 |
No. 00074
DATE: 2001/05/06 04:52:07
NAME: ネット他
SUBJECT: 志、そして…
2月12日。月の曜日。正午。
きままに亭前に、続々と9人の男女がそろい始めた。
「やあ、カディオス兄ちゃん、久しぶり」
金髪のグラスランナーが、頬に傷のある戦士に声をかける。
「シリル!久しぶり久しぶり!」
同じグラスランナーの少年が、金髪に抱きつく。
「やあ、ネット。気合充分だね!」
シリルが振り向く。お互いに顔を見合わせて、楽しげに笑いあった。
「やれやれ、遊びに行くんじゃないんだよ」
女盗賊のカーナが、二人を見てため息をつく。
「本当にグラスランナーはお気楽ね」
レイシアがくすくすと笑う。
「で、ちょっと顔ぶれが足らないようだけど?」
フェリアが腰に手を当てて言う。
「あら、ホントね。寝坊でもしたかな?」
「寝坊したら罰ゲームだ!」
「腕立て伏せ19回だね!」
「何でそんなに中途半端なんだよ?」
カーナが突っ込みを入れる。
そうこうしているうちに、リーラがやってきた。
「ごめんなさい。遅れちゃった」
「おばさん!遅刻だぞ!」
「腕立て伏せ31回だよ!」
「だからなんでそんなに中途半端なんだよ!?」
またカーナがツッコミを入れる。
そこへ、エリシスが息を切らせて駆けつけた。
「ごめんなさい。お父さんを撒くのに手間取っちゃって……」
「父親を撒いてきたのか?」
カディオスが問う。
「ええ。うちのお父さん、厳格なんです。1週間かかるって言ったら急にダメだって」
「……いいのか?やめてもいいんだぞ?」
「構いません。私、冒険好きですから」
エリシスがにっこり笑った。
「さて、と。これで全員?」
レイシアが改めて全員に問う。
「せんせー、クリス兄ちゃんがいませーん」
シリルが挙手する。たしかにクリスタルの姿がなかった。
「あれ、ホントだ。どうしたのかな」
「困ったわね。もう少し待ってみる?それとも誰か、彼が泊まってる宿とか知ってるかしら」
全員が顔を見合わせた。
誰も知らないのだ。
下手をすると名前と顔さえ一致していないかもしれない。
「待つしかないかぁ……」
カーナがぼそっとつぶやく。
そして待つことしばし。
重い足取りで、クリスタルが現れた。
随分と顔色が悪い。
「あんた、どうしたのよ?」
カーナが顔を覗き込む。
クリスタルは覇気のない声で答える。
「すいません…ちょっと風邪を引いてしまって」
「ちょっと、大丈夫なの?これから一週間も旅するのよ?」
「すいません……」
がっくりとうなだれる。昨日の夜、必死でサラマンダーとの会話を試みていたことは、とりあえず黙っておくことにした。
シリルが彼のローブのすそを引っ張った。
「クリス兄ちゃん、大丈夫?無理しないでもいいよ」
心配そうに見上げるシリルに、クリスタルはゆっくりとかぶりをふった。
「いいんだ。連れて行ってほしい。足手まといにしかならないかもしれないけど……」
「とんでもない!」
カーナは大げさに手を振った。
「この中で精霊魔法が使えるのは君だけじゃない。頼りにしてるよ」
「は、はい!」
ぱっとクリスタルの顔が明るくなる。
「これでみんなそろったわね。じゃあ、出発するわよ」
レイシアが声を張りあげる。
「なーんか、引率の先生みたいだー」
シリルがまぜっかえす。
全員どっと笑った。
レイシアは少し顔を赤くしてじろっとシリルを見たが、シリルはそんなこと全く気付きもせずに一緒になって笑っている。
「……行きましょうか」
そして一行は旅立った。まだ冷たい冬の風が、彼らを見送るように落ち葉を巻き上げた。
その日は何事もなく過ぎていった。街道から少し外れたところにキャンプを設けて、今日は野宿になった。
焚き火の火が消えないよう薪をくべながら、カディオスは傍らで眠る仲間たちを眺めた。
ネットが苦しげに寝返りを打つ。家族の事を夢に見ているのかもしれない。
「家族を……皆殺し…か………」
誰にとはなしにつぶやく。
過去の記憶がよみがえりかけて、慌ててそれを追い払う。
自分には父親が生きている分、まだましかもしれない。このたびが終わったら、改めて父親を探しに行こう。
最近は随分とないがしろにしてきたが、自分が旅をする本来の目的なのだ。
小さくため息をついて、もう一度あたりを見回す。
「……?」
奇妙な違和感がする。
もう一度見回す。
魔物の気配はない。
気のせいだったのだろうか。
仲間たちを見る。1人、2人…7人。7人?
