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No. 00023
DATE: 2001/02/07 01:13:34
NAME: ビィ
SUBJECT: 守り通して手に入れた秘密
「冒険者の仕事をしてみたい。」
以前冒険者達がよくいる宿に行った帰り道、ジャスティアはそう言った。
そしてその頃、ジャスティアの父親からパダに商品を運ぶ仕事の手伝いを私にして欲しいという頼みがきた。
機会は多いに越したことはない。
ジャスティアに商人の勉強をさせるためと言って、なんとかパダに向かう商隊の一員として連れて行きたいと願い出てみる。
数日間の説得によって連れていけると確定したのは、出発前日の夜だった。
そして翌日。
朝、起きるとめずらしく雨が降っていた。
雨は大きくなかったため多少遅れたものの、予定通りパダに向かう。
雨は細かく、たくさん降っている。
昼頃だっただろうか。
護衛に雇った冒険者の誰か一人が立ち止まる。
それに続いてみんな立ち止まる。
それだけだったが、私にもわかった。何者かが我々の周りを取り囲んでいる事が。
しばらく動かずにいると、街道に5人程出てきた。もちろん友好的な笑顔と、手に持っている抜いた剣や斧を見せびらかしながら。
出てきた5人の中から、ボスらしき男が前に出て来てこう言った。
「有り金、荷物全部置いていけ。命はそれから考えてやる。」
私は商隊の隊長であるグリスに目を向ける。
その頃、横にいる『バリ』という男に小声で声をかけながら、レオンがさりげなく一歩ボスらしき男の方に進み出る。
「あの時みたく忘れてないだろうな。」
しばらくの間があってからポンと手を打ち、剣の事だと気が付いた『バリ』がこう答えた。
「ああ、この通りな。」
『バリ』はそう言いながら剣を抜くと、突然後ろから下から上へとレオンを斬りつける。
「っな・・・」
仲間であるはずの『バリ』に切られ倒れかけたものの、レオンの傷は致命傷には至らなかった。
が、切られた朱色のバンダナが水たまりに音を立てて落ちるのを合図に、周りの森から囲んでいた者達、数名が襲いかかってきた。
その状況に私は慌てて剣を抜き、ジャスティアの手を引いて逃げ出した。
先ほど傷を負ったレオンは、果敢にもバスタードソードを手に取り構える。それを見て『バリ』という男はこうつぶやいた。
「いきなり背中からってのは、いただけないな。」
「お前が言うか!!!」
逆上したレオンが『バリ』に斬りかかるものの、割って入ってきた同じ冒険者である男に剣を止められてしまう。
「なかなかの打ち込み。だが・・・・」
つばぜりあいの状態で二人が止まる。が、レオンの剣が横にはじかれて、一歩前に出てきた男のひじうちを食らって倒れるまでの事だった。
「手間が省けた。助かったよ、ブライアン。」
礼をいう『バリ』にニヤリと笑って返す。
剣を鞘に納めてから持っていたコインを指で器用にはじき手に取ると、身振り手振りをしつつ古代語でうなっていく。
それが終わった時『バリ』は突然向きを変え、盗賊達の方に向かって雷を放った。
雷を食らった中にいたボスらしき男は状況を理解した直後、駆け寄ってきた冒険者の一撃によって首が飛んでいた。
「よくやったクラード。」
「俺はこっちですけど。」
全く別の方向におしみない拍手を送る『バリ』に、クラードの冷めた返事が聞こえるはずがなかった。
すでに商隊は逃げ始め、ボスも倒れたため動揺し逃げ出そうとする盗賊達に気づき『バリ』は大げさなフリで仮面を外す。
仮面を投げ捨て、心の中でつぶやく『ユングィーナ、君のために私が出来ることをやろうではないか。』
逃げ出す盗賊達に向かって、怒鳴った。
「死にたくなくば我に従え!!」
一緒に逃げ出した商隊の者達と離れてしまってから、しばらく。
私はジャスティアの手を・・・・いや、ジャスティアの後ろについて走っていた。
