踊るな!楽器を振り回すな!」
「にゅーにゅーにゅー☆オイラはパムル♪笛を教えてくれるって聞いたからメリープ姉ちゃんと一緒に来たにゅぅ♪よろしくにゅぅ、センセー☆」
自己紹介の間もパムルは動きを止めない。思ったより騒々しい生徒を目の当たりにして、ブルーは内心溜息をついた。
(グラスランナーってぇのは初めて見たが……みんなこういうおめでたい奴なのかぁ……?)
「じゃぁ、すみませんけどぉ、私今日は用事があるので、これで帰りますねぇ。」
こうしてメリープがいなくなった後、パムルは、
「早速オイラの笛の音、聞いてみて欲しいにゅぅ!」
と、張り切った様子でパムルは横笛を唇に当てて吹き始める。が、音はほとんど出ない。
「あれぇぇ?おっかしぃなぁ〜?前吹いたときはちゃんと音出たのにぃ〜」
何度くり返してみても、すぅーーーっと言う息の音がするだけ。そんなパムルの様子を、ブルーは見るとはなしにに見ていた。
(ばーか、あんなんじゃ音は出せねぇよ。こういう笛ってのに吐きだす息を全部入れたって音は出ねぇんだって)
とうとう自力で音を出すのを諦めたパムルは、またもや踊りながらブルーに訊ねてくる。
「どうしちゃったのかな?笛が壊れたんじゃないよねぇ?」
「……あったりまえだ。あんなんじゃ音なんて出ねぇよ。
……ちぃと、この笛俺に貸してみ?」
パムルから笛を預かると、ブルーはその笛の小ささに苦心しながら唇を当て、息を吹き込んだ。
ぴぃーーーっ……と、澄んだ高い音が響きわたる。
ついでに何か曲でも吹こうかとふとブルーは考えたが、この小ささでは満足に指が回りそうもないのでやめておいた。
「……こんな小さい笛でも吹いちゃうなんて、兄ちゃんスゴイにゅぅ!どうすればそういう音が出るようになるんだにゅぅ?」
「えっとだなぁ……」
と、言葉にして教えようとしたが。
「やったーこれでオイラも笛が吹けるようになるにゅぅ〜♪」
ひときわ元気に踊りまくるパムルに、どうやって笛を教えたらいいものかと、ブルーは真剣に悩んでいた……。
「まず、カラの酒瓶かなんかを探してきな。一本でいい。」
「へっ?」
突然のブルーの司令に、パムルは面食らったようだった。
「何に使うにゅぅ?酒瓶なんて〜。」
「こういう笛の吹き方を教えてやるためだよ。早く行って来な」
そう言うと、パムルは納得したようで、心当たりがあるのか一目散に走りだしていく。さすがに草原妖精、アッと言う間に姿が見えなくなってしまった。
そして、手ごろな大きさの酒瓶を抱えて、アッと言う間に走って戻ってきた。
「……話では聞いていたが、ほんっとにお前達の種族って足が速いのな……。
まぁいいや。まずコイツで音を出してみな。」
そこで棒を取り出し酒瓶を叩こうとしたパムルにゲンコツを一発見舞って、ブルーは大声を張り上げる。
「瓶を叩いて音を出したって、笛の練習になりゃしねぇだろうが!」
「ブルー兄ちゃん痛いにゅぅ!だって『音を出せ』って言ったじゃないかぁ〜!」
「あぁ、俺が悪かったよ!だから踊りながら訴えるなぁぁっ!!」
ようやく落ちついて、パムルは酒瓶に口を寄せ、息を吹き込んでいる。しかし、なかなか音が出ない。
「吸い込んだ息の全部を瓶に入れようとするな。半分くらいは、シルフに返すつもりで吹いてみな。」
ブルーのアドバイスを受け、パムルは思いきり息を吸い込み、唇を真一文字に引き結ぶ。頬の筋肉がひきつってくるが構わず、唇は引き結んだまま下唇を少しだけ突きだし、できたスペースから息を吐きだす。
しかし音は鳴らない。
「口はそういうかんじだ。後は酒瓶の角度だけだな。」
ブルーは酒瓶をパムルの顎につけ、息の出る角度と水平になるように調節する。
「よし、これでもう一回吹いてみな。」
さっきと同じような唇の形にして、パムルはもう一回酒瓶に息を吹き込んだ。
ぼぉぉぉぉーーーーっ……と、汽笛のような音が鳴り響いた。
一瞬パムルは何の音だか理解できなかったようだった。が、息が続かなくなって喘ぐように息を吸い込むと、音は消える。
「……今の、オイラが出した音だったん?」
「そう。今の角度と唇の形、覚えてるか?」
頷くパムルに、ブルーは預かっていた笛を返した。
「なら、同じようにこの笛でやってみろ。音が出るはずだ。」
言われたとおりに唇を寄せ、パムルは笛に息を吹き込む……
と、ブルーが最初に吹いたような甲高い音が辺りに響いた。
「……やったぁ♪すごいにゅぅブルー兄ちゃん!オイラもこれで笛吹きピエロだにゅぅ〜♪」
「分かった!嬉しいのは分かった!頼むからもう少し楽器はていねいに扱ってくれ〜!」
こうして、ブルーはパムルに笛を教え終わった。
今回の経験から、もうグラスランナーに関わりたくない、とブルーが思ったかどうかは定かではない。
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