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No. 00068
DATE: 2001/05/02 07:54:46
NAME: バリオネス
SUBJECT: 錯乱とこれから
4月29日の夜。
一人の衛視に言われた。
『姉さんはお前をかばって死んだんだ!!』
ユングィーナの死を知り、レドとシリルと別れた後。
バリオネスは呆然としたまま、しばらくオランの街を夜が明けきるまでさまよっていた。
その時、突然胸に激痛が走る。
痛みは精神的なものでもなく、物理的なものとも異なる痛み・・・
しばらく痛みの原因を考えていると、突然頭の中によく知った声が響く。
『そろそろお迎えが来るみたいだ。長い間なかなか楽しかったよ。あっちで彼女に会ったらお前の気持ちを伝えといてやるよ。』
「まてお前。」
慌てて胸のポケットから使い魔であるカエル(年齢性別不明)を取り出し、問いかける。
「冗談はよせ。」
『・・・』
強烈な脱力感と不快感のためか頭の中が真っ白になり、その場に膝をつき動けなくなる。
それが死ぬ間際の感覚である事に気づくのは、胃の中の物をすべて戻した後でだった。
そのあとカエルの死骸を川に流すと、涙が止まらなくなる。
そのままの状態で港まで歩き、そこで大声で泣き出す。が、しばらくすると大声で笑い出す。
「ふふは、ふふは、ふははははははははは」
昼過ぎになってようやく思考能力が戻ってくると、港から離れこれからの事を考える。
『・・・盗賊団はもう無意味だ。かと言って私一人で潰せるほど小さくもない。ティカとメリープも、もうあそこに居させる必要もない。しかしそのままにしておくわけにもいかない。』
「やはり逃げ出すしかないか。」
そうバリオネスはつぶやくと、アジトへと向かった。
**いん、本部アジト
「・・・あと・・・なにがあるだろうか。」
仮面はどうしたという部下の質問を無視し、自分の部屋にこもって逃げ支度をする。
それが終わったあと、メリープとティカを部屋に呼びつける。
「来たか。」
扉が完全に閉まるのを待って、持っていたナイフで長い髪を首の辺りでバッサリと切る。
目がテンになっている二人にバリオネスは声をかける。
「では逃げるぞ。」
メリープとティカはお互いに顔を合わせた後、バリオネスの方を向いて聞く。
「どういうこと?っていうか、お面は?」
「逃げるのか、残るのか。どっちにするんだ?」
とは聞くものの、二人の意見がどちらに行くのかは分かっていた。
「お頭が逃げた!」
「そんなのいつもの事じゃねぇか。」
「そうだ、そうだ。気にする方が疲れるからな。街にでも徘徊しに行ったんじゃねぇのか。」
それでも逃げたと言い張る部下の一人に、違和感を感じたブライアンが部屋に行ってみると机の上に置かれた書き置きに気がついた。
「あとはまかせた、好きにしろだと・・・・そうさせてもらおうじゃねぇかよ。おい!捕まえておいた女を連れてこい。パーティーだ!!」
「いませ〜〜ん。お頭が部屋に呼びつけたあとから行方不明で〜〜す。」
なさけない部下の声に、ブライアンは怒鳴りながら聞いた。
「宝物庫は、宝はどうだ!!」
「なにも無くなってはいません。」
その言葉で、ふとバリオネスの性格を思い出す。おもわず笑みがこぼれる。
「宝よりも女を選ぶか。アイツらしい。まぁ、とりあえず・・・」
ポンっと近くにいた部下の一人の肩に手をのせる。
「今日からお前がバリオネスだ。なぁに、仮面付けて立ってりゃいいんだ。俺が色々と指示してやるさ。」
キョトンとしている部下に対し笑いながらブライアンは言った。
「魔法使いがいると思わせさえすればいいんだよ。そうすれば敵は勝手に逃げていくさ。」
そして今いるだけの部下を集めると、ブライアンは宣言した。
「今日から俺が一番偉い!文句のあるヤツは・・・・」
腰に下げている剣の柄に手をかける。
そして一呼吸置いてから、歓声があがる。
それはブライアンをこの中で一番偉いと認めるものであった。
このことをジェロームが知ったのは、3日以上たってからの事であった。
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