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No. 00041
DATE: 2001/04/03 07:56:40
NAME: バリオネス他
SUBJECT: 誘拐事件・そして誰もいなくなった
これは『誘拐事件・裏と表と真ん中と』の続きです。
先に読まないと、なんとなくわかりにくい所もあるんで、先に読むことをおすすめしときます。
場所*本部アジト
アレクが『ちょっと行ってくる』と言って部屋を出た後。
クラードを呼び出して引っ越しの指示をする。
「4回め・・・」
と、つぶやくクラードの肩をポンっと叩きながら、無言でうなずくバリオネス。
「私は前線の指揮を取るから、後の事はまかせたぞ。」
自分ではおそらく優雅にマントをひるがえしたつもりだろう。
端から見ると、マントがちょっと舞っただけ。
そして部屋から出るバリオネスの背にクラードが一言。
「今日はピンクですか。」
マントの内側にほどされているピンクのバラの刺繍がちょっと見えたのだ。
「そんな日もあるさ・・・」
微妙な哀愁を漂わせながら、バリオネスは出かけていった。
「・・・・まぁ、あの人だからなぁ。」
ため息まじりにつぶやいた後、とりあえず言われた通り引っ越し作業を開始する。
場所*カイ監禁場所
バリオネスは、猿ぐつわ+ぐるぐる巻きになっている一人の女性を指さしながら短く言った。
「誰これ?」
横に立つジェロームがそれに答える。。
「カーナという冒険者です。我々の事を色々と探っていた者です。部下の話によると、単独で忍び込んで来た模様です。」
「じゃあこの場所に招かざる者達が来るって事だな。」
仮面の男はしばらく黙って考えていたが、ふと思いついたようにこう言った。
「とりあえずこんな格好じゃなんだから、着替えてもらうとするか。」
ちょっとの間。
その後、気が付いたようにポンと手を打つバリオネス。
「それじゃあ無理だよな。同意の返事が欲しかったのに・・・」
ジェロームが手帳を見ながらこう言う。
「この方にもですか?大きさからみても、カイ様と同じ物はアレしかありませんが、よろしいのでしょうか?」
「よきにはからえ。」
でものぞいちゃだめだよと、一応の釘を刺しておく。
しばらくして、バリオネスの部下が一着の服を持ってきた。
それをみた途端、部下達にどよめきがはしった。
「ちょっ、ちょっとまって。それ・・・あたしに着ろって言うの?」
猿ぐつわを外されたカーナに、バリオネスはずずいっと駆け寄って一言。
「君は裸の方がお好みかね?」
カーナの着替えが滞り無くすんで、30分ほどたったあと。
「わああ!」
カイとカーナを地下にある同じ部屋に入れると、魔法で鍵をかける。
その後、ちょっとしてからバリオネスは、ドアにある鉄格子付きの小さな覗き窓から声をかける。
「ここにキーワードを書いたから、出たければ好きな時に出るといい。」
「ここって・・・?」
「ここ。」
カイ達から見てドアの左側から、コンコンと音がする。
「ばびゅっ」
ドアの周囲が瞬間的に暗くなったかと思ったら、バリオネスがパタっと倒れる。
「おかしらぁ!!」
バタバタとドア向こうが騒がしくなったと思ったら、急に静かになる。
不振に思ったカーナが覗き窓から、辺りを見ると・・・
「誰もいないよ。」
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その頃、レドは。
窓辺に腰掛け、イストン在住のバニー・ホッパーさん(32才)の農園で取れた茶葉を使用し作られた紅茶を、ロマールからわざわざ取り寄せたカラン・ミーファスさん(42才)作のカップ&ソーサーで味わっていた。
「この香り・・・星までも魅了する。」
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裏路地に妙な怒鳴り声がひびきわたった。
「おら、出てこい間抜け野郎っ!」
その行動に一番驚いたのは・・・いや、誰も驚かなかった。
