 |
No. 00047
DATE: 2001/04/09 21:25:54
NAME: メリープ
SUBJECT: ハーブティー探し・中編〜デート?〜
神殿の鐘が昼の二の刻を告げる少し前に、メリープは、学院の玄関前に辿り着くことができた。
そこに、ザードらしい人影はない。
「ふぅぅ……どーにか、間に合ったみたい☆よかったぁ……」
メリープは、時間に間に合ったことにほっと胸を撫で下ろし、どうしてこんなに気にしなきゃいけないんだろう、と頭をひねったりしていた。
「本当に、どうしちゃったんだろぉ私……?どうして、ザードさんのことになると、こんなにドキドキするんだろぉ……??」
かぁっと顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。急に熱を持った自分の頬に手を当てて、メリープは自分に言い聞かせる。
(こんな顔でザードさんに会ったら、きっと不審に思われるだろうなぁ……落ちつけ、落ちつくんだメリープ。しっかりしなきゃ☆)
ぱしん、と自分の頬を叩いて、メリープはぷるぷるとかぶりを振る。とにかく、ザードが来るまでに、赤面している顔だけでもどうにかしないと。
「えーっと…確か、ブルーマロウって言ってましたよねぇ……」
学院の図書館。魔術師が主にいる学院なだけあって、魔術関連の本も多いが、それだけってわけでもない。知識を求める者も多いため、雑学…というか、いろいろな図鑑などの本も置いてある。
「これ…みたいですねぇ…えーっと…ムディール原産かぁ…オランだと、探しにくいだろうなぁ。薬草だから、薬草屋に行けば売ってるかもしれないけど…」
本をとるために使用したはしごに、寄りかかりながらぼーっと考える。本当なら、こんなことしなくてもいいのだが、昨日メリープに、
「ブルーマロウってお茶をさがしてるんですけどぉ…」
なんて言われては、あのぼーっとした娘が探せるのか、不安になってくる。
と、いうわけで、本当は、精霊魔法やら精霊について聞きたいだけだったのだが、こーして余計な世話を焼いているザードであった。
からぁん、からぁん。
「あ…しまった。鐘がなっちゃいましたねぇ…さっさと行かないとぉ……ってうわ……!」
がらがしゃ〜ん。
よっかかっていたはしごにつまづいて盛大に転ぶ。それでも、フードがとれないからすごいものではある。
「〜〜〜〜〜っっ!!!」
思いっきり、怪我したところを強打し、声にならない悲鳴をあげ、顔をしかめながらも、周りの迷惑にならないように図書館から出て行く。この状態で周りの迷惑を考えられるんだから、すごいといえばすごいかもしれない。
「急がないと……待たせたら、悪いですからねぇ」
てこてこと、約束の場所に歩いていく。
「あ、待たせましたかぁ?」
のーんびりとした声に、メリープが振り向く。
「うっ、ううん。全然、待ってないですよぉ」
多少裏返ってる声に、ちょっと疑問を抱きながらも、とりあえず言葉を続ける。
「確か、ブルーマロウって紅茶を探してましたよねぇ。あれって、薬草に近くてぇ……って、それはどーでもいいんですけどぉ。店なんかの地図が僕の部屋にありますしぃ、話をするにもここら辺はなにもないから……僕の部屋に、きませんかぁ?」
「……んー……そうですねぇ。この辺に、落ちついて話できるような場所って、ないですしねぇ……」
少しの間、うーんうーんと考え込んで、メリープは頷いた。
「じゃぁ、ちょっとだけお邪魔させてもらいますねぇ☆」
さっきの声の裏返りは何だったんだろうと、心の隅に疑問符を残したまま、ザードは先に立って歩きはじめた。
「ちょっと散らかってますけどぉ、どうぞぉ」
「すみませぇん、お邪魔しまぁす」
ザードの案内で二人はザードの部屋に着いた。魔術に関する本が何冊か、テーブルの上に乗っている以外は、とても片付いた部屋だ。
「ちょっと……そこに座って待っててくださいねぇ。今お茶を出しますからぁ」
「え?別に、いいですよぉ。気にしないで下さいですぅ」
取りあえずザードに示された椅子に座るが、あぶなっかしい手付きで湯を沸かしているザードを見て、メリープは立ち上がる。
「私が代わりにお茶入れますよぉ?ザードさんは本とか地図とか探しててください」
「え?」
メリープはザードの手から茶葉をとり、かなり慣れた手付きでお茶を入れ始める。メリープの手付きを見て、ザードは、目当ての本を探し始めた。
(女の子って、みんなああ言うことが上手なのかなぁ?)
時々メリープを見ながらそう思ってみたりする。
「あ、お茶入ったんですけどぉ……そっちはどうですかぁ?」
「あぁ、目当ての本、見つかりましたよぉ」
「じゃぁ見せてくださいですぅ」
さし向かいに座って、ザードは、見つけた図鑑を開いて、メリープに見やすいように反転させた。メリープは、ザードに示されたページを食い入るように見つめる。
「マロウ……ブルーマロウ。ムディール地方原産で、環境に適応しやすいが数は少ない。葉を揉むとわずかに麝香の香りがする。花は濃いピンク・薄いピンク・白花などがある。淡い香りがあり、湯を挿すと鮮やかな藍色になり、ハーブティーとして楽しむことができる。咳止めやのどの痛み、消化不良・下痢など、様々な病気に効く薬草でもある。
……かぁ。」
「そうなんですよぉ。で、こっちが、薬草を扱ってるお店の地図です。……この辺りではなさそうですねぇ……」
示された地図を眺めて、ザード。メリープは額にしわを寄せて、難しい顔をして考え込んでいる。
「……2週間語に入ってくる船……その船長さんに、聞いてみるしかないかなぁ?」
「え?」
メリープの呟きにザードは思わず聞き返す。
「ザードさんとの待ち合わせの前にぃ、港に行って来たんですよぉ。ムディールから来た船の船長さんと話して……そしたら、2週間語に来る船が、そういう薬草とかを積んでくるんですってぇ。だからぁ……」
「あぁ、なるほどぉ。積み荷を積んでいたら交渉するし、積んでなければ欲しいことを伝えれば良いんですねぇ。」
「そういうことですぅ☆……あ、どうもありがとうございましたぁ☆」
図鑑を閉じて、メリープはお茶に口をつける。ザードも、普段自分が入れるよりいい香りを立てるお茶のカップを手にした。
のんびりと、時間が過ぎてゆく。
からぁん……と、鐘が鳴る。
「あ、そろそろ帰らなくっちゃ☆……どうもありがとうございましたぁ☆」
そう言って、ぱたぱたとメリープは部屋を出ていく。
「……あの子、ちゃんと帰れるかなぁ……?」
ふと、疑問に思ったザードだった。
 |