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No. 00044
DATE: 2001/04/03 17:03:28
NAME: クプクプ
SUBJECT: 蛙とダイヤモンド
《冒険の予感》
天気のいいある日。街を軽快に走り回っていた、草原妖精のオイラ(クプクプ)は、一人の女性にぶつかった。
顔を上げると、そこには、まだちょっとだけ遠い、春の日差しのような笑顔。
「ミュレーンねーちゃん」
「おはよう、そんなに急いでどちらへ?」
「ねーちゃんこそ、こんな早くにどこいくのさ〜」
オイラの問いに答えたのは、ミュレーンの後ろからひょいと顔を出したフィルシーだった。
なんでも、ある商家で倉の整理をやるとのこと。その商家では最近先代が亡くなり、彼が集めた様々な物のリストを作り直すための整理らしい。先代はこの街でもちょっとばかし偏屈で有名なコレクターだったとか。
そこで、ミュレーンとフィルシーは倉の整理を見学させてもらう約束をしていて、これから行くところだって言うから、もちろんオイラは即まとわりついて、紳士的に連れってくれとせがんだんだってばさ。
ねぇ、さっきから目線が泳いでいるけど、おいちゃん聞いてる?<ラハリト
そして、昼時。
ミュレーンは倉から次々に出される品物を、飽きることなく次々に鑑定していたんだ。
一方オイラはっていうと、羽根飾りのついた帽子をかぶってその辺を走り回ったり、人の丈ほどある大きな壺の中に隠れたりと、オイラなりに忙しく鑑定していたんだってばさ。
そんなの鑑定じゃねぇ、って?・・・おいちゃんなんかに芸術の深さなんかわかんないよね〜。
「うにょ?」
オイラが見つけたのは、額に納められた絵。いや、絵と言うよりは地図に近い物ってかんじ?
盗賊としての勘が、うずうずと胸の中で転がり回たんだ。きょろきょろと辺りを見回すと、ミュレーンは離れたところで、ヘンテコな人形の鑑定をしているし、フィルシーはもっと離れたところの木陰て休んでいるってばさ。
ちゃーんす♪
オイラは額をひっくり返し、ツメを外して地図を抜き取ったんだ。そのとき一緒に、平べったい板のような物が額から出てきたけど、これも頂いてきちった。
「ねーちゃんたち、オイラ飽きちったからそろそろかえるね〜♪」
そう言い残したが早いが、一目散に駆けだしたんだ。
行き先?そんなのギルドに決まってんじゃ〜ん♪
いやだな〜おいちゃん。どうせ倉のスミで埃を被ってるだけなんだから、オイラが有効に使ってあげた方がこの地図も浮かばれるってもんでしょ♪
ってなわけで〜、酒場でオイラの持ちかけた儲け話に乗ったのは、最近オイラと縁があるおいちゃん(ラハリト)でしょ?あとは、キャス、エルメス、それからレヴィンっていうラーダの神官。の計4人。
オイラって人望あるとおもわない?
そうそう、あの地図はやっぱり、お宝の在処を示した地図なんだって。ずっと昔に、どっかの盗賊団が隠した、お宝の在処を示したモノなのさ。
おいちゃん、そのジト目は信じてないね?でも宝の地図は本物だってばさ〜ほら。
(ラハリト、地図を確認。確かに地図中の一点にドクロマークが書き込まれている)
場所はここから半日で行けちゃう距離。近いっしょ?
