 |
No. 00045
DATE: 2001/04/05 11:10:36
NAME: メリープ
SUBJECT: ハーブティー探し・前編
「……む〜〜……」
大陽が昇って間もない時間。目を指す陽の光で、メリープは珍しく目を覚ました。
「昨日、お酒飲んだんだよねぇ……そのせいかなぁ。こんなに早く目が覚めちゃったぁ。」
そのままベッドの中で伸びをして、寝ぼけまなこでむくりと起き上がる。昨日酔っ払っていたせいもあり、夜着は身に着けていない。
「いっけなぁい☆ぱぱりんに起こされる前に着替えないとぉ……」
そのままゴソゴソと着替えを済ませ、その間にメリープは、シリルの言っていたハーブティーのことを思い出した。
「……ここに、あるかなぁ?せっかく早起きしたんだしぃ……探してみようかなぁ?」
思い立ったらすぐ行動。メリープは軽い足どりで階段を下り、店の中へ入っていった。
「メリープ?こんな時間に何をしてるんだ?」
ちょうどその時、メリープの父親が店の中に入ってきた。
「んっとね。きままに亭で会ったシリルってグラスランナーにね、ブルー・マロウっていうハーブティーがあるって聞いたの。もしかしたらここで扱ってるかなぁって思って……」
メリープの父親シェルダー・ハイデマンは、だいぶ白くなった頭を軽く傾げてうーんと考え込む。
「ブルー・マロウ?……ウスベニアオイのことだったような気がするが……」
「うん、そうそう☆そういう別名があるってシリル言ってたよ!この店に置いてないかなぁ?」
「確かあれは、ムディールの方のお茶だったような気がするな。いくら私が珍しいものを選んで店に置いているとは言え、なかなか手に入る物ではなかったと思ったがなぁ……」
すぐに手に入る物ではないと言われ、メリープは、目当ての品物を探す手を休めて考え込んだ。シェルダーはそんなメリープに一言つけ加える。
「近いうちに、東の国からの船が港に入ってくる。そこにやって来る商人に、色々な話を聞いてみるのも良いんじゃないかな。」
「……うん、そうする。そのうち港に行って、いつ船が入る予定なのか情報を仕入れてくるね☆」
鐘の音が昼を告げる頃、メリープはオランの港にいた。大きい船が何隻か停泊していて、人が忙しく立ち働いている。その中の一人に、メリープは思いきって声をかけた。
「すみませぇん☆この中に、ムディールから来た船ってありますかぁ?」
「……そうだなぁ。今泊まってる船はほとんどが東の国から来た船だっていうしなぁ。そこらへんの船乗りを捕まえて話を聞けば、ムディールからの船が見つかるかも知れねぇなぁ。
ま、東からの船って言ったら、ムディールかアノスかバイカルから、の3つしかねぇからな。久しぶりに陸に上がったからって言って、船乗り達はみんな酒場にいると思うぜ。」
「ありがとうございますぅ☆」
親切なおじさんにお礼を言って、メリープはあたりを見まわす。荷物を下ろす倉庫の他に、酒場らしき看板がチラホラと見える。そのいくつかからは、酔っ払って騒いでいるような声が聞こえてくる。
「……船乗りさんかぁ……。酔っ払いすぎて話が分からなくなってなければいいけどぉ……」
うーんと考えた末、メリープは、昼間から賑わっているらしい酒場の一つに入っていった。
酒場は人の熱気と喧騒とで渦巻いていた。酒の匂いが狭い店内に充満しており、メリープは思わず顔をしかめる。
「すみませぇん☆」
喧騒が一瞬静まりかえる。酒を飲んでいる人達の視線が全て、メリープに集まる
「迷子になっちゃったのかなぁ、お嬢ちゃん?おじさんが送っていってあげるよ、へへ。」
下卑た笑みを貼りつかせて、人相の悪い男が何人か、メリープに近づいてくる。メリープはそんな男には目もくれず、黙々とジョッキを傾ける、船長らしき一人の男に話し掛けた。
「すみませぇん。あなたの船はどこから来たんですかぁ?」