彼の方が私よりも足が早い。子供だからだろうか。いや、この鎧を着ているためだろうか。
それでも少しずつだが追ってきている盗賊達と距離が離れ始めているし、雨が霧に変わり始めている。
今逃げ切れなければかなり辛いものがある。
だが、突然森が終わり絶壁が目の前に現れた。しかも私ではこの壁は上れそうにない。
森の木と雨で視界が悪かったため、気が付かずに向かっていたのだ。きっと盗賊達はここが行き止まりだと知って足をゆるめたのであろう。
「ビ、ビィ兄ちゃん・・・」
ジャスティアの声で我に返る。そうだ、考え込んでいる暇はない。
「こっちへ。」
当てずっぽうだが、壁ぞいに左に走る。
しばらくするとかなり濃い霧になったため、ジャスティアの手を引きながら前を歩く。
それからどのくらいたっただろうか。
ジャスティアの足がかなり遅くなってきたためまずいと思い始めた時、霧の向こうに洞窟のようなものを見つけた。
「もう少し歩いたら休めるから、がんばろう。」
「・・・うん・・・」
その直後、どこからか。
「おい。こっちにいるぞ!!」
「すぐ行く、追いかけろ!」
私は無理矢理ジャスティアの手を引っ張りながら、走り出した。
ジャスティアもふらふらとしながらも、走り出した。
そして洞窟の中に飛び込むと、また奥に向かって走る。
少し奥に行った所・・・すでに真っ暗なのだが、この辺りでとりあえず身を隠そうとした時、カチンという音が聞こえた。
「しまっ・・・」
「あっ・・・」
足下に広がった闇は、この洞窟よりも暗いなと思った直後、意識が飛んだ。
「あたたた・・・」
痛いと言うことは生きている。そう自覚するのと、ジャスティアの事を思い出すのはほぼ同時。
「ビ、ビィ兄ちゃん・・・どこ?」
半泣きの声がすぐ近くから聞こえたため、慌てて腰の袋から火打ち石を取り出し、擦りあわせる。
「この火花が見えますか?私はそこにいます。」
ゴソゴソと音がしてジャスティアが私の肩に抱きつくと、そのまま泣き始めてしまった。
私はジャスティアの肩を掴んで体を離すと、静かな声でこういった。
「泣くのは後です。今はこの状況を打破するために」
とりあえず。
「燃える物を探しましょう。」
目の辺りをごしごしと腕で擦ると、元気よくうなずくジャスティア。
が。
「・・・・・・どーしよー・・・・」
「・・・・・・無いですねぇ・・・」
あれからしばらく地面を探し回ったものの、枯れ木一つ見つからないという成果。
動いていたおかげです鎧の中が蒸れ始めているのを感じながら、ジャスティアと苦笑しあう。
「とりあえず・・・ジャスティア君はどっちだと思いますか?」
「何が?」
私は右左を交互に指さして見せる。
しばらく黙ったあと、ジャスティアはこう言い出した。
「ずるいよビィ兄ちゃん。いっつもそうやって人に決めさせるんだもん。」
「では、同時に言いましょう。」
ちょっと苦笑しながら、ジャスティアに提案する。するとそれならばと、許可が下りた。
「では、せ〜の」
「右」
「左」
・・・・・・・
「ジャスティア君。私はこちらなのですが。」
と言って左を指さすと、ジャスティアは・・・・ジャスティアから見て右を指さす。
ひと笑いした後、左手を壁につきながらゆっくりと歩き出す。
かなりの時間歩いたものの、一向に終わりそうにもない道。
何度目かの休憩の時、ジャスティアのあくびを見て一眠りするべきと判断する。
「先にジャスティア君が寝てください。その後で私も少し眠ります。」
それが必要な理由は言わなくても十分にわかっていたようなので、それ以上の説明はいらなかった。
・・・・・ちょっと寂しいような、説明しなくてほっとしたような・・・
その後、ジャスティアを起こして私が寝たのだが、私が起きた時、ジャスティアが寝ていたのにはかなりびっくりした。
疲れているのも、真っ暗なためと言うのも十分にわかっていたため、何事もなくてよかったと思う。
それからまたかなり歩いた。
先に気がついたのはジャスティアだった。
