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No. 00018
DATE: 2001/01/26 15:15:27
NAME: クプクプ
SUBJECT: 遺跡と宝と冒険者
《はじまり》
オランからカゾフに向かった、海岸にある洞窟の話は聞いたことがあるかい?昔、錬金術師が怪しげな魔術やら占星術をこっそり研究していたという、あの話だ。その錬金術師は悪魔の化身だって人もいたがな。まあ、そんないわく付きな場所だ、地元の奴らは近づきはしなかったらしい。
錬金術師が死んでからは、その洞窟は塞がれ、入り口が分からなくなっていたんだが、海鳥の卵を取りに行った男が迷い込んで入り口を見つけたんだとよ。なんでも、あの洞窟の下から、古代王国時代の迷宮が現れたって話だ。
興味があるなら行ってみるかい?なぁに、あんたには安くしとくぜ?
この情報を持ちかけられたのはグラスランナーのクプクプ。
グラスランナーの累に漏れず、好奇心旺盛で突拍子もないことが大好きな彼は情報を買った(もちろん即)。
未踏の迷宮、こんな面白そうなモノみすみす逃す手はない。懐は寒くなったがまあ、好奇心を満たしてくれるものへの投資には変えられない。
クプクプはその足で意気揚々と、冒険者の店へと向かいメンバーを募った。しかし、酒場で彼の話を聞いた髭のオヤジはむしった鼻毛を「けっ!」と吹き飛ばし、ハーフエルフは「つるかめつるかめ」と逃げていき、ドワーフには追っかけられ、女剣士にはあっちいけと蹴られたりした。
それでも懲りずに手を変え店を変え人員を探していると、流石に世の中は広いちゃんと冒険者は集まった。
剣士のキャスとリオス、ラーダ神官のグレアム、魔術師のカリ。
彼らは金に困っていたり、研究熱心だったりとそれぞれの理由でクプクプの話に興味を持ったメンバーだった。なにはともあれこれでやっと冒険に出られる。やれやれ。
《まずは入り口》
そ〜んなわけで、オイラ達一行は、カゾフへ至る海岸沿いにやってきた♪
情報屋に渡された地図をひっくり返したり裏返したりしながら、やっと目的地にたどり着く。海から伸びる砂浜、その直ぐ後ろは切り立った崖になっていて、優に30メートルはある感じ。上から落っこちたらさぞかし痛いだろうね〜。
地図によると、洞窟の入り口はこの崖の中程くらいにあって、下からみるとごつごつとした岩肌に隠され入り口が影になって分からないようになっている。
とりあえずオイラ達はあたりを見渡す。けれど、入り口までは道と呼べるものなんかなく、キャスとリオスが岩から岩へと登って行く他はなさそうだなどと相談中。
「結構、高い・・・」
海からの強い風に、顔に手を翳しカリが見上げる。それでも登るしか手段はないんだって。しかもここはまだまだ序の口って感じだよ、多分。だってそうじゃなきゃつまんないってばさ♪
「俺達の後に付いてきな。登り方は三点支持を忘れないように」
既に岩肌に手をかけながらキャスが、カリとグレアムに声をかける。
ちなみに、一人華麗にひょいひょいと登っているオイラは、リオスの二馬身(?)くらい上で余裕の鼻歌なんかを歌ったりして余裕しゃくしゃく〜♪
オイラの後ろはリオスとキャス、普段から体を鍛えているにーちゃん達も器用に登ってくる。キャスは、たまに振り向いてはグレアムとカリを確認。そして、グレアムとカリは足場の悪さに蹌踉けたり足を踏み外したりと悪戦苦闘。これだから机にしがみついてる学者さんはね〜。
「三点支持じゃなくて四点支持なら楽なんですけれど・・・それじゃ進みませんよね」
そう苦笑するグレアムは、早くも体力を使い気味。溜息と共に、よっこらせと岩場を登ってくる。
そんなこんなで、やっとこグレアムとカリが無事に洞窟に到着すると、既にキャス、リオス、オイラは洞窟の一番奥、遺跡の入り口となっている下り坂の前で待っていた。
「おっちゃん達、遅いってばさ!ここ!ここ!この穴から入ればお宝が手に入るってばさ!早くいこ〜よ!」
オイラが待ちきれずに飛び回っちゃったてば。
「ここからが本番ですね」
リオスが確かめるように腰の剣を手を当てた。
「今度は下りですか・・・」
やれやれと言ったふうにグレアムは溜息をつく。
《最初の仕掛け》
今度は登ってきた崖ほどはきつくはないけど、ず〜っと長い下りが続く。
