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No. 00072
DATE: 2001/05/05 02:22:10
NAME: ガーダルド
SUBJECT: 腕の見せ所
実年齢より若く見えるこのドワーフの爺さん。名前をガーダルド・ガーダインという。
生まれはグードン。彼はグードンでは少しは名の知れた武器職人だった。
だがベルダインの見本市に出された一本の包丁を目にした事が、彼がグードンを出るきっかけとなる。
その包丁を作ったのはムディールの者だった。ガーダルドは頼み込んでその男に弟子入りしグードンを後にした。
以後、来る日も来る日も鉄を打ちつづけ、師よりその全ての技術を学んだ。
気がつけばガーダルドの年は100を超え皺も白髪も増えていた。
故郷のグードンでは、興ったばかりと思ったていた統治国フォンは滅び、リジャールとかいう男がオーファンという国を興したという。
そして、身近な変化をいうならば、神を崇めなかった師は墓標代わり楠の下で永遠の眠りについていた。
ガーダルドはムディールを出ることを決意する。
彼はふらりと米の酒を手にしてその楠の幹に乾杯すると一礼して国を後にした。
★
ガーダルドは一年間オランの工房の火を消していたが再び舞い戻ってきた。
「やっぱりオランが一番だな。」
先月まではカゾフにいい砂鉄が取れると聞くとカゾフで工房を開き、パダにいい鉄が集まると聞けばいって確かめに行くという生活を過ごしていたが、結局居心地がいいのはオランの王都だった。
ガーダルドは真っ暗な自分の工房につくと背後にいた男達に号令する。
「野郎ども!構いやしね〜、この炉ぶっ壊してくれ!」
そう言うと男達は一刻しないくらいの時間で炉……いや正確には炉の土台を叩き壊した。
ガーダルドはそれらを黙って笑みを浮かべながら見ていた。
「おうご苦労!じゃ次いってみようか!」
そう号令すると、男達は今度は壊した炉の破片を片付け、新たな炉の材料となる鉄釜やレンガを工房内に持ち込んだ。
「ガーダルドの親方、壊してまた新しい炉を造るなんて意味あるのかい?」
と、レンガを両手に抱えた男がガーダルドに聞くと、彼はニカッと笑って調子を取るかのように煙管を叩いて男に答える。
「おう、てやんでぃ!一度消した炉は死人と同じでぃ!だからぶっ壊して炉に感謝を込める意味でも山に戻すんでぃ。ま、これは俺っちの師匠から学んだ仕来りってもんだがよ。がっはっはっ!」
その答えに男は納得しているのかどうかわからない複雑な表情で炉の組み立て作業に戻った。だが内心「山までこの瓦礫を持っていくのは俺達なんだがな。」というぼやきはガーダルドの知ることではない。
★
次の日である。
工房の中心には前の炉より少し大きめの炉が出来上がっていた。
それを満足げにガーダルドは見上げて豪快に笑っている。
「野郎ども!これからが正念場でぃ!」
そう言うとガーダルドは炉を丹念に見てまわって適度に乾いていること確認すると、米の酒を炉の周りに撒いて大地の精霊への感謝の言葉をあげ、次いでブラキへも祈りを捧げる。
ちなみにブラキへの祈りは師から学んだものではない。彼個人の信仰からである。
それを終えるとガーダルドは男達に炉に炭を敷き詰めるよう指示をする。
男達は手際よく炭を敷き詰めると、それをガーダルドに確認させる。だが敷き詰められた炭を見て彼はあまりいい顔をしなかった。
「おう!なんじゃこれは?」
「だから言われたとおりしたじゃね〜か。」
「誰がこんな敷き方をせいと言ったか。この馬鹿野郎が!やり直せ!」
その後何度も同じやり取りと怒号が繰り返され、結局炭を敷き詰めるだけで数刻を有す事となった。
それが終わると今度は火入れである。
炭が元々の黒から夕日の色くらいの赤になり始めるまで炉の中に風を送り込んで加熱し、頃合を見計らって量を測りながら砂鉄や砂鉄にした鉄を炉に入れる。そして、炉の中の温度が下がる前にまた炭を入れて、同じく風を送り込んで加熱するといった作業を4日余繰り返すことになる。
