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No. 00019
DATE: 2001/01/28 01:41:19
NAME: レン フォルネ
SUBJECT: 吟遊詩人の睦言
※この話は513年1月15日前後のものです。
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オランに戻ったレンは、きままに亭で先日出会った女性(フォルネ)が働くという幻燈館に足を向けた。
彼女の手渡した紙片にその場所は記載されており、オランの街の北部、裏通りに面した大きな流行りの娼館だった。言葉どおりに店を訪れたレンを出迎えたフォルネは第一声、
「ホントに来てくれるなんて思わなかった〜☆」
明るい声を上げ、レンを館の一室に招き入れた。
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ペッドに腰を下ろしブーツを履くレンの背中に、横たわったフォルネの声が投げかけられる。
「ねぇ、髪、下ろさないの?」
「なんだい?」
華奢ではないが、男のわりに細い背と両肩。薄く広がり下ろされた長い銀の糸。肉厚としては、羽織ったシャツの上から、背筋の線がわずかにそれと分かるていど。冒険者としてそれなりに硬く引き締まった身体つきをしている。
「貴方の髪。吟遊詩人なんだったら、下ろしたままのほうがそれっぽく見えない?」
「これか。……鬱途しくてね」
困ったように苦笑するレンに、フォルネは目の前に広がる銀の房をつまんでみせた。
「なんだかもったいない。真っすぐで折角綺麗な髪なのに。女のあたしが妬いちゃうくらい」
フォルネが上体を起こす。ベッドがきしみ、わずかにシーツが衣ずれの音をたてる。フォルネは顔を近づけるようにして真っ向からレンを見つめた。
「それに貴方、髪を下ろした方が絶対、イイ男よ」
くすくすと陽気に笑う。
「そうかい?」
「そうよ。それに、そっちのほうが年相応だし。きままに亭で会ったとき、二十歳ぐらいだと思っちゃった」
「そりゃ、ひどいな」
レンはひとりごちる。フォルネはそれを思い出すかのように笑い、ふたたび質問する。
「貴方、ゲイルたちと一緒に遺跡堀りに行くんですって?」
「ゲイル……ああ、あのぼさぼさ髪の男か。あの全身黒ずくめの男は?なんだか、知り合いだったみたいだけど」
「ガイアさん?彼、うちのお客さんでもあるのよ。お相手は私じゃなくて、マイラ姐さんの、だけど」
「多分……、おそらくあのとき店にいた連中と遺跡には一緒に行くことになると思う。……ま、最低もう一人、仲間を募らなきゃいけないが」
しばしフォルネは考える素振りをみせ、上目遣いに告げる。
「ふ〜ん。だったら、言っておくけど。ゲイルはともかく、あの司祭だって言うお坊っちゃんには気をつけたほうがいいわよ。……くすっ、これは貴方がイイ男だから、親切でしてあげる忠告」
「……なんだって?そりゃどういう意味だい」
くすくすと笑うフォルネに目を瞬き、レンが問いかける。
「さぁね。どちらにしろ、遺跡に向かうのは私じゃないし」
意地悪い笑みを浮かべるフォルネ。彼女がこの状況を楽しんでいるのは明らかだった。
「そこをなんとか教えてくれないか」
情けない声を出すレンに、ちょっとは気が晴れたのか、考えるふりをするフォルネ。
「ん〜と、どうしようかな〜。そうね、帰ってきたときに、また私を悦ばせてくれたら、かな」
そうしたら考えてあげてもいい、とフォルネは付け加えて頷いた。
また帰って来たときにということは、エルに気をつけろ、という事柄はすくなくとも直接遺跡に関わるものではないのだろうか。とっさにレンは考え、それで答えが出るわけでもなく、仕方なしに首を振る。……まあいい、会って話せばすっきりするだろう。
ベットから立ち上がり、息を吐いて手を挙げる。
「分かったよ。色白のお嬢さん。それじゃ、それまでこれはお預けだ」
「あら、それなぁに?」
外套の中から取り出したらしい、レンの手の平にあるそれを見て、フォルネは小さな声を上げ、次に軽く失望したように肩をすくめた。
「なぁんだ、ただの小瓶じゃない」
「これでも?」
レンは透明な液体の入った小瓶の蓋を指でわずかにずらし、フォルネの顔先に近付ける。
部屋にかすかな甘い芳香が流れた。
「あら……香水ね……これは、花の香り?」
「そう。バラとジャスミンを配合した特別製。お気に召したかい?」
「ええ。……これ、私に?」
目をぱちぱちさせながら、声に嬉しげな響きを乗せるフォルネにレンは内心舌を巻く。ここまで大げさに感心してみせると、なんだか逆に気抜けしてしまう。……まあ、いいか。
フォルネの片手を取り、高価な香水の瓶を手渡す。
「おれ以外の男の前でつけてくれるなよ」
「もちろんよ」
笑いながら言いつつ、それが嘘であることぐらいレンにも分かっている。だが、彼女のイメージにぴったりだと思ったから渡したのであって、それほど気にするものでもなかった。
「ありがとう。素敵なプレゼントのお礼に、いいことを教えてあげるわ。ちょっと耳を貸して?」
首をかたむけるレンに、フォルネはベッドに膝をついて、ひそひそと何ごとかを耳打ちする。
「……ね、……で……。それ…………。ね?」
フォルネの話に耳を傾け、レンは頷いて笑う。
「助かるよ」
「どういたしまして。サービスしてあげるから、また来てね☆」
「ああ、もちろん」
そう言ってレンはフォルネに別れのキスをし、娼館の一室を後にしたのだった。
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