しばらく歩くと最初は自然の岩肌だった通路が、突然人工的な石積みに変わってきた。通路の先にある石で出来た門のような入り口をくぐると、中はまたもや下りの通路になっており、両側の壁には黒い石で植物かなんかのレリーフが施されている。
「段々らしくなってきたね〜♪」
先頭を歩いているオイラ。いまんところ罠とはないけど、ここってホントに手つかずの遺跡だってばさ♪なんかわくわくするね〜。
「この辺は海の下になっているんでしょうね」
オイラの二こ後ろ、丁度真ん中を行くグレアムはしげしげとレリーフを観察し、
「カストゥール時代中期のものでしょうか・・・」
レリーフに触れようとしたが、伸ばした手を引っ込めた。賢明だよね。ここは遺跡で、どんな仕掛けが何処にあるかも分からないもんね。
通路の先は、ちょっとした広間と言った感じの部屋になっていた。壁にレリーフが有る以外、コレといったものは何も無く、入ってきた正面に扉。これは、もちろん固く閉ざされていて、最後を歩いてきたリオスが部屋には行ったときにはすでに、オイラが扉周辺をいじくり回していたけどね。
「開きそうか?」
キャスがオイラの後ろから声をかけてきた。
「ん〜〜ここ自体には扉を開く仕掛けがされてないみたい。どっかと連動してて、仕掛けを外さないと開かないって感じ?」
そう言いながら細長い針金のようなモノを扉の隙間から抜く。
「どっかと言っても・・・この部屋には何もないですよ?」
リオスがきょろきょろとあたりを見回す。
「あ、あれ?」
「どうしたの?」
つられてきょろきょろしていた魔術師がリオスの視線追う。
「あそこ、穴が空いてます。ほら、レリーフの影になってますけど・・・」
みんな、リオスの指す方を見る。そこにはリオスの背の高さくらいの所に、人が手を通せそうな空洞があった。
「ほら、お前の出番だろ?」
キャスがオイラを肘で突っついた。
「オイラ、背が届かないってば♪」
「肩車してやるぞ?」
「それでもオイラの腕は人間より短いからダメだって♪」
にんまり微笑んだオイラを見て、みんなが溜息をついた。
キャスは困ったようにリオスに視線を送る、その視線を彼はカリに、彼女はグレアムに送った。誰だって訳の分からないところに手を突っ込んでみたいと思う者はいないよね。だって罠があったり、毒をもつ虫がいたりしたら・・・そう考えただけでも鳥肌もんって感じ、だしょ?。
一瞬の沈黙。動いたのはキャスだった。キャスは顔を上げると剣を空洞に差し込んだ。奥に固い物があるらしく空洞の中で剣を何度か動かす。罠が作動したり生き物の気配は無いのを確認すると、一気に剣を抜き自分の右手を突っ込んで奥にある鎖を引っ張った。
奥で何かが重い音が響きゆっくりと扉が上に持ち上がる。キャスは焦げ茶の前髪にふーっと息を吹きかけ「さ、行こうぜ」一行を促した。
さすがにーちゃんカッコイイー♪今度からあやしトコあったらにーちゃんに試してもらおっかな。
《罠》
さて、どんどん進んでいくと、目の前に現れたのは登りの階段。先頭を歩いていたオイラは急に足を止める。
「どうかしたか?」
直ぐ後ろを歩いていたキャスが上からのぞき込んだ。
「そこ、罠はっけ〜ん♪」
これは間違いないってばさ。あの形状は罠罠罠♪ほらあそこ、短い指で目の前の通路を指す。
「通路の壁にここからずっと向こうまで均等に溝があるっしょ?」
壁には床から天井までの指が入るくらいの狭い溝が見える。オイラはその周りを軽く調べてみる。
「ここを通ると刃がシャッキーンって出て来ると思うよ〜。引っかかったら縦に真っ二つって感じ?」
ニコニコして報告。
「それは解除できませんか?」
グレアムの質問にオイラはふるふると首を振る。
「ん〜、それは無理」
「おいこら、それじゃ渡れないじゃないかよ」
後ろからキャスがオイラの頭を小突く。人間てすぐ人の頭を小突くよね、まったく野蛮なんだから。
「ん〜、それは大丈夫〜だってばさ♪何処を踏めば罠が作動するかは、多分わかるから。みんなオイラに付いてきてちょ〜」
そう言い残して軽快な足取りでひょいひょい階段を上がってく。
「あんたねー、多分なんてあやふやな事言ってるけど本当に平気なんでしょうね?」
五段目まで上がって、カリの声に振り返ると、誰も付いてきてなかった。なんで?
