 |
No. 00055
DATE: 2001/04/20 02:06:17
NAME: メリープ
SUBJECT: 幕あい・見舞客1
軽いノック音。しかし中から返事はない。
どんなに音を立てずに入ろうとしても、きぃ……と、ドアが開く音がする。
ザードは、治療院の決まりに従い外出して、夜に戻ってきたところだった。
いつもは、この時間には目を覚まし、天井の一点を見つめているメリープが、今日は姿が見えない。
代わりに、ベッドの中でごそごそ動くものが見えるだけだ。
「……メリープさん?」
ちょっと不安になって、名を呼んでみる。すると、布団の中からメリープが這い出してきた。しかし、明らかに様子が違う。
「……どうかしましたかぁ?何か恐い夢を見た、とか?」
「うっ、ううん、何でもないですよぉ」
真っ赤な目をしている。明らかに泣きはらした目だ。鼻の頭も赤いし、頬も涙をこすった後らしく、少し赤くなっている。
どこからどう見ても何でもないような顔ではない。
「メリープさん?」
もう一度、名前を呼んでみる。メリープはじっとザードを見つめ返すだけだ。その視線に、ザードは何でメリープが泣いていたのかを悟る。
「もしかしてビリーのこと……誰かから聞いた……とか?」
恐る恐るメリープに訊ねる。メリープは応える代わりに、その目から大粒の涙をこぼした。それがきっかけとなったのであろう、一旦泣き止んだらしいメリープが、また、今度は声を殺して泣いている。
「……黙って泣かれると僕も辛いよ。誰から聞いたの?」
メリープはただ泣き続けるだけ。ザードは溜息をついて、フードを振り落とした。緑の瞳を、泣きぬれたメリープの碧の瞳に向けて、じっとメリープが落ちつくのを待つ。
そのうちメリープの嗚咽は徐々に治まり、しゃくりあげる声だけがその場を支配するようになった。
その中で、メリープはぽつぽつと話し始める。
「ゲイルがね、来たの。わざわざ、私に会いに。それでね、教えてくれたの。
私を襲った、あの、影が、ビリーを………………殺したらしい、って―――」
全て話し終えたメリープは、そこで再びわあぁぁぁぁ、と泣き崩れた。
ザードには、メリープの背中を撫でてやることしかできなかった……
「……ビリーは、いつここに来たの?僕がいるときには、姿を見なかったけど……?」
内にため込んでいた感情を吐きだしたメリープは、時々苦しそうな顔をしながらもとりあえずは落ちついたらしい。
ザードの放った質問に、途切れ途切れながらも答える。
「5日、前の……夜、に……来て……」
と、メリープはテーブルの上に置いてある、小さな塊を指した。
「あれ……くれたの……。も、う……形見に……なっちゃった、けど…………」
ふわっと、メリープの大きい瞳に涙が盛り上がる。透明なしずくが頬を伝う前に、メリープは右手で涙を乱暴に拭った。
「そんなことがあったんですかぁ……」
事実を聞いても、やっぱりメリープにかける言葉は見つからない。ザードは大きく溜息をついた。
(この状態じゃ……いつになったら元気になるのかなぁ……?)
 |