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No. 00053
DATE: 2001/04/17 19:46:57
NAME: リュイン
SUBJECT: 初めての冒険
緊張をしていないと言えば嘘になる。
だけど緊張しているなんて見られたく無い。
だってそうだろ?初めてだからと言って私は冒険者なんだから。
これから同じ事・・・もしかしたらそれ以上の事があるかもしれないじゃないか。
それに仲間に迷惑をかけるのは嫌なんだよ。
そう思っていても目の前に広がる今にも崩れそうな天井や壁。
鼻をつくカビ臭い匂い。
頼れる仲間がいるからと言っても何時、何が起るかわからない状況だと緊張してしまうよ。
「リュイン、手と足が一緒に出いるぞ。」
仲間の一人であり私の師匠のフェーネスが声をかけてくれる。
その後、仲間達の笑い声。
笑う事は無いじゃないかと思いつつもふっと肩の力が抜けた感覚だった。
やくに立てないと言う事は知っているが足手纏いにならないようにの気遣いだったかもしれないが私はすごく嬉しかった。
ゆっくりとだが確実に先に進む。
聞こえるのは鎧や武器が擦れる音と足音。あとは息使いのみ・・・あとは何も聞こえない。
だからだろうか自分の心臓と音がやけに大きく聞こえるようだった。
緊張はやわらいでいるのに、進むにつれてまたせり上がって来る。
そして一つの扉に辿り着いた。
「リュイン。ここはお前にまかせる」
師匠の言葉に私の鼓動はいっきに跳ね上がった。
だってそうだろ・・・覚悟をしていたとは言えいきなりやれって。
「わ・・・私なんかが出来るの。失敗したらどうするんだよ!」
慌てていた。始めの扉は師匠がやるものだと思って居たから。
「リュイン、これがあんたの仕事だろ。しっかりやら無いといけないだろ?あんたなら出来るって。な、フェーネス。そうだろ?」
パーティの私を抜いての唯一の女の人。戦士のハフィルが笑いながら声をかけてくれた。
「当たり前の事だ。リュイン。おまえは出来る。自分を信じろ」
師匠の言葉・・・私は出来る。
扉に向き合う前、仲間の一人一人を見たら、皆がこくっと頷いてくれた。
信じられている・・・駆け出しで何もわからない私を信じてくれる。それがとても嬉しかった。
扉に飛びつき慎重に罠が無いか調べる。
鼓動が早くなる。だけどそれ押さえこんで調べる。
しばらくして罠が無いとわかると次は鍵を開ける事になる。
道具を取りだし鍵穴に入れる。
指先に神経を集中させる。
感覚は恐ろしく小さい。それを逃さないようにする為にだ。
・・・・しばらくして
かちんと小さな音をたて扉は開いた。
私はなれない緊張から解放されずるずるとその場に座りこんでしまった。
だけど体駆抜ける充実感。こんな私でも役に立つんだと思った瞬間だった。
だからと言ってここで休んでいる暇は無い。まだまだ先は長いんだから。
そして扉を越え右へ左へ曲がりどんどん奥へ入って行く。
いつしか自分の中の緊張もどこかに消え、いつしか自分は出来る冒険者だと思えてきていた。
こんな遺跡くらい軽い軽い。なんて思う気持ちも産まれていた。
そんな時にあいつに会った。
犬の顔をした妖魔。コボルドにである。
初めて見る妖魔。今までの慢心な気持ちはいっきにどこかに行き恐怖だけが体を支配した。
話の中では無く今、目の前にいる妖魔。
戦わないと死ぬのは自分。
わかっている。わかっているけど、体が動かない。
動け、動いてよ。なんど思っても動く気配は無い。
まるで麻痺の魔法か石化の魔法をかけられたように動いてくれない。
そこに誰の声かはわからないだけど一言、
「リュイン」
その一言で目が覚めたような感じだった。
そしてさっきまでのが嘘のように体が動く。
いつのまにか間を詰めたコボルトが一匹。
剣を抜き迎え撃とうとしたが相手の一撃が先に来た。
避け様としたが避けきれず受ける。
鎧が守ってくれたと言っても少しは自分にもダメージが来た。
少しの痛みのはずなのに全体に染みわたるような気がした。
だが今はそんなのを気にしていられない。反撃をしないと自分が死ぬから。
その感覚が本物になるから。
反撃の一撃。
肉を裂く嫌な感覚とともに広がる血の匂い。
だけど今止める事は出来ない・・・止める事は死を意味するから。
数分後。
なんとか戦いは終った。
でも初めての戦闘。初めての殺し。
とにかく肉を裂いた感覚が嫌だった・・・冒険者なんだからこんな事を言ったらいけない。
だけど嫌でしかたがなかった。
仲間は「誰でも初めはある事だ、それを乗り越えたものだけが冒険者とやっている」と言ってくれた。
私は乗り越えられるんだろうか?
そう思いながら私の初めての冒険は終った。
成功と挫折をいっきに味わった気分だった。
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