大半の者は、以外だと思ったにすぎなかった。
ただ、ラスがアレクが指さしたアジトの表の戸を調べもせずに、蹴飛ばして開けただけなのだから。
「行くぞ!」
振り返りもせずにどんどん歩いていくラスの後に、ディックとアレクが続く。
「カレン、ラスを頼むよ。私はここ知ってるからえっと・・・シリルだっけ?」
こくこくうなずくシリル。
「じゃあ、カイが見つかったらこの子に声かけて。私たちが先に見つけたら2回鳴くから。」
そう言うセシーリカも、先に行ったアレク達を追いかける。
残されたのは・・・ミニアス、シリル。
そして大役を主人から仰せつかった使い魔の猫、名はショウであった。
ばん。
ばん。
ばん。
「・・・やはり、もぬけのからか。」
ディックの一言が気になるのか、先頭を歩くラスの耳がピクピクと反応する。
とはいえ、最初の扉を蹴り開けた時に、それはなんとなく分かっていた。
「カーナだっけ?先に来て捕まっているとしたら、逃げられても当たり前だよね。」
アレクの言葉にラスの耳がぴくぴく。
「だとすると・・・カイ達がここにいる可能性は低くなるな。」
「そうですね。一緒に連れて逃げたという事もあり得ますし。」
カレンとセシーリカの冷静な会話は、ラスの大きめの耳によく響いた。
口元は引きつり、耳がぴくぴくと動くのをラス自身気が付いてはいる。
後ろの連中に何かを言いたいが、それは後でも出来ると、自分を無理矢理納得させてひたすら進む。
見つけた階段を駆け下り、二つ目の扉を同じように蹴飛ばして開けた。
扉を蹴あけたラスが一瞬の間のあと突然、解らない言葉をつぶやき始めた。
違和感を感じたディックがラスを押しのけ、部屋にはいると
うつぶせに倒れているカイ。にたにたと笑顔を浮かべて血の付いたナイフを持つ男。そして部屋の奥にたたずむ仮面の男。
槍を構え戦闘態勢になったディックの横を、二つの光り輝く槍が飛んでいく。
そして輝く槍は間違えることなくナイフを持つ男と、仮面の男に直撃した。
だが、光り輝くその槍は相手に突き刺さり止まることなく、すり抜けて消える。
「なっ・・・」
ディックとラスの声が重なる。
ラスが目の前に立つディックと壁の隙間を縫うようにして、倒れているカイの元に駆け寄る。
カイに触るはずの手は、そのまますり抜けて冷たい床に。
タイミング良く部屋に入ってきたカレンやセシーリカ、アレクも、ラスのそれを見て幻覚だという事に気が付いた。
「でも良くできています。これだけのものを作り出せるのはすごいですよ。」
「ま〜た、手の込んだ事を・・・」
感心するセシーリカと、ため息まじりに言うアレク。
「行くぞ。」
短く言い切るラスの後ばかり追いかける。
その後ちょっと冷静になったか、ラスは罠がないかどうかのチェックをするようになった。
が、なにごともなく地下へと続く階段にたどり着いた。
降りようとするラスにセシーリカが声をかける。
「ミニアスとシリルが今、地下から通じている裏口にたどり着いたって。」
何かを引きずった跡があるから、そっちに行く事を告げると、ラスの顔色が変わる。
慌てて階段を下りようとするラスを引き留めたのは、カレン。
そして、アレクを先頭に階段をゆっくり下りる。
降りた先にあるドアの罠チェックをカレンにしてもらうと、アレクはドアをちょっと開けて・・・
すぐに閉めた。
真っ青なアレクに不振感を抱いたのは一人ではなくて、何がいたのかと聞いても答えない。
「ええい、ちょっとどけ!俺が開ける!!」
「だめだめだめ!!ぜったいだめ!!!」
ドアの前で陣取るアレクをカレンとディックが無理矢理押さえて、ラスがドアを勢いよく開ける。
「え?きゃぁっ・・・」
口を押さえながらセシーリカの目は、ドアの向こうに釘付けになっている。
アレクはいまディックとカレンによって、押さえつけられている。
なのに彼女は、扉の向こうにいる。
幻影である事は先ほどの例もあるからわかった。けれど、それ以上頭の中で考えることは彼女、セシーリカにはできなかった。
