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No. 00051
DATE: 2001/04/15 01:57:01
NAME: レスダル
SUBJECT: 絵本2
その男の子は本棚の前をキョロキョロとしていた。
そしてある一冊のかなり使い込まれた絵本を手に取ると、走り出した。
しばらくは広い図書館をバタバタと走り回っていたが急に方向をかえ、一人の女性の所で止まった。
「おばちゃん!これ読んで!」
息を切らしながら満面の笑みを浮かべて、持っている絵本を差し出す。
何度となくうなずきながら絵本を受け取った彼女、レスダルはその子供にこう言った。
「人にものを頼むときはなんて言うの?」
「おねえちゃん、これ読んで!」
そのやりとりが耳に入った何人かは、思わず顔を崩した。
その村には、ピッケルとムックルという双子の男の子が住んでいます。
ある日。
いつものようにお昼ご飯を食べていると、お父さんがすごい顔をして帰ってきたのです。
驚いたお母さんがお父さんに色々と聞いてみると、なんと大きな街に行く道の途中で怪物に襲われたという事です。
ピッケルとムックルはスプーンをくわえたまま、顔を合わせます。
昨日、お父さんと遊びたいばかりに『道に怪物がでた〜』と嘘を言ってとても怒れたのです。
それでも村の人たちがおびえているのを見て、隣のおじさんが『わしが行ってくる』と言い今朝早く街に向かったばかりなのです。
「それであなた、おじさんの怪我はどうなの?」
「さっき見てきたけれど、しばらく仕事は出来そうにないようだ。」
腕を組み直してお父さんはこう言います。
「とにかく飯をくれ。食べ終わったら村長の所にみんな集まるよう言われているんだ。」
ピッケルの目がいいます。
『僕たちもこっそり見に行こう。』
ムッケルの目がこう返します。
『ええ〜。見つかったらまたゲンコツで怒られちゃうよ〜』
ピッケルの目が自信たっぷりに光ります。
『大丈夫だって。見つかりっこないよ。』
「え〜と・・・手前から、牛小屋のじいちゃんに、ガルくんちのおじさん。ナリちゃんちのおじいちゃんにお店のミーちゃんちのおじさん。」
「ピッケルぅ。ぼくらのお父さん忘れているよ。」
「そ、そんな事・・・あ。村長さんが来たよ。」
どこからかムッケルが持ってきた箱の上に乗って、窓からこっそり中の様子をのぞくピッケルとムックル。
「本日はお日柄もよく・・・」
「そんな事ならば帰っても良いかのう。そろそろ牛達を小屋に戻さなきゃならんのだからのう。」
「そうだ、そうだ。はやく始めるならば始めてくれ。じゃなきゃウチは店をたたまなきゃならんのだ!」
そんな二人の言葉にも落ち着いた調子で長い髭をさすると、村長はこう言いましす。
「とは言え、話すことなぞ一つか二つ。冒険者を雇って街道に出る怪物を殺して貰うか、我々でなんとか怪物を殺すか・・・・じゃ。」
ムッケルがびっくりした顔で言います。
『怪物ころされちゃうんだって。』
ピッケルもびっくりした顔で言います。
『おじさんに怪我させたのは悪いけれど、殺すなんてかわいそうだよ。』
ムッケルの顔がこう聞きます。
『でもどうしよう。これじゃあ、お父さんちには聞けないよ。』
ピッケルの顔がこう言います。
『誰かいるかな・・・』
ムッケルの顔がまたびっくりしてこう言います。
『村はずれのおじいちゃんに聞いて見ようよ。』
ピッケル、ムックル。村はずれ。
そこに住んでいるおじいちゃんは変わった人です。
だって・・・・
「こんにちは〜」
元気よくピッケル、ムックルが挨拶すると、家の奥からムスっとした顔のおじいちゃんが出てきます。
が、おじいちゃん何も言わずに、また家の奥へと行ってしまったんです。
