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No. 00060
DATE: 2001/04/26 23:07:59
NAME: メリープ
SUBJECT: 幕あい・見舞客4(本命?)
無茶をしたらしい。
早く良くなろうと思って、看護婦さんの目を盗んで動いていたから、身体は大分動くようになったけど……代わりに、体が熱い。
視界に、霞がかかったような……耳に、真綿が詰められているような……そんな、感覚。
そんな中、ふっと目を覚ました。
何か、音が聞こえたような気がしたから。
気になったから、目を閉じて、聞こえにくい耳に意識を集中してみる。
……こんこん。
聞こえた。あれはノックの音だ。
こんな時間に誰が来るんだろう?
疑問に思って、ドアに近づく。
ふわふわした感覚の中、ドアに手がかかる。
こんな時にも、私の頭の中にはザードさんがいる。
こんな時間に来るはずはないけど……もし、ザードさんならいいのにな……
って、思ってドアを開けた。
現れたのは、淡い金髪に緑の瞳をした……待ち焦がれた、ひと。
……ザードさん……??
ホントに、ザードさん……???
そう思ったら、急に身体がぐらりとした。
このまま崩れ落ちるのはイヤ―――そう思ったとき、身体が支えられる。
ザードさんが……私を?
疑問に思った次の瞬間、体が軽くなった。
一瞬、自分がどうなったか理解できなくなる。そして次の瞬間、ザードさんに抱き上げられていることを知って……
顔から、火が出たようだった。
今だけ、熱を出してる自分の身体に感謝した。……だって、顔の熱さを熱のせいにできるから……。
ベッドに戻った後、ザードさんはぶつぶつとお小言を言いはじめた。
曰く、無茶したら熱が出るのにどうして無茶したんですかぁ?とか……色々言ってたけど。
ザードさんの声が聞ければ、怒られてても……まあ、いいかな?
あとは、熱を出した頭じゃ、あんまり良く聞こえないから。
しばらくして、言いたいことを全部言い終わったらしいザードさんは、ついでのようにつけ加えた。
「そういえば……ブルーマロウを積んだ船がそろそろ来るらしいですけど……買って、おきましょうかぁ?」
「……そうですねぇ……お願い、できますかぁ?」
……もう、ブルーマロウを探し始めてから、二週間が経っちゃったのか……
ってことは、私がビリーに会ってから……河原で、刺されてから……それだけ経ったということになるのかぁ……早いなぁ…………。
取りあえずザードさんは、快くブルーマロウ購入を引き受けてくれた。
そして、用事を終えたらしいザードさんは、「注意しに来ただけですから」と帰ろうとする。
……行かないで!!まだ、行かないでよぉ!!
心の声があなたに聞こえるのなら、どれだけ大きい声で聞こえただろう?
そして、思わずザードさんの服の裾を握ってしまった。ザードさんは、その勢いで後ろに倒れそうになる。私も、思わず握ってた裾を離してしまった。
そして、自分のしたことに、今さらながら恥ずかしくなって、真っ赤になる。
「……顔、赤いですねぇ……また、熱上がって来ちゃったかなぁ……すいませんねぇ、こんな時間に来ちゃって……
このままじゃまずいですしぃ……看護婦さんでも呼びましょうかぁ?」
私は反射的に首を横に振る。看護婦さんなんて呼ばれたら、ザードさんと一緒にいられなくなっちゃうじゃない……。
だけど、そのままの理由を口にするのも躊躇われて、言い訳めいた建て前を口にする。
「だって……そしたらザードさん、怒られちゃうでしょ……?」
「今はメリープさんの身体の方が心配です。怒られるくらい、なんてことないですってばぁ」
そう言って、ザードさんは看護婦さんを呼びに行こうとする。
……絶対、イヤだ!そう思ったら、身体が勝手に動いていた。ベッドから立ち上がり……そのまま、立っていられなくて床にぺたんと座りこむ。
「だからぁ、無理しないでって言ったばっかりじゃないですかぁ」
ザードさんは、呆れたような顔をしながら頭をかいて、私を抱き上げてくれた。
(このまま、時間が止まれば、いいのにな……)
私をベッドに連れ戻した後、ザードさんは、空いてるベッドに腰かけて、言葉を続ける。
「……しかたないなぁ……。夜が明けるまで、ここにいましょうかぁ?」
耳を疑うような、嬉しい一言。でも、今は理性の方が勝っていた。ザードさんに悪いなぁって、本気で思ったから、言い訳ではなく本心で気づかう一言が言える。
「……うっ、ううん……それじゃ、ザードさんに悪い……」
「むう……じゃ、どうしましょうかねぇ」
のーんびりとザードさんが言ったその時。
(……苦しい……苦しい苦しい苦しい苦しい―――)
大きい咳が何度か。その最後に、イヤな予感……生命の証の、流出。
ザードさんが何事か叫んで、ばたばたと部屋を出ていく……けど、私は、薄れゆく意識の中で何も分からなくなった…………。
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