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No. 00030
DATE: 2001/03/02 01:03:03
NAME: カディオス・クライス
SUBJECT: 「勇士の決意」(Hero`s Resolve)
新王国歴513年:2/9日
この日カディオスは仕事先の倉庫街ではなく、オラン市街の工業地区に足を
運んでいた。
紺色の私服に上着を羽織り、右手には布にくるまれた長い杖みたいな物を持って
いる。よく見ると腰の後ろにも小剣を付けているみたいだ。そして左肩には
彼の相棒−鷹のフィクドラがいる。
昼過ぎに「気ままに亭」を出てまっすぐこの工業地区に足を向けて彼はひたすら
歩いていた。何か思い詰めた表情をしながら…
事の発端は昨日の晩、気ままに亭で初対面のグラスランナー”ネット”から
「人を殺して欲しい」と言う頼みを受けた。正直人を殺したことはある。が、
できれば殺したくはないと言うのが本音だ。降伏勧告だってちゃんと言ってる。
それでも相手が聞かないのなら仕方ないのだが………
最初はただ聞くだけのつもりだったのについ感情移入してしまった…
ネットの両親が盗賊に殺されたと聞いて思わずネットと自分と重ねてしまった。
気づいた時にはすでに依頼を受ける形になっていた…やはり同じ境遇を持つ者
同士、どうしてもほっておくことが出来なかったのだ。
………そんな事を考えながらカディオスは歩いていた…
目的地の工業地区に近づくと隣のフィクドラが少し騒ぎ出した。微かに漂ってく
る臭い、工業地区独特の臭いがどうやらだめらしい。
「きついのか?俺の用件はすぐ済むからお前はこの辺で待っててもいいぞ。」
左肩をちょっと動かす。意味を理解したのか肩から離れ、飛び立つフィクドラ。
一声泣いて上空を旋回している。
「ほんの5分くらいで戻ってくる、心配するな。」
フィクドラと別れた後、工業地区内の鍛冶工房のある一帯を探し出し一通り店を
眺めながら一回通り過ぎる。
店を見る時のカディオスの癖だ。そして一通り見た後、帰りしなに幾つか目を
付けて置いた店に入る。コレがいつもの彼のパターンである。
どうやら今回はすんなり決まったらしく一軒の工房に入っていく。
「工房:ザウル」、店の看板にはこう書かれていた。
店内に入ると珍しく女性のドワーフが店番をしていた。
店に入ってきたカディオスに気づき、机に向けていた顔を上げる。
「いらっしゃいなのね。何用なのね?」
「ああ、刃の研ぎ直しを頼みたいんだが…」
「仕事の依頼なのね?ちょっと待つのね。」
そういうと女性のドワーフは奥の工房の方に入っていった。
ふとカディオスが机に目を落とすと羊皮紙にいろんなスケッチが描かれていた。
(何かの模様か?)
ドワーフは中に入っていったかと思うとすぐに出てきた。今度は親方らしい
人も一緒だ。この人が店主のザウルなのだろう。
「刃の研ぎ直しを頼みたいだって?この兄ちゃんか、ポンザ。」
”ポンザ”と呼ばれたドワーフは「そうなのね」と答えた。
「ふむ、いいだろう。エモノをみせてみな。」
カディオスは右手に持っている布にくるまれた物、愛用の長槍を出した。
「とりあえずこれと…」
つづいて後ろの腰に差していた小剣を出し、最後に懐から短剣を2本取り出し、
「これで全部です。」
と言い机に並べた。
「どれ。」 と槍を手に取り、「…ほう、よく使い込まれているな。こっちの
小剣は…銀製か。で、この2本の短剣は?」
「投げ専用です。普段は肩当ての裏に仕込んでるんですが、何か?」
と言うカディオスの反応にザウルは、
「なに、この2本だけ他と使い込み方が違ったからさ」
「ああ、そういうことですか。あまり使いませんからね。で、どうです、
引き受けてくれますか?」
「いいだろう。引き渡しはいつがいい?」
「次の日曜までに出来上がっていればいいですが。」
「解った、日曜にまた来な。それまでにやっとくよ」
「ありがとうございます。」
「金は引き渡しの時でいいからな。それと丸腰じゃ危険だからコレでも代わり
に持ってけ」
と言うと後ろの棚から小剣を取り出し、カディオスに渡した。
「ありがとう、じゃあ日曜に来ます。」
「おう、毎度ありぃ」
店を出たカディオスは工業地区を後にし、次の目的地へ歩き始めた。
少し歩いたところで指をくの字に曲げ口に当て、指笛を一回吹く。
するとどこからともなくフィクドラが降りてきてカディオスの肩に止まる。
「またせたな。後は魔晶石を買うだけだ、たぶん魔術師ギルドに行けば
売ってるだろ。ま、もう少し俺の買い物につきあってくれや」
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