「風・・・?」
「えっ・・・・ええ。たしかに空気が動いていますね。」
けれどもほんの少し。それの違いがわかったのは、ずっと風のない所を歩いたため。
先へと走り出そうとするジャスティアをなんとか引き留めると、同じ・・・いや、先ほどよりも早い調子で歩き出す。
すごく長く感じたその時間は、薄明かりの差した大広間へつくまでのことだった。
言葉がなかった。
腰を抜かさなかったのは、二歩下がった先が壁だったため。
ジャスティアの両手が握り拳になりながら、じょじょに胸の高さにまであがっていく。
震えている。いや、私だって震えている。
まったく別の理由で。
おとぎ話では何度も読んで見た。
よっぱらいのホラ話や、詩人の歌の中では聞いていた。
まさか目の前で、本物を見ることになるとは思わなかった。
ドラゴン
「ビィ兄ちゃんすごいよ、すごいよ、すごいよ〜!!もっと近くに行って見ようよ!!!」
私の腕を子供とは思えない力で引っ張るジャスティア。
「あ、あわあわあわあわあわあわあわわわわわ」(訳:い、いやそれはまずいからやめておきましょう)
「ビィ兄ちゃん、なんて言ってるのかわかんないよ。とにかく行こうよ!!」
「あわあわわあ”&*+〜=%$#>+*&%|=〜+*+$#$#””#!$!」(訳:わからなくてもいいから、とにかくここの場から離れましょう)
しばらくの間があってから、首を横に傾げるジャスティア。
と、突然。雷とも思える轟音が広間一帯に響き始める。
その轟音によってパラパラと落ちてくる小石・・・・・小石?
ジャスティアが私に何か言っている。ほとんど聞き取れないそれを無視しして、ジャスティアの手を引きながら、少し右に離れた所にある入り口へと走る。
なにをどうしたのか。
どこをどう曲がり、どこをどう降りたり上ったりしたのかわからないけれど。
気がつけば森の中だった。
「・・・・!」
振り向けばジャスティアがぐったりと・・・完全に引きずられていたようだ。
ジャスティアの左腕をあまりにも私は強く掴んでいたようで、自分の手なのに引き離すのにかなり骨が折れた。
それにジャスティアの左腕にくっきりと赤く残る私の手の跡・・・
とりあえず暗くなりそうなので、ジャスティアをその場に残して燃える物を探しに行くことにした。
翌日の昼近く。
私達を探しに来たレオンと護衛の時にはいなかった2人のグラスランナーに合流する事が出来た。
「君は怪我したんじゃなかったのかい?」
「そりゃ完全じゃねぇけれど、寝ているよりも体動かしていた方が直るような気がしてな。」
苦笑いしたあと、背を向けて言った一言が重かった。
「じゃねぇと八つ当たりでその辺の物を壊しそうでな。」
「そんな事をすると本当にベッドの上に縛られるだにゅ。」
「そんな事になれば、いたずらのしほうだいだにゅ♪」
口々に勝手な事を言い出す2人に、怒鳴るレオン。
おそらく彼をよく知る者がこの騒がしい2人をわざと組ませたのであろう。
仲間・・・と思っていた者に裏切られ斬りつけられるというのは、精神的にかなり深い傷が出来るのだから。
その後一番に私達を見つけたと言うことで、『奇跡』で直した怪我の代金を引いた額の報酬を得たと知ったのは、かなり暫くしてからの事だった。
ジャスティアの部屋の机の引き出しには、小石程度の大きさの半透明な鱗が仲間入りした。
ビィ兄ちゃんが無理矢理腕を引っ張って走り出した時に、落ちていたのを夢中で拾って持っていた。
レオンさんちに見つかる前に、ビィ兄ちゃんにそれを見せた時たった一言こう言われた。
「ジャスティア君の始めての冒険の、始めての報酬ですね。」
「・・・・じゃあ、宝物としてしまっておくよ。」
たまに引き出しを開けて見て、思う。
きっとビィ兄ちゃんはいやがるだろうけど。
でも。
『もう一度あのでっかいドラゴンに会いたいな・・・・』
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