「大丈夫だってば。罠が作動しても、ちょっぱやで走って抜ければいいってばさ♪」
ホントかよと言いたげな4人の顔を見えなかったことにしてに、オイラは先に進む。
「ほらほら早く行かないと、オイラ先に行っちゃうよ?」
危険なのはオイラも承知。でもね、ここの罠は大がかりで外すのは無理。んで発動させたら危険かもしれないけれど、手つかずの遺跡を引き返すなんて嫌だも〜ん。ま、この辺はオイラの腕の見せ所?
「ああ、待ってよ!」
カチリ。
踏み出したカリの足下で鈍い音がした。同時に後ろに蹌踉けるように尻餅をついて倒れたカリの、足先3センチのところをヒュンと風が斬った。
「大丈夫ですか?!」
真っ二つになるはずだったカリを、後ろに引き戻したのはリオスだった。
「・・・・・・・・」
カリは体が硬直して言葉を失っている。
「ね?早く来ないと危ないって言ったでしょ?」
オイラはこれでもかってくらいニカニカして、上の踊り場からカリを見下ろしてあげた。
みんなが恐る恐る階段を上ってる間に、オイラは階段の一番上にある台座を発見。調べてみると台座には鍵穴があって、そこに銀色の鍵が差し込まれている。なんかの装置みたい?
鍵をそっと廻してみる。カチリと手応えがあったが、周りに変化はなかった。
ん〜、多分この罠の解除だと思うけれど、カリのへっぴり腰を見てるの楽しいから黙ってよっと♪
《迷路》
そんなこんなで階段を上りきり、オイラ達は上の通路へとたどり着いた。今度は狭い通路で、横幅は人一人通のがやっと。そんな細っこい通路に入ると直ぐにTの字に別れていて、ランタンで照らして見える程度では、その先がどうなっているか分からない。とりあえずここは左の通路に進んでみる。
左の通路の先はしばらく進んだ先が、右に曲がっていて、さらにその先はまたもT字に別れている。
さて、どっちから行ったもんかな〜。
「どうするの?これじゃ迷路じゃない」
後ろから、不安混じりのカリの声が飛んできた。
「ん〜、心配ご無用〜オイラにお任せ〜」
オイラは懐から、盗賊ギルド御用達のインクと筆を取り出す。分かれ道の角にマークを書き込んで・・・これで迷子にはならないっと♪
「用意がいいですね」
オイラの盗賊ツールに感心してるグレアム。
「鍵ならこれくらいのモノ持ち歩くのがエチケットだってばさ♪」
いくつかの分かれ道を経て、どんどん奥へと進むオイラ達。途中行き止まりに舌打ちしながら、着々とマッピングが出来上がっていく。迷路は随分と複雑だけれど、今のとこ迷子にだけはなってない。
12個目の別れ道のマークを書き込んで、先へと進んだ途端、黒い物体が前方から走ってくるのが見えた。もしかしてモンスター?っていうかこんな所で前方から迫ってくるのなんて、モンスター以外考えられないって。
「わきゃきゃきゃきゃきゃ」
さっきも言ったけど、この通路狭いから人の入れ替えがちょい困難。出来たらオイラは後ろに下がりたいんだけど、かなり無理。
「クプ、しゃがんでろ!」
モンスターに痛くされるのと、仲間の攻撃のとばっちりで痛くなるの、どっちも嫌なので、キャスの言葉に団子虫みたいにまるまるオイラ。
迫ってくる黒い物体はつやつやした質感以外は、わんことまったく同じに見える。キャスは剣を抜かないまま、柄に手を掛けて、わんこが近づいてくるのを待つ。そして、わんこがこちらに飛びかかった瞬間、剣を抜きその勢いでわんこを斬り捨てた。ちょっと変わった剣術だけど、もしかしたら曲剣用の剣術なのかもしんない。
緊張して息を止めていたみんなんが、ふぅと安堵の溜息をついた。が、次ぎの瞬間に、一番後ろを歩いていたリオスが、短く声を上げて倒れた。
今度は何だ!何だ!振り向くといつの間にか、前から来たのと同じ黒いわんこが背後から襲ってきて、リオスの上にのしかかっているってば!