「……そんなこと聞いて、何になるんだい、お嬢ちゃん。」
「ブルー・マロウって言うハーブティーを探してるんですよぉ。ぱぱりんにムディールの方のハーブティーだって言われたから、ムディールから来た船の積み荷に、もしかしたらブルー・マロウが入ってるんじゃないかって思って……」
その男は、ジョッキを運ぶ手を休めてメリープをじっと見た。メリープも負けじと男の目をじっと見返す。
「仮にオレ達がムディールから来たとしても、そいつは教えられねぇな。もしかしたら、お嬢ちゃんは、オレ達やお得意様の商売を邪魔するやつかもしれねぇからな。」
当然と言えば当然の疑惑に、メリープは何も言い返すことができずただじーっと男の目を見つめ返し続ける。その視線に負けたのか、男は一つの疑問を口に出した。
「もしかしてお嬢ちゃん、シェルダー=ハイデマンって知ってるか?」
「……シェルダー=ハイデマンは、私のぱ……じゃないや、父親ですぅ。私はその娘の、メリープ=ハイデマンですぅ。」
ぱぱりん、と言おうとして、さすがにそれはまずいと考え言い直したメリープだったが、その男はがははと豪快に笑ってメリープの頭に大きい手を置く。
「ハーブティーなんて所詮ただの草っぱに過ぎねぇのに、そんな物を欲しがる奴なんて、あの変わりモンの親父を知ってる奴しかいねぇと思っていたが……
まさか、その一人娘だったとはな。」
シェルダー=ハイデマンの名前を聞いて、さっきまでいやらしい笑いを浮かべてメリープを見ていた男達の顔色が、サッと変わった。ついでにひそひそ話も、途切れ途切れに聞こえてくる。
「あのシェルダー……の娘だってよ」
「え!?嘘だろ……あの親父の娘かよ……」
「確かにあの親父、……ったと……は言ってたけどよぉ……」
「まさか、こんな……」
ぱぱりんは外ではどんな人なんだろう、とメリープは興味を覚え、途切れ途切れに聞こえる話に耳を傾けようとした。
「おい、お前ら!無責任な話をするんじゃねぇ!」
「わ、分かりやした、船長!」
船長の一喝で、男達はピタッと話をやめる。メリープも一瞬ビクッとしたが、ハッと我に返り、改めて船長と向きあった。
「さて……お嬢ちゃんは、どこでそのお茶の存在を知った?」
「酒場で会ったグラスランナーの友達に、そう言う話を聞いたんですぅ。ハーブティーの話をしたら、そう言う物があるよって。」
さっきとは打って変わり、水を打ったような静けさの中、メリープは緊張を隠せない様子で船長の質問に答える。
「ふむ。なるほどな。お嬢ちゃんは確かにハイデマンの娘だ。何でも自分で確かめてみないと気がすまない性格なんてそっくりだよ。」
また、がはははと豪快な笑い声を上げてから、今度は少しすまなそうに言葉を続ける。
「生憎、オレ達はそう言う類のものを扱ってねぇんだ。それに、そのブルー・マロウって言うのは、ムディールでもあまり取れないモンだって聞いたことがあるな。
……オレ達と同じシェルダー=ハイデマンの取引先で、そう言った物を扱ってる船が、もう2週間位したらこっちに来るはずだ。サンダースって言う船なんだがな。そいつらに、お嬢ちゃんの話をして、ここに来たら詳しい話を聞かせてやってくれって、取りあえず聞いてみてやるからよ。それまでもうちょっと待っててくれねぇか?」
「……分かりましたぁ。御厚意、感謝します。」
すぐには手掛かりは得られなかったものの、取りあえず有力な手掛かりを得たメリープは、軽い足どりでその酒場を出た。
ちょうど、一の刻と二の刻の間を告げる鐘が鳴った。
「あ、いっけなぁい☆今日はザードさんと会う約束してたんだぁ☆さっき一と二の間の鐘が鳴ったからぁ……うん、急げば間に合う☆」
街の地図を頭に思い起こしながら、道に迷わないように気をつけて、メリープは学院塔目指して走り始めた。
 |