早速、みんなで準備をして、出発出発〜♪
《地図を頼りに》
地図ではわかんなかったんだけど、実際その場所について判明したことが一つ。
森の中にある洞窟の入り口が、湖っていうか池っていうか・・・とにかく半分水の中に沈んじゃってるんだってばさ。近くに川があるから仕方ないのかもしれないけど。
「長い年月で川の流れが変わって、ここに水が溜まりやすくなったのかもしれないですね」とレヴィン。
「どうするの?」
湖っていうか池っていうかをのぞき込みながら、これはエルメス。
「どうって言っても、入ってみるしかなさそうですね」
腕を組んだ姿勢のレヴィンが水面を眺めながら答えた。
「やっぱり中に入るのか」
溜息をつくエルメスの顔を、キャスがのぞき込む。
「水が苦手なのか?」
「そうじゃないんだけど、イザって時に動きが取りにくいし。・・・でも、みんな金属の鎧じゃないのはついてたね」
エルメスの言った通り、今回は前衛になりそうな者が皮鎧を着ているので、幸いにも水の中に入ったとしても動きが取れると思っていたけど。
「さて。中でどうなっているか調べつつ進んでくしかないな・・・それより深さが心配だ」
キャスがその辺に落ちていた木の枝で、深さを調べる。おおよそ80pくらいの枝が丁度沈んだ。
それを見ていたラハリトがオイラを振り返り、自分の腰と草原妖精の頭を見比べる。
「大体・・・腰の深さくらいってことだな。おい、チビお前平気か?」
「いやだな〜おいちゃん。オイラこう見えても長身なんだって♪」
オイラはどーん、と胸をはって答えた。
池から洞窟の入り口に入る。
もちろんオイラが先頭なんだけど、歩いてるんだか泳いでるんだかちょっと微妙。
そんな状態じゃランタンとか持てないので、オイラの後ろを歩くラハリトが、服が濡れるのを嫌がりズボンまで脱いで、すね毛丸だしで剣とランタンを掲げついてきた。水中行動で支障が出るって言ってるのはおいちゃんだけで、硬い皮鎧を脱いで担いでる。
その横には同じく剣を担いだキャス。おいちゃんのすね毛を嫌そうに見ながら黙って水面をかいていた。
ちなみに、真ん中のレヴィンはローブなんか来てるモンだから、歩きにくそうなことこの上ない。
しばらく進むと緩やかな登りになり、水がなくなって歩きやすくなった。
が、今度は床や壁、至る所に生えてる苔が滑りやすいのなんのって。エルメスが、何度も転けそうになって隣を歩いてるレヴィンにつかまっていたりして、かなり歩きにくそう。もちろんオイラはへっちゃらだけど〜♪
そんな調子で400メートルくらい歩いて、早速一つ目の別れ道へたどり着く。ここで道は左と右に分かれている。ちなみにどちらの道も、暗く湿気っていて苔だらけ。ここは地図を頼りに左に進む。
曲がった先をしばらく進むと今度は、下り坂に。
ここで忘れていたことが一つ。ここは坂で、地面には苔が密生していて、そういう状況では滑りやすくてとっても危険だってこと。
つまり、最初に滑ったのはオイラ。斜面が坂になっていて危険だな〜って思いながら足を踏み出した瞬間だった。
一度滑り出したら止まらない。つかまるところなんて無いし、もう、なすがまま。
「うひょ〜♪」
「うおぁぁ!」
しかも、尻餅をついて滑るオイラの襟首を掴もうとして、一歩足を踏み出したラハリトも滑り落ちた。その横にいたキャスも手を伸ばそうとしたが、自分も滑りそうになって引っ込めた。多分それ賢明。
んでもってオイラ達は滑ること滑るべること、50メートルはある坂を一気にすべる。
「くおらぁ、チビコロ!なんとかしやがれっっっ!」
「他力本願は良くないってばさ〜」
滑って滑って滑って。オイラは、何故か先に下についたラハリトの上に器用に着地♪
「おら!ささっと退け!」
いや〜ん、か弱い草原妖精を蹴ることないじゃんか〜。
「大丈夫ー?」
坂の上から、エルメスの声。
「お尻が冷たい以外は〜」
湿った苔のお陰で、濡れたズボンが気持ち悪いのなんの。おいちゃんも皮鎧が湿って苦い顔。
あ〜気分はもうサイアク。