幻影のアレクはもちろん全裸で、事もあろうに非常に卑猥な動きをしている。
そして頭の中とは逆に、それに見入ってしまっていた。
セシーリカの声に違和感を感じたディックとカレンもドアの向こうを見て、動きが止まる。
そのスキを突いてアレクは後ろで押さえているカレンの顎に左ひじを、ディックの股間を蹴り上げる。
倒れ込む二人を振り払い、ドアの所で同じように見とれているラスの後頭部に、上から叩きつけるような右の鉄拳をお見舞いする。
まさか後ろからくるとは思っていなかったラスはまともに食らって、ずささ〜っと前に吹っ飛ばされる。
クラクラしながらも顔を上げた所は、ちょうど股の下・・・・
「だからみるなって言ってるだろ〜!!!!」
アレクの体重の乗った右足が、ラスの後頭部を再度直撃した。
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窓辺に腰掛け優雅に時を過ごしている時。ふっと、こう思った。
「そうだ、きままに亭にいこう。」
レドウィック・アウグスト
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「・・・気が付いたか。」
まだ少しズキズキする後頭部を押さえながら、上半身を起こすラス。
辺りを見回そうとした所を、ディックに止められる。
「ラス、振り返るな。今振り返ったら今度こそコロされる。」
横に座っているカレンがボソっと言う。
「まあ・・・この痛みはともかく、カイは・・・あ?」
純白のドレスに身を包んだカイが心配そうに、自分を見ていることに気が付く。
何度か目をパチパチとさせていたラスは、何を思ったのか胸に手を伸ばし・・・
「本物か・・・」
カイに平手を食らった後、ほっとしたようにつぶやくラス。
ちょっと離れた所でアレクとセシーリカが話し・・・
「できません、みれません、できません。恥ずかしいです〜!!」
「私の方がもっと恥ずかしいんだよ!!早く消してよ〜〜!!」
ラスが不思議そうな顔をして後ろの会話の意味を、カレンに尋ねる。
「魔法で出来た幻影は魔法で消えるそうだ。」
「あ〜あ〜あ〜あ〜・・・あ?」
ものすごく納得するラスは、壁に書かれたある文をみて止まる。
鉄格子の付いた覗き窓のあるドアの右の壁に書かれた文。
『今夜、花嫁達は邪妖精に汚される』
「おい、あの邪妖精ってのは・・・」
「カイさんの事ではないようですね。」
サラっと言うディックを横目でニラむラス。
『達』と言う言葉の意味はすぐにわかった。
カーナもカイと同じように純白のドレス(同じデザイン)のを着ていたのだ。
カイの無事がわかった事もあるだろうが、ラスは微妙な気分になった。
が、言いたい事は言っていた。
「そうそう、カイ。お前、一週間は外出るの禁止な。」
その後、行方を追っていたシリル達と合流したものの、収穫ナシ。
そしてカーナの装備一式&カイの誘拐時に着ていた服は行方不明となった。
良きにしろ悪きにしろ、無事2人を救出できた。
*引っ越しして、オニューの本部アジト
「よろしかったのですか?」
「初めてにしては上々だ。」
膝を床につけているジェロームと、椅子に座っているバリオネスとの間に微妙な沈黙が流れる。
「いえ、そうではなく。あのドレスを売れば・・・2000ガメル程になるはずですが。」
パラパラと手帳をめくって金額を確認するジェロームに、間髪入れずバリオネスが一言。
「そんなにあのドレスを着たかったのか?」
一瞬の沈黙の後、冷静にジェロームが答える。
「いえ、そうではなく」
「そうか。そんなに着たかったのか。」
うんうんと、一人うなずくバリオネスに、危険を感じ取ったジェロームが慌てて言う。
「申し訳ありません。今の言葉はお忘れになってください。」
「わかればよろし。」
翌日、旧本部アジトでアレクが怒鳴りながら暴れていた。
「バカ兄貴!今度、今度あったら覚えておけ〜〜!!!」
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