倒れたリオスの上に乗っかって、首を狙って牙を剥く。リオスの方はそれを防ぐのがやっとの様子。こんな状況でも、入れ替え不能なこの通路じゃ助けに行くことも出来やしない。それ以前に3人が邪魔でよく見えないって。
ってなことをやってる内に、急にわんこが、もんどり打ってはね飛ばされた。うにょ?リオスを救ったのはカリから放たれた一筋の光の矢だった。グレアムとキャスとオイラが、入れ替わろうと絡み合っている間に魔法の詠唱を唱え、光の矢をわんこにぶつけたらしい。おにょ、魔術師ねーちゃん結構やるねぇ。
結局わんこは、直ぐに起きあがったリオスに切り捨てられた。リオスの方はちょっち怪我を負ったみたいだけど、グレアムがちょちょいのちょーいって治してくれたんで、大事にはならなかった。
《謎解き》
次ぎに出た部屋はわりと大きく、入って右側に小さな泉。正面には大きな天秤が左には重りで、右の皿には空の水差しが置いてあり、天秤は重りの方に傾いている。
天秤の置いてある所から見て、左側の壁は鉄格子になっており、その先は暗く見えなかったが、時折遠くからうめき声のようなものが聞こえ、どちらかというと避けて通った方がいい「何か」が居ることは間違いない。
「この天秤は何に使うんでしょうか?」
リオスが天秤には触れないように水差しの中をのぞき込む。
「俺、こういうの苦手・・・」
ランタンを掲げながらキャスが呟く。
「ねえ、こっち見て」
カリが指をさしたのは、泉のわきに掛けられていた、大きさの違う二つの水袋。大きい方のそこには上位古代語で「5」と書かれ、小さい方には「3」と書かれてあるらしい。
「これで何すりゃいいんだ?」
水袋を手に取りキャスが誰にともなく質問する。オイラに聞かれてもわっかんないよ。
「多分「5」の水が入る袋と「3」の水が入る袋で「2」の水を作り、天秤の水差しに入れるんでしょう」
「なんで分かるのよ」
さらりと答えたグレアムにカリは訝しむ。
無言でグレアムは床を指さした。みんなの足下には、モザイク画で二人の人間が描かれており、二人の間には水差しが描かれ、その上には二本の棒が引かれていた。さすが石屋、めざといね♪
「んじゃさ、んじゃさ早く水を入れてみてよ!でも、「5」と「3」の水袋しかないのに「2」なんてどーやっていれんのさ」
騒ぎ出すオイラの頭をキャスがぐっと押さえつける。
「わかんないからって、適当に水いれんなよ。あっちの唸っているヤツと対面したくないんだったらな」
もちろん、にーちゃんが言ったあっちとは反対側の鉄格子のこと。いくらオイラだって、そこまでムボーじゃないってばさ。
「大丈夫ですよ。「2」の作り方は分かりますから」
グレアムが微笑む。
「マジ?どうやってやんの?」
「簡単な計算です。さて、「5」引く「3」は幾つですか?」
「2!」
「正解です。それがこの謎の答えですよ」
そう言うと、「5」の水袋に水を入れて今度は「3」の水袋に水を移す。「5」の水袋に残った水を天秤の水差しに移した。
水の重さで天秤がゆっくり傾き、重りと水差しが水平になる。カチリと音がして、天井の一部が開き、梯子が降りて来た。うひょ〜おっちゃん見かけによらず結構やるねぇ♪。
梯子を登ると、上の部屋は下の部屋と全く同じ作りで、唯一違うのは床のモザイクの棒の数が一本になっていたことだけ。また同じなぞなぞってことね。
「次は「1」かよ・・・わかるか?」
キャスがグレアムに尋ねる。
「ええ」
グレアムは泉に近づき「3」の水袋に水を満たす。それを「5」の水袋に全部移す。空になった「3」の水袋にもう一度水を満たし、「5」の水袋にいっぱいいっぱいに入れる。
「3」の水袋に残った水。
「これで、「1」になりました」