ランタンを持ったまま滑ったラハリトが壊していなかったかを確かめていると、
「俺たちはロープで下りてくから、待っていてくれ!」
キャスの声と共に、はらりと上からロープが下りてきた。
《忍び寄る者》
「あ、おいちゃんそこ危ないよ」
オイラが道の先を指さす。
「おう、なんだ?」
指をさされた辺りを見回すラハリト。
「ワイヤートラップ。うっかり足でも引っかけたらどっかから危ないモンが飛んでくるってカンジ?」
よくよく見れば判るんだけど、丁度足首の高さに細いロープが張ってある。
「解除しないのか?」
ぴょん、とロープを飛び越すオイラにキャスが呼び止める。
「いいの、いいの、飛び越せばいいじゃん♪」
「そりゃちょっと職務怠慢じゃねーか?」
ラハリトのおいちゃんが、やや怒り気味につっこみを入れる。
「ん〜、古いロープだし腐りかけてるから下手に触ると罠発動しちゃうってばさ」
オイラがそう説明しても尚も渋る面々。
ぷひ〜仕方ないなぁ。一歩前に出て、オイラがロープを足で引っかけるとロープはズチッと途中で切れた。はらりと落ちてくるロープの端っこ。・・・ん〜思ったよりもひどく痛んでたみたい〜。
「今のは狙ったんだな?そうなんだな?」
キャスにーちゃん、そんなぎゅうぎゅう首を絞めちゃ息できないってばさ・・・。
いくつかのヘボい罠を越えて先に進む。ふと、キャスが足を止めた。
「なんか・・・今、変な音が聞こえなかったか?」
耳をすましてみる。
「うん。『キュエキュエ』って聞こえたってばさ」
「いや『ゴキュゴキュ』って感じじゃない?」
訂正するエルメス。どっちでもいい、と言ったのはキャス。ごもっとも。
どうやら、音は先から聞こえてくるらしかった。
注意しながら進む一同。先が右に折れている角で足を止め、ランタンを掲げ照らしてみる。
光が照らし出したのは、通路の先に何匹もかたまっている生き物。
「蛙・・・だってばさ」
な〜んだと言いながら、キャスが歩き出す。通路の先では、至る所で蛙がゲコゲコ鳴いていたのだ。
「毒とか何だとかあるやつ?」
エルメスは、蛙を踏まないように器用に歩く。レヴィンは顔を近づけて蛙を観察し。
「これはただの蛙ですね。随分大きいですけど・・・」
確かに普通の蛙とは違い、50pはありそうな大きさだった。
「多分、表の池から入り込んだんじゃないでしょうか。人が来ないこの洞窟は蛙には住み易く、巣になってたのかもしれませんね」
毒を持っていなくとも、蛙を踏むのは気持ち悪い。みんな、蛙を避けたり、蹴ったりして退かして、その先にある広い空洞へ。
空洞は、いつも入り浸っている酒場が8個は入っちゃいそうな広さがあって、壁が微かに光っていた。
「ああ、光苔だね」
不思議そうに見ていたオイラに、レヴィンが教えてくれた。ランタンがいらないって程じゃないけれど、うす〜く光っている苔はなんか頼りない月明かりみたいなかんじ?。
「ね〜、レヴィン。じゃあこっちの桃色の物体は?」
エルメスねーちゃんが、指さした先には毒々しいほどの、どピンクの茸。色はちょっとだけれど、形は女の人の、ふわっとしたスカートみたいに広がっていて、可愛らしく見えなくもない。
よく見れば茸は、壁の下に空洞を囲むように、ちょぼちょぼ生えている。
「あ!それは触らないで!」
レヴィンの珍しい大声に、エルメスの伸ばした手がびくっと固まった。
「それは『笑い茸』と言って、触れると毒の胞子をとばすんです。胞子を吸い込んだら、丸一日狂ったように笑い続ける事から『クレイジー・パラソル』とも呼ばれる危険な茸なんです」
レヴィンの知識に、エルメスは後じさり。
「お〜い、この先はどっちだ?」
苔にも茸にも興味を持たないラハリトがオイラを急かす。うも〜、これだからオヤジって情緒がないんだってばさ。
「急かさなくたって、お宝は逃げないって〜」
ばさばさと地図を広げる。入ってきた道を背に向けて、空洞には前方右と前方左に道がのびている。
「・・・ん〜、たぶん左」
「なんか頼りない言い方だな」