「・・・・ムッケルぅ。僕たちあのおじいさんに嫌われているのかな。」
「そんな事ないよピッケルぅ。だって・・・ほらね。」
家の奥から出て来たおじいちゃんの手には、ミルクの入った2つのコップとお菓子の入ったお皿があったのです。
ピッケルの目はお菓子だけど、空いている両手がいいます。
『ほんとだ、このおじちゃんいい人だ』
ムッケルの目もお菓子だけど、空いている両手で返します。
『でしょでしょ。このおじいちゃん、いい人なんだよ。』
ピッケルの目はまだお菓子だけれど、空いている両手はいいます。
『このおじいちゃんなら、きっとわかってくれるよ。』
ムッケル一生懸命おじいちゃんに説明します。
ピッケル一生懸命お菓子を食べています。
しばらくしてムッケルが話し終わっても、おじいちゃんは黙ったままです。
「・・・・」
そしてだまっておじいちゃん、家の奥へと入ってしまったのです。
ピッケルムックル顔を合わせます。
でも何にも言えません。
しばらくして戻ってきたおじいちゃんの格好は、お出かけ用の格好です。
ムッケルの顔がうれしそうに話します。
『わかってくれたんだ!』
ピッケルの顔が満足そうに話します。
『うん。お菓子もとってもおいしかったしね。』
ムッケルの顔がちょっと残念そうに話します。
『あ、ボクの分ほとんどない・・・』
ピッケルの顔がびっくりした用に話します。
『まだこれとこれが残っているじゃん。じゃ、これ全部ムッケルにあげるよ。』
ピッケルはそれだけ言うと、座っていた椅子から飛び降りておじいちゃんを案内しようとはりきっています。
ムッケルの顔がお菓子を見たままつぶやきます。
『これって、ピッケルの嫌いなのばっかりだ・・・・・』
それからすぐにおじいちゃんとピッケル、ムックルの3人で怪物が出たという所にやってきたのです。
ピッケルの心臓も、ムッケルの心臓も、ドキドキばっくん鳴りやみません。
おじいちゃんは地面をじぃっと見ていたと思ったら、スタスタ歩き始めます。
ふたりっきりにされるのが怖くて、ピッケル、ムックル、慌ててついていきます。
しばらく道を歩くと、急におじいちゃんは道の横の草むらへと入っていきます。
ピッケルのぶんぶん振っている手が言います。
『どうしよう、あっちいっちゃうよぉ。』
ムッケルのぶんぶん振っている手もいいます。
『でもここで待っているのはいやだよぉ。』
ちょっと間があってから、二人のぶんぶん振っている両手がいいます。
『それじゃあ行くしかないんだょぉ。』
おじいちゃんは草むらをずんずん歩いていきます。
ちょっと遅れてピッケルムックルが手をつないで歩いてきます。
と、その時。
ムッケルの目がどこかを見たまま言います。
『あれ・・・なに?』
ピッケルの目がキョロキョロしながら聞きます。
『あれって何?なんにもないよ。』
でもピッケルもムッケルも見てしまいます。
おじいちゃんの歩いていった方から、でっかい鳥犬のようなのが飛んでいったのを。
数秒の静寂のあとに。
「おじいちゃ〜ん!!」
怖いから手をつないで行くのも忘れて、ピッケルムックルはしりだす。
走って走って・・・
ピックル、ムックルおじいちゃんの背中に飛びつきます。
そしてワンワン鳴き出してしまったのです。
しばらくしてからおじいちゃんは言います。
「大丈夫。」
これがお父さんだったり、ガルくんやミーちゃんちのおじさんだったら、絶対にピックルムックル泣きやまなかったんです。
おじいちゃんだから、泣きやみます。
しっかりと服を握りしめているピッケルムックルをなだめると、おじいちゃんはじっとどこかを見ます。
それに気が付いたムックルがピッケルを見ると、すでにピッケルはおじいちゃんの見ている方を見ています。