水を水差しに入れ、天秤を水平にすると、またカチリと音がして天井の一部から梯子が降りてきた。そして、上の部屋はまたもや同じ作りで、床の棒が今度は「4」になっていた。オイラ達はグレアムに任せっきりで考えるのを放棄している。やっぱり役割分担ってあるよね〜。
ここでも、あっさりとグレアムが水を作りだした。
まず、最初の部屋で作った要領で「2」を作る。「5」の水袋に入った「2」を「3」の水袋に移す。空になった「5」の水袋に泉で水を入れる。これを「3」の水袋に入れれば、「4」の水が残る。
あっさりと謎を解いたグレアムに一同拍手を贈った。
「いや〜さすが石屋さんって感じ?」
オイラの誉め言葉に何故かグレアムは苦笑いを返した。
《そしてお宝は》
どうやら、天秤の謎はこれで終わりのようで、梯子を登るとそこは今までと違い、部屋の壁や天井に凝った細工のされている通路へ。
用心しつつ通路を進んでいくと、綺麗な装飾のされた部屋に出た。壁には色とりどりの植物や動物の絵が描かれ、三方の壁に沿って(入ってきた扉の壁以外ってことね)大きい3っつの真っ黒な箱が置かれている。部屋の真ん中には、小さい屋根の着いたような箱。うにょ?多分あれって。
「棺・・・かな」
カリが呟いた。オイラもそーおもった。かるーく部屋を調べてみたけど、入ってきた通路から以外は先に進む道がない、ってことはこの遺跡ってこの棺の主の墓場だったんだねぇ。
みんな注意して棺に近づく。キャスとリオスが押してみるが、棺は重い蓋に固く閉じられていてびくともしない。が、みんなの目は蓋にはめられている、宝飾品に留まっている。星形のそれはルビー、サファイア、エメラルド、トパーズがちりばめられてあって値が張りそうな品物に間違いない。
それじゃま、遠慮なく。オイラは棺の上によじ登り、蓋から装飾品を小型の金梃子で器用に外してみせた。
「あ、オイこら!」
キャスに首根っこもって棺から引き下ろされる。
「だ〜いじょうぶだって〜。罠なんかなかったし〜それにココが・・・あ」
オイラは最後まで言い訳できなかった。だって、なんか重たいモノを引きずるような音、そして音の方を振り向くと壁沿いにあった三方の黒い箱の蓋が開きかけていた。
「おもいっきりトラップじゃねーかっ!!!」
キャスはオイラを放り出すと腰の剣に手をかけた。放り出されたオイラといえばコロコロ転がって部屋の隅まで。
オイラの知識が正しければ、これまで箱のトラップと言えば中から毒が吹き出したり、針が飛び出したり、呪いがかかったりとそんなところ。でもこのトラップはそんな優しいモンじゃなかった。
開いた箱の中から這い出してきたのは、体中に茶色い布を巻かれた、包帯人間。あ、モンスターだから人間じゃないか。オイラ見るのは初めてだけれど、あれが歌で聞いたことのあるミイラ、だとおもう。
「・・・あれは!ミイラよ!」
カリが叫んだ。やっぱりね。ミイラは既に箱から体を完全に出し、オイラ達を認識したみたい。目は包帯で隠されて見えないんだけれど・・・体全体でオイラ達を狙ってるのを感じるもん。コレってかなりヤバそう。
「ここは引いた方がいいですね、急いで!」
リオスはグレアムとカリを引いて、入ってきた扉の外に走らせる。その後ろにオイラが駆け出す。更に後ろでキャスが剣を構えながらみんなの殿を勤める。
既に扉の外に出たリオスとグレアムは、入り口を閉めようと両側から扉を押している。
「早く!」
カリの声に答えて、オイラそしてキャスが扉の外に飛び込む。同時にリオスとグレアムが扉を閉める。が、後ちょっとで閉まるってとき、そうオイラの頭くらいの隙間から扉をこじ開けようとしているミイラの手が挟まった!
