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No. 00062
DATE: 2001/04/29 23:09:41
NAME: ラザラス
SUBJECT: 報告書(濡れ衣完結)
空は雲で覆われ暗く、昼でも室内では明かりを必要としていた。ラーダ神殿の一室で一人の男がペンを置き、今にも降り出しそうな外を見て一つため息をついた。
あれから二年が過ぎた。
金髪の髪が色あせ皺も増えたように思える。書類の整理などに忙殺されているせいか、この男の表情はいつも堅く、厳しい。笑っている顔を見たことがある者が果たしているのかどうかと密かに噂されるようにもなった。
ラーダ神殿にその身を置き、高司祭の称号を得た男、ラザラス・フェイオー。40前にしてその高い地位は様々なやっかみの対象ともなっている。その男に課せられたのが二年前に起きた事件の報告であった。
彼の机の上にある羊皮紙の束には、調べた事件の詳細が記されていた。これを国に提出すれば全てが片づく。
目元を軽く指で揉み、二度三度瞬きをしてから羊皮紙をめくり最後のチェックに入った。
元を辿ればラーダ神殿に多額の寄進をするヨークシャル卿との関係まで遡る。
ヨークシャル卿の甥であったフォーマ卿はその当時、王宮に使える大臣の職にあり、主に財務を取り扱っていた。城から流れ出す使途不明金に気がついたフォーマ卿は表向き孤児院の実態に気がつき、合法的にこれを取り潰すよう画策する。
しかし、孤児院が貴族の一存で取り潰されると知った冒険者はこれに猛烈に反発し阻止しようと動いた。これに気がついた叔父ヨークシャルはラザラスに命じ、冒険者とフォーマ卿の仲裁役として動くことになったのである。
孤児院の実態はオラン王国のスパイ養成所であった。大臣であるフォーマに知られることなく金が流れているため、王にも知られていないと判断した彼は秘密裏にこれを潰そうと考えた。
諜報機関を取り仕切っていたエルサーク上級騎士にも思わぬ事態になっていた。シーフギルドと裏取引をしてスパイ養成に当たっていたエルサークと裏腹に、シーフギルドに潜り込んだシェル(ダークプリースト)が存在しており、養成していた者を暗黒信者に変えつつあったのである。
エルサークは亡くなった上司の夢を引き継ぎ、国のため王のため、スパイを養成し国のために働いていた。ただそれが国王の知ったところかそうでないかが問題であった。
事態に気がついた国王の命なしに動くエルサークをよしとせず、フォーマは合法的に潰そうと動いた。潰される側であるシェルもここで引き下がっては国を転覆させる計画が水泡と帰すので、フォーマの暗殺を謀る。そしてこれは成功し、フォーマ卿は殺されてしまうが、このときの罪人に仕立て上げられたのが道化師として雇われたばかりのシャウエルであった。
シェルの試みは成功したが、冒険者側も孤児院の実態に気がつき、ダークプリーストになりつつある子供たちを救うべく立ち上がっていた。シェルと冒険者は決着をつけ、シェルの計画は失敗に終わる。
この事件は国もシーフギルドも自らの面子を潰すだけになるため、公にはされず、闇から闇へと葬り去られた。
しかし、黙っていなかったのがヨークシャル卿であり、可愛がっていた甥であるフォーマが殺された怒りを向ける矛先が必要であった。それがシャウエルである。事件が事件であるため、衛視もまともに動こうとはせず、女の衛視であるユングィーナに捕獲が命じられ、捕まるはずのないと予想されていたシャウエルがユングの立場に同情して牢屋に行くことになった。
手柄を上げ、騎士昇級試験を受けさせてもらえるはずであったユングは、ここでも女という立場から衛視総隊長補佐というとても中途半端な昇進だけで片づけられ、シャウエルの心遣いも無駄になる。
このまま、シャウエルが無実の罪で罰せられれば事件は完全に闇に葬られることになっていたのだが、シャウエルが無実であるのに捕らえてしまったユングの懺悔によりドロルゴ一味に国の弱みを掴まれることになる。これを利用してドロルゴは情報操作のブルータを雇いシャウエルが無実であることを言いふらしはじめたのである。
