 |
No. 00073
DATE: 2001/05/05 03:25:04
NAME: ザード
SUBJECT: 想い
※さらわれた(らしい)メリープを探すザード。しかし、探すのも一苦労な様子…
「えーっと…こんな人、知りませんかぁ?」
メリープさんの父親からもらった(借りた)小さい肖像画を人に見せる…が、ほとんどの人が、知らない、見たことない、と答える。
オランの町には、何十万(百万単位だったかもしれない)という人が住んでいる。その中の一人を探そうとしても、同じような答えが返ってきて当たり前である。
ザードは、そのうちに、裏通りの人にもメリープの行方を聞くようになった。そして、半日ほどたったころだろうか、裏通りの酒場から出てきた男に、ザードは声をかける。
「あの〜…こんな人、見ませんでしたかぁ?」
肖像画を見ると、その男は顔色を変える。
「し、しらねぇなぁ、そんなやつ」
見るからに、慌てている。ザードは、この人がなにか知っているのではないか、もしかしたら、さらった(さらわれたかどうかはわからないのだが)人の仲間なのかも知れない、と思い、さらに問い詰める。
「なにか、ちょっとしたことだけでいいんです、知りませんか?」
「うるせぇな、しらねえって言ってんだろうが!」
ザードは、その言葉にむっとして、去ろうとしている男の前に回りこんで、さらに問い詰める。
「なら、なんでそんなに慌ててるんですか? なにか、知ってるからそんなに慌ててるんじゃないんですか?」
この言葉が相手の男の神経を逆撫でしたらしく、ザードの胸倉をつかむと、裏通りの更に奥へと引きずりこむ。
「うるせぇって言ってんだろ!!」
問答無用で、殴りつけられるザード。
殴られながら、ザードは別のことを考えていた。
(なんで、僕はこんなことされてまでがんばってるんだろう? いくらメリープさんが心配だからって、こんなことされてまでがんばることなんてないような…)
ふと、メリープの姿がザードの頭の中にうかぶ。
怪我してメリープの家に運び込まれて、目を覚ましたときのメリープの安心したような顔。
学院前で会ったときの、なんだか照れたような顔。
通り魔に襲われて、それでも自分の心配をしてくれいてたときの白い顔。
見舞いに行ったときの、帰ろうとした自分服のすそをつかんだときの妙に赤かったメリープの顔。
あのとき、僕は心の奥で喜んではいなかったか? まだ、メリープさんといられる、と。…タラントから、またオランに来るときには、出来るだけ、他の人とかかわらないようにしよう、と考えていたのに。誰にも、親しくしないようにしようとしていたのに。
なぜ? どうして? なんで?
「…いいの、あなたが、来てくれて、うれしい…」
治療院での、メリープのその一言が思い出される。
その一言を思い出し、思わず、涙がにじみ出る。
「けっ…しつこいからこーゆー目にあうんだよ」
そんなことを考えているうちに、相手の男は、殴り飽きたのか、ザードから離れようとする。
倒れているザードの顔の上に、さきほど相手に見せたメリープの肖像画がひらり、と落ちてくる。
それを握りしめ、ふらりと立ち上がり、去ろうとしている男の後頭部をわしづかみにして、体重を乗せて石畳の床にたたきつける。
ごづっ、といういやな音がするが、今のザードは、そんなことは気にもしていなかった。
「メリープは…どこだ? 答えなきゃ……どーなるかは、わかってますよね」
静かな口調で、男に石畳の上に転がり、立ち上がることも出来ない男に問いかける。
男は、やはりメリープを誘拐した者達の仲間だった。頭領がいなくなった、とか余計な話もべらべらと喋ったが、そんなことはどうでもよかった。ただ、メリープがそこにいる。それだけわかればよかったのだ。
男から教えられた(脅して口を割らせた、とも言う)道をひた走り、ザードは少し後悔していた。
(どうして、いままで気がつかなかったんだ…自分の気持ちに。もっと早く自覚してたら、もっと違うようになっていただろうに……)
しかし、時は戻らない。だから、今出来ることをする。それは……
「メリープ…今、助けに行く!」
そうして、ザードは夜の裏通りを走り抜けていった。
 |