1人足りない。
全員の様子を見て回る。レイシアの隣で眠っていたのは確か……
がさっ
突然の物音に、カディオスは藪をにらみつけた。
「誰だ!」
得物の槍に手を伸ばす。が、しかし
「そ、そんな怖い顔しないでくださいよー……」
随分と気の抜けた声とともに、藪からエリシスが顔をのぞかせた。
「エリシスか。そんなところで何をしているんだ?」
拍子抜けしたように、カディオスが言う。
「え?え〜と………ちょこっとお花摘みに……」
エリシスは頬を掻きながら焚き火に近づいた。
「よくそんな言葉を知っているな」
カディオスは呆れ顔で答える。お花摘みとは、いわゆる女性の生理現象を指す山言葉だ。ちなみに男の場合は鷹狩という。
「カディオスさん、見張り朝までなんですか?」
エリシスが問う。
「ああ、そうだ。まあ、その分先に寝させてもらったから、全然構わないけどな……エリシスは寝なくていいのか?」
「なんだか目が冴えてしまって。そのうち眠くなったら……」
にっこりと微笑む。カディオスもつられて笑みを返した。
「そういえば、エリシス。この間クッキー作ってくるって言ってたけど……どうなったんだ?」
「えっ?……え〜と、その……なかなか作る暇がなくって」
もじもじとカディオスを見上げる。
「なんだ。忘れていたか」
「そっ、そんなこと……それよりもっ、カディオスさんはどうしてこの旅に参加しようと?」
突然投げかけられた質問に、カディオスは面食らったような顔を見せた。
「まぁ、もともとは俺が頼まれたんだ。仇を取ってくれって」
「そうだったんですか?」
「ああ。その相手をたまたまシリルが知ってて……」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!」
「だぁっ!」
突然背後からシリルがカディオスに飛びついてきた。
「なにすんだ!おまえ!」
「カディオス兄ちゃんこそ、なあに2人してハートマーク飛ばしてるんだよ?」
シリルが楽しげににやりと笑う。カディオスはこめかみを押さえた。
──しまった。こいつこの手のゴシップネタが三度の飯より好きなんだった。
エリシスは気まずそうにそっぽを向いてしまった。
「そんなことねえっ!」
「うん、ムキになって反論するあたりすっごくぁ ゃι ぃ ね」
「こいつ……」
「ん?どーしたの?カディオスにいちゃ……わぁぁぁっ」
ふいにカディオスの手が伸びて、シリルの襟首をつかんだ。そのまま力任せに前に引っ張り出す。
「うわわわっ。……なにすんだよぉっ!」
「おまえ、緊張感全然ないのな」
呆れ顔でカディオスが言う。案の定シリルは満面の笑顔で
「そうさ!俺たちグラスランナーに緊張なんて言葉は不要だよ!」
はうぅぅぅぅぅぅぅ
カディオスは深く深くため息をついた。シリルが少し首をかしげる。エリシスはそんな二人の様子を見て、ぷっと吹き出した。
「仲がいいんですね、2人とも」
2人は一瞬動きを止めて、びっくりしたようにエリシスを見た。
先に立ち直ったのはシリルだった。
「そ〜だよ〜♪俺とカディオス兄ちゃんの仲だもんね☆おねえちゃんには渡さないよ!」
悪乗りしてカディオスの首にぎゅうっと抱きつく。
「こっ、こらっ!よせっ!!」
慌ててシリルを引き剥がす。楽しげにけらけら笑っているかと思いきや、意外に真顔で左手の茂みをじっと見つめている。
「ん?どうした?」
シリルの視線を追う。特に変わったところは見当たらなかった。
エリシスもきょとんとした顔で、少し首をかしげている。
「ん〜ん、なんでもないよっ」
不意にシリルが振り返った。そしていつものようににこっと笑みを浮かべる。
「あはは〜☆びっくりした?」
「もう、脅かさないでくださいよぉ」
エリシスは苦笑すると、そっと立ち上がった。そしておやすみなさいと言って自分の寝ていた場所へと戻っていく。
その背中が、毛布にもぐりこむのを確認して、シリルがいつに無く真剣な声でささやいた。
「カディオス兄ちゃん……あの辺……なんか嫌な感じがするんだ。俺の杞憂ならいいんだけど……」
「やっぱりか」
「見に行く必要はないと思うけど、一応気をつけといてよ」
そういってシリルもひょいと席を立つ。
「わかった……って、おい」
立ち去ろうとする襟首を、がっしり捕まえる。
「な、なあに?カディオス兄ちゃん」
笑顔でシリルが振り返る。そのこめかみに流れる汗を、カディオスは見逃さなかった。
「どこに行くつもりなんだ?」
