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No. 00064
DATE: 2001/05/01 01:54:49
NAME: ユウラ・フレスベルク
SUBJECT: Brand new Spear
わたしには神官戦士の先生のほかにも、武術の師匠が居た。
近所の先輩冒険者の人、それがわたしの師匠。
ある日、槍の腕もそこそこになったとき、初めてお仕事に誘われた。
たかだかゴブリン退治なので、わたしがついて行っても支障がないみたいだった。
わたしは嬉しかった。
そして、わたしと師匠の2人だけだったので少し心細いとも思った。
でも、前の晩になると仕事のことに浮かれて、持ち物の用意に勤しんでいた。
すぐに片付くとの話だったので、食料は最低限に。
水は少し多めに。
お酒は好きだけど、仕事なので持っていかない。それにわたしは悪酔いするし。
一通り袋に詰めたところで、壁に立てかけてある愛用のショートスピアを手にとる。
わたしにしては軽い槍だったけど、師匠いわく「お前はまだまだ甘ちゃんだから、今はそれで我慢しろ」らしい。
そして黒塗りのチェインメイルの点検。
準備万端、今日は早く寝よう。
そして明朝。
目を覚ましたわたしは、チェインメイルを着込み、黒いグローブをはめて、背負い袋を背負って、槍の穂先にカバーをかぶせて師匠のもとへ。
「さ、いくぞ」
森の奥深く。
草むらにしゃがみ込んでいる。
すぐそこにはゴブリンの小規模な群れ。
「は、はい・・・」
槍を握りなおし、息を呑む。
ここまで一回も魔物と会わなかったので、これが初めての実戦となる。
緊張を隠しきれずに師匠と一緒に飛び出す。
即座に応戦してくるゴブリン。
身体が思うように動かない。
すぐ向こうでは師匠がゴブリンを薙ぎ倒している。
わたしもぎこちない動きで槍を突き出すが、ゴブリンはそれをさらりとかわす。
反撃してきたゴブリンの爪が、幸運にも鎧をかすめるだけだった。
チャンス・・・かもしれないと思って槍を思いっきり突き出した。
(・・・マイリー神の加護を!)
刹那、手に伝わる嫌な感触。
肉を抉る、嫌な感触。
よくよく見れば、槍はゴブリンの心臓を貫いていた。
俗に言う痛恨の一撃。
ゴブリンは吐血し、倒れた。
眼下に広がる、血の海。
視界に写るものは、赤、赤、赤、赤・・・。
世界全体が赤くなったように錯覚した。
そして気がつくと、師匠が残りのゴブリンを屠り殺していた。
「ユウラ」
名を呼ばれてはっと振り向く。
「1体でも、よくやった」
頭を撫でてくれる。
そのとき、緊張が解けたのか、わたしは泣いていた。
しばらく泣いた後、ゴブリンの胸に刺さったままの槍を引き抜く。
――バキッ!
「あ・・・」
愛用にしていた槍が、音を立てて真ん中から折れてしまった。
唖然と折れた柄を持って、それを見ていた。
ふと、師匠が笑ったような気がした。
「え、師匠・・・?」
「ん、なんでもない。さ、帰るぞ」
そう言うと、師匠は剣についた血糊と脂を拭き取り、鞘に仕舞い込んで歩き出す。
「待ってください〜」
慌ててその後を追った。
これが、初めての仕事・・・小さな冒険だった。
後日。
「ユウラ、これを」
師匠が手渡したもの、それは。
「ロング・・・スピア?」
「ああ。お前はこれからこれを使え。前のは折れただろ?」
柄が黒い、一振りのロングスピア。
手渡されて、すぐに手に馴染んだような気がする。
「お前、黒い色が好きだったよな。だから、黒塗りにしてもらったんだ。ちゃんと使えよ」
フフッと笑った師匠。
わたしの手には黒塗りのロングスピア。
「はいっ!大事にします!」
それから、この槍がわたしの愛用になった。
〜Fin〜
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