正気でなくなったのが、エルサーク上級騎士であり、国が中傷されているのを黙って見過ごすわけにはいかず、また自分の行いが露呈するのを恐れ動き始めた。
ドロルゴ一味の真の狙いは混乱とシャウエルの解放であり、また殺害であった。個人的な恨みであり、自らの手で始末をつけたいと考えたドロルゴはあらゆる手でシャウエル救出の手を計る。
ヨークシャル卿を人質に取り、冒険者を手玉に取るドロルゴ一味。孤児院の子供たちまで利用して事態を混沌とさせていく。カイが人質に取られたりと、ドロルゴたちと対決する冒険者たちであったが、痛み分けにしかならない。
シェルの教えで闇の教えに開花したアドルは友人のリンと共にエルサーク上級騎士の殺害を試みるが、傷をおわすだけで失敗に終わり捕らえられた。
これが元で、ついに隠し通していた事態が国王に漏れ、エルサークは騎士の称号を剥奪され国外追放を受ける。アドルとリンは踊らされたとは言え、実行に移したことにより国外追放を受け、シャウエルは釈放されることになった。しかし、国内に居てもらっては困るため、シャウエルにも同等に国外追放の命が下される。
シャウエルを城から搬送するのはユングであった。二人には互いに惹かれあうようになっていた。しかし、この搬送を狙ってたのはドロルゴ一味であり、シャウエルを亡き者にしようとした。襲撃を素早く察知したユングは馬車から飛び降り、部下たちと共にドロルゴ一味と剣を交えた。
目隠しで馬車に詰め込まれていたシャウエルはこの事態に気がつかず、オランの地を更に離れることになった。しかし、ドロルゴ一味はその先でも待ちかまえていた。
馬車が転倒した弾みで目隠しがはずれ、持ち前の悪運ともいうべき行動でドロルゴたちを翻弄して逃げ延びた。
シャウエルはバリオネスと名を変え、仮面を被りオランに舞い戻った。愛しいユングに会うために。しかし、街をさまよっても、寄宿舎を見張っても彼女に会うことはできなかった。国外追放の身であるために表向きに動くわけにもいかず、彼はひたすら待つことにした。
しかし、彼女は現れなかった。ユングィーナはドロルゴ一味の襲撃の傷が元で死んでいたのである。
父親の急死により、騎士にならねば使用人たちを養うこともできないと感じた彼女は騎士になるための努力を重ねるが、歴史あるオランにおいて女人が後ろ盾もなくして騎士になることは不可能に近かった。なんとか衛視隊長の地位を得、さらに衛視大隊長補佐の地位を得た彼女に次なる手柄があれば、いくら後ろ盾がないユングにも騎士昇級試験のチャンスを与えられるはずであった。
そしてエルサーク上級騎士への襲撃事件を阻止した手柄が与えられることが約束されていた矢先の死であった。
エルサーク上級騎士の諜報機関活動から、フォーマ卿の孤児院潰し、濡れ衣の噂など、一連の事件は公式の記録から外されることになった。そのため、ユングの死も公に公表されることはなく、この事件を知る者はごく一部の者だけとなった。
ラザラスは羊皮紙を束ねると、立ち上がり脇にあった箱に収めた。
「まったく後味の悪い事件だったな」
そう呟くと彼の愛弟子であるリズナを呼び出し、出かける旨を伝える。
元気に返事をした若者は急いで仕度の準備を進めるのであった。
イベンターより
大変遅くなり、また、粗筋締めという結果で終わらせてしまったことをお許しください。熱が切れる前にイベントは終了させるべきですね。
2年前の1月末からはじまったイベントが、去年の1月に続編としてはじまり、尻切れトンボになっておりました。この大筋で完結とします(笑)。
メインになるべく冒険者の活躍を執筆できず誠に申し訳ありません。ご容赦ください。手を広げすぎました。
一番迷惑をかけたのはかいちょ〜文成さんですね。大筋ですが、事態は把握できたでしょう。
これで存分に活動してください。追放は受けてますが、事件事態が公式記録にないので、素顔でもまぁ、捕まることはないと思ってください。もっとも一部の衛視は知っていますが、部下Aであるアルフォーマも関わり合いたくないというのが本音ですので、捕まえることはないでしょう。
他、多くのPLの方、途中描写で申し訳ありませんでした。
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