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No. 00036
DATE: 2001/03/16 01:31:25
NAME: レドウィック・アウグスト
SUBJECT: 山脈の遺跡2(序章)
古く巨大な樹、いにしえの緑。
古き時代、この枝は巨人の腕よりも太く、その葉は竜の翼の如く陽光を遮ったと、文献は語っている。
「今では、ただの枯れ木に過ぎん、か・・・。」
既に葉も無く、生気を失った茶色の幹に手を触れながら、男が一人呟いた。
不意に男は遮られる事の無くなった日差しに、視線を向けた。
金・・それも軽く羽毛のような髪がふんわりと切り揃えられている、そして赤い長衣・・・と言うよりは外套に近いのだろうか?。くすんだ色の手にした杖は汚れてはいるが、内に秘めた輝きを失わない宝石が様々に配置され、いにしえの文字が刻まれている。
このアレクラストでは古代魔術師と称される人間なのだろう、そして彼は年若い青年風だった、年は二十歳かそれ未満・・・長い修行を積む魔術師としては未熟な分類と普通される。しかし、魔術師はその力を研ぎ澄まし、鍛え上げる事によって己の姿を若返らせる事すら可能だという。
外見から推測される年齢より、十は過ぎて居るだろうと思われる暗く澄んだ双眸や、隙の無い身のこなし。彼が一体幾つなのか、それは一見で窺い知る事は出来ない。
さて、話を本題に戻そう。彼はこの古木を眺める為にここを訪れた訳ではない、当然散歩という訳でも無い・・何故なら此所は都より徒歩で二週間、知らぬ者無き秘境グロザルム山脈。その奥地、深い谷間なのだから。
彼はこの地に遺跡を求めてやって来た。今は滅び去った・・・。そう、この巨木のように古代に栄えた文明の足跡を求め、書物を読み、途絶えた伝承を探し、自らの足を使って。
その瞳は一人の偉大なる名を追っていた、その名は存在せず、その姿は語られない。しかしその功績は歴史と、この古木の前に立つ魔術師の心に刻まれた。
偉大なる男には二つ名だけが存在した、”一つを追う者”。そう、万物の始祖である『大いなる一つ』、又は『原初の巨人』と呼ばれる存在を追い求めていたのだ、彼は。・・・人として叶わぬ夢と理解していたのだろう、それ故に他人に理解されず疎まれた。彼の周りには自然と、狂気を持った力有る魔術師が集まったという。
しかし、彼の功績を歴史は語らない、ひっそりと生きた彼の足跡は少なく、ただの夢見がちな魔術師であると言う説もある程だ。だが、古き樹を見つめている男はその存在を、その功績を信じていた。・・・そして確証したのだ、この扉を、そう、巨大な樹木の幹を掻き分ける様に存在し、幹に絡む枯れた蔦に隠されながらも、その存在を誇示している冷たい魔術文字を見たその時に。
そして彼は手を掛けた・・・大木についた扉を開く為に。
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