無論そのような作業であるので、炉は揺れて見えるほどの熱気を発し、その熱さが男達を苦しめる。
だがガーダルドはそんな彼らを笑いながらも厳しくチャックし、風の入れ具合が悪かったり、怠けていると容赦なく彼の煙管が飛んだ。
だから男達はガーダルドの目を気にしつつ汗だくになりながらも、必死に作業を続けた。
一方ガーダルドとて、ただ見ているだけではない。
出来上がる鉄をどう使うかなどの計算と、リックから頼まれた折れた剣の修復作業をしなくしてはならなかった。
ガーダルドはその折れた剣を手にし、
「まったくよぅ、て〜した物だぜ。ま、武器としては三流だけどよ、美術品としては絶品だぜ。」
と、言いながらガーダルドは型を取るためにその剣に溶かしたバターを塗っていた。
そして塗り終えると、今度は熱した蝋が入った木枠の桶に慎重に沈めて固まるのを待つ。
飯を食うには丁度いい時間である。煙管を吹かしながら工房を後にした。
飯から戻ると桶の蝋は綺麗に固まっていた。
ガーダルドは蝋の塊となっているそれに横からヘラを入れる。先に塗ったバターも程よく固まっているようだ。そのおかげで綺麗に剣と蝋を引き剥がす事ができた。ガーダルドは満足そうな笑みを浮かべて何度も頷く。
「よしよし、綺麗に型がとれた。後はこれでもう一回型を作って、布を貼り付けたら終いじゃな。」
ガーダルドは剣に張り付いたバターを洗い流しながら、炉のほうに目をやる。
すると風を起こしていた男は丁度怠けていたらしく、目が合うと慌ててフキコで風をおこし始める。
「けっ!俺っちが目をちょっと離したらあれだ。まったく最近のわけ〜のはよう!」
★
鉄が出来上がる同じ日に型もようやく出来上がった。
順を追って説明すると、実際の剣の折れている付近の蝋型を輪切りにして残し、そこの部分だけ再び蝋で型を取る。
そして、それに幾重にも布を張り重ねて完成という、こちらも手間の掛かる作業だったのだが出来栄えは完璧だった。
「うし!栓を抜くぞ!野郎どもぶっ壊せ!」
ガーダルドがそう号令すると男達は炉の解体を始め、上の炭を重ねていたところが取り除かれると、土台に吊るされた鉄釜たけが残った。
覗き込むと中にはオレンジ色したドロドロに溶けた鉄が熱気を発しながら男達に存在をアピールする。
ガーダルドが窯の栓を抜く。すると溶けた鉄が流れ出てくると、その下に張られた水桶の中に落ちて白い水蒸気が工房内を白くする。
それを見て男達は歓喜の声をあげて色めき立つ。男達にとっては初めて作った鉄だったからだ。
「おう、野郎どもご苦労だったな。これからが俺っちの仕事だ。おめ〜ら、よく頑張った。この事しっかり憶えておくんだぞ。おめ〜らの親方が何のため俺っちの所に遣したかわかっただろう!」
と言うと、ガーダルドは白い歯を見せて笑うと、鼻っ柱を擦りながら男達の労を労う。
鉄は出来た。しかし、これからがガーダルドにとっての勝負である。
ガーダルドは十分水を含んだ例の型に剣をはめ込み、それに溶けた鉄を流し込むと、そのまま水で強引に冷やして固まらせ、余分な部分を鑢で研ぎ始める。
そして、適当に整うと今度はそれを熱して金槌で打ち続ける。
その後は熱しては冷やし、削っては叩きといった作業を繰り返して少しずつ元の剣の鉄と接着剤代わりの鉄を馴染ませさせる。
その作業は一昼夜繰り返された。見学していた男達の大半は眠りこけている。だが黙々とガーダルドは金槌を振り続け、継ぎ目がわからないまでに鉄を馴染ませることに成功する。
それを見た男達がどよめきが工房内を包むと、ガーダルドも自慢げな顔をして豪快に笑う。
「俺っちにかかればこんなもんよ。」
そう言うと彼は工房の隅に置いていた酒を浴びるようにかっくらって次の仕事の指示をする。
「じゃ〜一休みしたら、今度は剣を打つぞ。そこの一番大きい塊、そっちの窯にくべておけ!」
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