すかさずキャスが隙間から剣を突き刺してミイラをのけようとたが、ミイラは既に死んでるから少々痛いくらいじゃこじ開ける力を緩めたりなんかしない。渾身の力を込めて踏ん張るグレアムとリオス。でも人間2人VSミイラじゃ人間の方が押され気味。ん〜これって絶対絶命?
「どいてぇ!」
後ろにいたカリが叫んだと思うと、持っていたランタンを振り回し、扉の隙間からミイラに投げつけた。投げつけられたミイラの方は、割れたランタンからこぼれた油にまみれいきおいよく燃えだした。
干物状態のミイラはぱちぱち燃え、その炎にひるんだ隙に、リオス、グレアム、キャスが扉を閉めて、カリに施錠の魔法を掛けてもらう。
暫くみんなその場に座り込んで喋ることも出来なかった。最初に口を開いたのはグレアム。
「みなさん怪我はありませんか?」
彼の問いにみんな首を振る。そんときオイラとっても重要なことに気が付いたけれど黙っていた。みんなが忘れているならそれでいいんだし。
「そういや、クプ。お宝はどうした?」
ん〜、やっぱり覚えていたか。キャスの問いにオイラは言葉を探すように視線を漂わせる。
「えへ♪」
「えへ♪・・・じゃねーよ。オラ出せ」
「出せって言われても、オイラ持ってないもん♪」
「へ?」
キャスは鳩が驚いた様な顔をした。
「だって、にーちゃんが投げ飛ばすから、オイラの手から離れて転がってちゃったんだもん♪だからあのなかにあるよ」
ミイラの部屋をオイラは指さした。アレ?カリねーちゃんの顔が般若みたいだけど。
「なんでぇすってぇ!?あんな大変な目にあったのにぃ!」
ねーちゃん苦しい!首締めたら死んじゃう〜!ぐららん殺し〜!
「確かに残念ですが。皆さん無事だったのだからそれくらいに・・・」
グレアムの言葉にカリは渋々オイラから手を離す。もちろんグレアムだってがっくりきている、でもそこは大人。なんか風当たり強いからグレアムの後ろに隠れてよ。
「取りに行きますか?」
「遠慮するわ・・・」
遠くを見るようなリオスの問いにカリは掠れた声で答えた。
《帰路》
オイラ達は遺跡から這い出ると、来たときと同じ時間を掛けてオランに戻った。みんな言葉少なく、まるで絞首台に向かう死刑囚といった感じだった。
今回の冒険は、死ぬような思いをして疲れ果て、手持ちのお金も落としてるんだから仕方ないっか。
忌々しいくらい青々した空の下に見慣れたオランの街が見えてきた。
「やれやれ」
深くため息をつくカリ。
「なんか疲れちゃった・・・」
艶のある黒髪を億劫にかき揚げる。
「それじゃ、帰ったら酒場で一杯やりにいきますか」
疲れたみんなを労わるようにリオスが努めて明るい調子で言った。
「賛成♪」
即座に答えたオイラの肩をキャスがぽんぽんとたたく。
「・・・お前のおごりでな」
「ひょえ〜〜」
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