キャスはオイラの言い方に不安を覚えたのか、一緒に地図をのぞき込む。
「あれ?ここって地図じゃ一本道になってるじゃないか・・・」
「ん〜、あっちの道は多分、後から出来たんじゃないかな〜?」
地図から顔を上げて、短い指で右の道を指す。
「そう・・・か?」
半信半疑のキャス。
「だ〜いじょうぶだってばさ。間違ってたら引き返せばいいんだし〜♪ほら、行こうよ」
キャスは他のメンバーに視線を送る。が、みんな軽く肩をすくめただけだった。
決まり〜、じゃオイラについてきてちょ〜。
さて、刻は戻り一行が空洞に近づいてきた頃。
一人の男が冒険者の近づく気配を感じて低い言葉を紡ぎはじめた。精霊言の言葉と共にその姿が闇に溶け込む。精霊使いである彼には、姿を隠すなど朝飯前だ。
しかし、別に悪いことをしていたわけじゃないから、身を隠すこともなかったのかもしれないが、そこは悪人。身を隠す癖というモノが身に付いている。
近づいてきたのは、草原妖精、剣士が二人、小娘、それからローブの男。どうやら冒険者のようだ。
しばし、息を潜め観察する。
心の中で舌を打ち、ただの探検ごっこなら早く帰れと心の中で念じていた彼は、草原妖精の思わぬ言葉に、ぴくんと反応する。
『お宝・・・これは思わぬ所で良いことを聞きました』
ジェローム・キンケイドは、ほくそ笑んだ。
彼の仕えるバリオネス・クルード様に頼まれ、笑い茸を取りに来たら、ひょんな儲け話を耳にしてしまったのだ。
ちなみに、笑い茸など一体何に使うのか?彼の主に聞いたら、悪戯に使うに決まってるじゃ〜ん。と返ってくることだろう。
『バリオネス様。笑い茸の他に、いい土産物ができそうです』
彼は十分間を取ってから、冒険者一行の後を追った。
《蛙》
オイラ達の目の前に現れたのは、巾の広い地底川・・・ってここは別に地底じゃないから、ただの洞窟内の川か。
多分、表の川の支流になるのかもしれなケド。水場のせいか、またあのデカイ蛙がそこかしこに。
地図によると、この地底川を泳いで渡った先にお宝〜があるらしい。幸いにしてここにはみすぼらしいけど、いちおう橋がある。
「無いよりマシってかんじ」
エルメスが呟いた。先に身軽なヤツが渡ってロープを張ったりと作戦を立て、いざ渡ってみると橋は思っていたより丈夫で、みんな無事に渡れた。やれやれってカンジ?
渡ってから分かったんだけど、ここは川の中の島みたいなところで、島の先は大きな水場になっている。川の流れの淀みがえらい大きくなった感じかな。地図には書いてないから、きっとどんどん水の力で、浸食したんじゃないかなー。
てなわけで、ちょっと見は、今いるここが中州みたくも見える。
そして、地図によればお宝はここに置かれているとのこと。さ〜て、お宝お宝〜。中州には、いくつかのチェストが無造作に置いてあり、真ん中には背の高い像が置いてある。
早速、張り付いてる邪魔な蛙を蹴散らして、手当たり次第開けていく。
「何が入ってるんですか?」
後ろからのぞき込むレヴィンが手を伸ばし箱の中の物を触る。が、触った途端にそれはボロボロと崩れだした。
「腐ってますね・・・元は、高価な絹織物かなにかでしょうか?」
調べてみると全部のチェストの中身が、織物だったらしく。この湿気で全て腐って、ボロボロになっていた。
期待していた分、一同は深〜い溜息をつくが、ラハリトだけはやっぱりなって顔してた。おいちゃんだって信じたから来たはずなのにひどいよねぇ。
「ねえ!見て」
エルメスの指した先に、オイラの背丈くらいはありそうな女神像。そうそう、まだこれがあったてばさ。
女神の手には透明な石が乗せられていて、エルメスが女神像から石を外し、レヴィンに手渡す。
「もしかしてダイヤ、かな?」
受け取ったレヴィンは石を手で転がしてから、にっこり笑って。
「いえ、透明なオパールでしょう。これは・・・値打ち物ですよ」
やった〜!とオイラとラハリトは手を取り合って小躍りした。おいちゃんのリズム感がイマイチだったけれど、まあ今は関係ないか。隣ではエルメスとキャスが手をたたき合っている。