ムッケルもそっちを見るけれど、なにもありません。
背の高い草とまっさおできれいな空だけです。
おじいちゃんがピッケルムックルに、ちょっと離れるように言います。
「・・・・・」
体は離れるけれども手が離れない二人に、ちょっとおじいちゃんが笑ったような気がします。
ポンと二人の頭を手でなでると、おじいちゃん。
「大丈夫」
ピッケルムックルがいる場所よりも、二歩くらい離れた所におじいちゃんがいます。
ムックルが気が付くと、おじいちゃんは小さなコインをもっていました。
ピッケルのムッケルの手をぎゅっと握っている手が言います。
『どうしたの?』
ムッケルのピッケルの手をぎゅっと握っている手が言い返します。
『おじいちゃんの持っているコインがなんかヘンなんだよ。』
ピッケルの手はそのままで、顔をおじいちゃんの方に向けながら言います。
『ちょっと大きめだけど、普通のお金じゃないの?』
ムックルの手の力がちょっとゆるんだけれど、またぎゅっとピッケルの手を握って言います。
『ううん。あのコインの女の人の顔・・・笑ってるモン!!』
ピッケルの手の力がちょっとゆるんだけれど、またぎゅっとムッケルの手を握って言います。
『違うよ!』
ムッケル思わずピッケルを見て言います。
『なにがだよぉ!』
ピッケルも思わずムッケルを見て言います。
『女の人にオヒゲは生えてないよ!!』
・・・・・・・
その時おじいちゃんの声が二人の耳に飛び込んできます。
ビクッとしながらもピッケルムックルおじいちゃんの方に顔を向けます。
おじいちゃんはよくわからない歌を歌いながら、踊っています。
その時、おじいちゃんの目の前から突然でっかい鳥犬が飛び出してきます。
でも。
ピッケルムックルが悲鳴を上げる前に。
おじいちゃんの歌が終わった時に。
でっかい鳥犬はみるみるうちに、小さくなって・・・・
地面に落ちたでっかい鳥犬は、でっかくなくて、犬みたいじゃなくて、ただの鳥になってました。
「これでいい。」
バタバタと暴れている鳥をおじいちゃんは簡単に捕まえて、ピッケルムックルの方を向きます。
「この鷹の名はなんとする?」
ピッケルムックルよくわからなくてしばらくじっとしていたけれど。
ピッケルが口に出して言います。
「フィルクがいいよ!」
ムッケルも口に出して言います。
「バンドラがいいよ!」
おじいちゃんしばらく考えてから、ぽつりと言います。
「フィクドラだな。」
ピッケルムックルふくれ顔。
ホントはね。
ピッケルムックル『フィクドラ』って名前。とっても気に入っているんだよ。
でも。
たま〜〜〜に、自分の考えた名前の方がいいかな〜っても、思っているんだよ。
「っで、おしまい。」
わ〜い、とひとしきり喜んだ子供は「今度は。今度は。」と違うお気に入りの本目指して走り出した。
「・・・あら?」
絵本を閉じた拍子に一枚の小さなメモが出てきた。
裏表紙と最後のページの間に挟んであったようだが、レスダルはそれを手にとって読んでみる。
「・・・研究の結果。この物語は実際にあったように書かれているが『でっかい鳥犬』というものがグリフォンであるならば、通常の・・・」
難しい顔をするレスダル。
「で、あるから、魔法では無理である。そして・・・・」
ため息一つつくとレスダルはそのメモを縦に、そして横に破く。
それから席を立って数歩離れた場所にあるゴミ箱へと、それを捨てる。
「誰が書いたのかわからないけれど、子供の夢を破るような事はしないでほしいわね。」
絵本を元の場所に戻そうとその場を離れようとした時。
「あったよ〜〜〜」
元気なその声の主に、気づかれないようにため息一つ。
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