 |
No. 00032
DATE: 2001/03/06 01:21:36
NAME: メリープ
SUBJECT: はじめてのおつかい
「メリープ」
ぱぱりんに呼び止められて、私は振り返った。
時間がある夜は、部屋を抜け出していつもきままに亭に遊びに行ってるから、今度こそはばれちゃったかなぁ、って思って、内心首を竦める。
でも、ぱぱりんの口から出た言葉は意外だった。
「悪いんだが、ぱぱの代わりに買い物に行ってきて欲しい場所があるんだよ。」
「……買い物ぉ?私に??」
ものすごく意外な言葉を聞いたと思う。
ぱぱは、店に並べる商品の仕入れとかがあるから、買い物は自分で行く。そうじゃないと、商品の質が一定水準を満たさなくなる、とか言ってたっけ。
「どうして私にぃ??」
「……どうしても行かなきゃならない場所があるんだよ。大事な仕入れだから、どうしてもぱぱが行かないとダメなんだ。
お前には、この前ぱぱが仕入れに行ったところに、ぱぱの忘れ物を取りに行って欲しいんだよ。」
ぱぱりんが忘れ物?……慎重で完璧主義者のぱぱりんが忘れ物をするなんて、どうしちゃったんだろう。
「うん、分かった。どこに行けばいいの?」
ぱぱりんはカゾフに近いとある村の名前を挙げた。
カゾフならオランからかなり近いし、道も確立されてるはず。それほど危なくはないと思って、私はぱぱりんからのお使いを引き受けることにした。
カゾフへと伸びる街道を抜けてカゾフに入り、道中特に危ないこともなく、ぱぱりんの指定する店にたどりついた。
「いらっしゃい」
そんな太い声がして、薄暗い店の奧から出てきたのは背の低い、がっしりした……ドワーフだった。
「お嬢さん……ハイデマンの旦那の?」
「はいですぅ。メリープっていいますぅ。……ぱぱりんは、何を忘れていったんですかぁ?」
ドワーフの店主さんは、私の質問には答えないで、私を店の奧に手招きした。私は黙ってドワーフさんについていく。
「これだよ」
と、ドワーフさんが渡してくれたのは、指輪だった。銀の台に、青とも緑とも見える色の石がはまっている。
一目見て、綺麗な指輪だと思った。と同時に、何でここにこんな指輪なんて忘れていったんだろうとも思った。
それ以前に、ぱぱりんってこんな指輪持ってたっけ?
もしかして……と言う仮定が頭の中に浮かんだときに、ドワーフの店主さんはニヤリと笑った。
「そう。これはハイデマンの旦那から、娘へと頼まれた贈り物だよ。」
「ぱぱりん……が?私に、ですかぁ?」
指輪は、私の左手の中指にピッタリとおさまった。それを見たドワーフの店主さんは満足そうな笑みを浮かべる。
「うん、嬢ちゃんの髪と目の色そのままだね。ちょいと加工するのに苦労したんだけど、その甲斐あったよ。よく似合う。」
「どうもありがとうございますぅ!」
心に沸き上がった感動を噛み締めるように、大声でそうお礼を言う。ドワーフの店主さんは、口の端を笑みの形に刻んでそれに答えた。
そしてオランへの帰り道。
ちゃんと来た道を帰っていったはずなのに、迷子になっちゃったらしい。
見たことのない洞窟が、目の前に口を開けていた。
「……ここは……どこだろぉ……??」
好奇心半分、不安半分。でも、そろそろ暗くなってきてるし、今から移動してももっと迷子になるかも知れないからって思って、洞窟に足を踏み入れることにした。
洞窟って言っても、松明をつければ全体が見渡せるくらいに小さい。自然にできた洞穴みたいだ。旅人達が一休みしていたらしい跡が幾つか見受けられる。
「ここなら平気かな??」
と思った矢先。
洞窟の入口の方から赤く光る何かが近づいてきた。ついでに、ぐるるるるって言う、飢えた獣みたいな鳴き声も。
じっと身を固くしていると、かさりと茂みを踏む音が聞こえた。闇夜に赤く光って見えたのは、群からはぐれて飢えた狼の瞳だったみたいだ。
「……どどどどど、どーしよぉ!?」
頭の中がパニックになりそうだったけど、私は人間同士の戦いの場に居合わせたことがある。その経験が、辛うじて私をパニックから救ってくれたらしい。
幸い、サラマンダーとノームの力は感じる。私は思いきって、精霊に力を貸してと口の中で唱える。そして。
「スネア!」
急にせりあがった地面に足を取られ、狼はバランスを崩していた。この一回しかチャンスはない。
今まで使ったことのなかったサラマンダーを探して、私は呪文を唱える。
「ファイアボルト!!」
ぎゃん!と狼が鳴いた。どうにか命中したらしい。でも、狼はまたふらふらと立ち上がって、もっと殺気立った鳴き声を上げて私に近づいてくる!
その時、もっと沢山の精霊達の声が聞こえた気がした。
一番気配が強いのは、夜をつかさどる闇の精霊。そして、樹木の精霊ドライアードの気配もするし、微かな星明かりの下にいるウィルオウィスプの気配も。
「光の精霊!お願い、私に力を貸してっ!!」
思わずそう叫んだ瞬間、宙にいきなり白い光が浮かんだ。光はフワリとメリープのまわりを一周すると、狼に向かって迸る。
今度は鳴き声もなかった。狼の息遣いも聞こえない。
「……さっきのって……ウィルオウィスプ?……私が、呼んだんだ……」
まだ実感が湧かない。でも、確かに私は光の精霊を呼んで狼を倒したんだ……!
感激よりも先に眠気が来ちゃって、私はそのまま倒れるように眠り込んだ。
そして再びオランへの帰り道。
今度はちゃんと見たことのある道に辿り着いて、何事もなくオランに帰ってきた。
「ふー、帰ってきたぁ……」
見慣れたお店の前で深呼吸を一つして、ぱぱりんに何て言おうとか考えながら、私はドアを開ける。
「ぱぱりん、ただいま!!」
 |