「おい、クプ。これで、前回の失敗の元が取れるな」
キャスがオイラの首に腕を回しで頭をぐりぐりした。
「ねーあたしにも見せて」
エルメスが手を伸ばした。レヴィンからオパールを受け取ろうとしたそのとき、手が滑り石が転がり落ちた。
そして「あ」っという間も無かった。
転がり落ちた石を、側にいた蛙が飲み込んだのだ。微かに光を受けて転がる石を虫とでも思ったのかもしれない。あまりの出来事に一瞬固まる一同、次の瞬間・・・。
「捕まえろ〜〜!!!」
叫ぶラハリト。
「どの蛙?!」
慌てるエルメス。
「違う、違う、こっちの黄色い蛙だってばさ〜!」
蛙に飛びかかるクプクプ。
「おい、レヴィンも手伝だえよ!」
一人、見当違いな方を向いているレヴィンに、キャスが怒鳴る。
「それどころじゃなくなりそうです」
視線を動かさないまま、腰の巾広剣に手を掛けるレヴィン。キャスはその視線の先を辿る。
そこには、中州の先の淀みからはい上がってきた、優に3メートルはある巨大な蛙がいた。
巨大蛙は、騒ぎに惹かれるように迷わずこっちに向かってきている。
「ラハリト!こっち手伝ってくれ!」
キャスは叫びながら剣を抜き、巨大蛙に向かう。その補佐をするレヴィン。
一方、エルメスとオイラは蛙探しを続行。ここで蛙を見失ったんじゃここまで来た意味が無くなってしまう。
「何処に行ったの!?」
エルメスが辺りを見回す。
「あそこだってば!」
オイラが指した先には、中州から出て行こうとしている黄色の蛙がいた。走り出す2人。
蛙は悠長に橋の袂へ。人の気も知らず橋を渡ろうとしているのか?そんな蛙に一気にダッシュをかけようとしたオイラ。
そのオイラの目の前を駆け抜ける人影。・・・って、人影!?
よく見りゃ、オールバックの見知らぬ男。
「あんた誰?!」
男(ジェローム)はオイラを見てどきっとした顔をしたが、返事をせずにそのまま蛙めがけて走り込む。
なんかわかんないけど、蛙が危険だ〜!っと先に蛙に手を伸ばしたオイラ。が、ダッシュをかけようと踏み込んだ位置には蛙が飛び込んできた。ホント、今日って日はついてないね。『ぐきょ』っという情けない音共におもいっきり転けるオイラ。
そんなオイラを後目に、男はそのまま蛙を掴むと橋から飛び降りた。走り寄ったエルメスが手を伸ばし男を捕まえようとするが、紙一重で手が届かず。
「落っこちちゃった・・・」
水面を見つめ唖然とするエルメス。水に落ちたジェロームは流されて、もう姿も見えない。
「お宝が流れてちゃったよ・・・」
中州へと戻ると、巨大蛙ともう決着はついていて、最後のとどめを刺しているキャスの横で、ネバネバした蛙の涎(?)まみれなラハリトがレヴィンの手を借りて起き上がっていた。
キャスが帰ってきたエルメスとオイラを見て。
「捕まえたか?」
うつむいてふるふると首を振るエルメス。
溜息の嵐。そんな中、一人明るい声を出すレヴィン。
「みなさん、落ち込まないで下さい。まだこの像が残ってますから」
「へ?」
何いってんだという皆の顔を眺め、レヴィンはにっこり微笑んだ。
「私の鑑定に間違いがなければ、この像はアジェルズの作品で、多分あのオパールより値打ち物ですよ」
《悪役の独り言》
ジェローム・キンケイドは苦笑をもらした。
図らずも、お宝を独り占めできたのだ。冒険者を出し抜くために、色々と策を練っていたのだが、成り行き上なんて事なく手にしてしまった。
これで、ギルドからアジトを借りる金が出来る。バリオネス様も喜ばれるだろう。
そう言えば、あの方の妹が帰ってきてると聞いたな。今回の計画の実行にあたり、周りでちょろちょろされては邪魔だ。それなら、いっそのことこっち側についていて貰うのがいい。早速オランに戻ったら繋ぎをつけてみよう。
そう考えながら、オランへと向かって歩き出した。
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