「寝床に……」
「おまえ、この状況で俺1人に見張りやらせるつもりかよっ。なんかあったらどーすんだ!」
「あ、やっぱりゥ」
「ハートマークつけて誤魔化すなっ。とにかく、おまえも起きてろ。おまえも野外には強いだろ」
「わかったよぉ……」
ぶつくさ言いながらシリルはカディオスの横に座りなおした。
こうして2人で朝まで仲間を見守りつづけることになるはずだったが、シリルは夜更かししていたせいか、さっさと船を漕ぎ出してしまったということを付け加えておく。
旅は順調に進んでいた。9人という大所帯のおかげで、野党にカマをかけられることも無く、すこぶる順調だった。
やがて山道にに入り、冒険経験の少ない者達が蛇に悲鳴をあげたり、シリルが蝶を追いかけていってがけから落ちかけたり、リーラが獣と間違えて狩猟者に弓を射掛けたりしたが、特に大した事件も無く3日が過ぎた。
そして、4日目の朝早く、その場にたどり着いた。
全員が息を飲んだ。
渓谷。
谷底はもやがかかっていて見えないが、おそらくごつごつとした岩が立ち並び、浅い川に激流が流れていることだろう。
そして、古びた吊り橋が一本。
「渡るんですか……ここを?」
エリシスが震える声で言う。谷底から目が離せないといった様子だ。
「渡るしか……ないだろ」
カディオスもぞっとしないといったふうに答える。
「よおし、シリル!競走だ!」
「おーーーっ!!」
2人のグラスランナーが堰を切って飛び出した。吊り橋がゆらゆらとゆれた。
後の7人も、恐る恐る橋を渡りだす。
先頭にレイシア、最終尾をカディオスが守る。
一行がようやく橋の真中までたどり着いたころ
「いえーい!!」
二人のグラスランナーがほぼ同時に橋を渡りおわった。最後の一蹴りで大きくジャンプして着地する。
「こらっ、ちょっと、揺らすんじゃないわよ!」
リーラが小さく悲鳴をあげて綱につかまった。
そのときだ。
かすかな音ともに、吊り橋を支える綱に火がついた。
つん、と麻の燃えるにおいが広がる。
「走れ!早く!!」
カディオスが怒号を飛ばす。
全員が、はっと我に返ったように、慌てて対岸を目指して走り出した。
橋が軋む。
「みんな!早く、早く!!」
グラスランナーの2人が対岸で叫ぶ。
湿気ているからか、火の回りは速くない。
しかし、古びたつり橋には、全員の重さを支え斬れるだけの耐久力がなかった。
火のついたところから綱がちぎれ、橋は轟音と共に崩れ落ちてゆく。
悲鳴が、霧に吸い込まれていった。
先頭にいたレイシアは、ぎりぎり岸にたどり着いた。
リーラはつり橋の残骸に何とかしがみついた。
投げ出されたエリシスが何か叫ぶ。
空中に投げ出された他の4人に、ふと、優しい力がかけられた。
そして5人の自由落下が弱まり、ゆっくりと下降する。
「フォーリング・コントロール!?エリシス、あなた……」
フェリアが絶句する。一度に5人にこの魔法をかけるなんて、と。
エリシスは少し笑みを浮かべ、そのまま意識を手放した。
意識が途絶えた瞬間、エリシスの体は魔法が解け、霧の中へ消えて行く。
「エリシスーッ!!」
カディオスが叫ぶ。下降を速めて後を追いかけるが、エリシスの姿は瞬く間に見えなくなってしまった。
「カディオス兄ちゃん!」
「みんなーっ!!」
シリルとネットの声がはるか上方から聞こえた。
4人はゆっくりと谷底へ消えていった。
そそり立つ絶壁の上で、レイシアは唇をかんだ。
完全に分断された。
こちらに残ったのはグラスランナー2人と、レンジャーが1人。
野外に強いものが多くいるのはありがたいが、戦力としてはほとんどあてにならないだろう。
「レイシアお姉さん、どうしたの?」
「大丈夫さ、姉ちゃん、おいらがついてるぜ!」
「このリーラ様がいれば、恐れるものなどなくってよ!」
はうぅぅぅぅぅぅぅ。
レイシアは深く深くため息をついた。
たった一人残されたのではないだけまだましだとするか。
「とにかく、先に進もうよ」
シリルがマントのすそを引っ張った。
「カディオス兄ちゃんたちとはきっとどこかで合流できるよ。それよりも、これだけ派手な音立てたんだもん、
誰か見に来るよ。早く行かないと……」
「そうね。先へ進みましょう。にしてもこれだけやったら、もう気付かれちゃったわね」
「違うよ。レイシアお姉さん。俺たちのことはとっくに気付かれていたんだ。だから橋を落とされたんだよ。
たった一つしかないあのつり橋を人が通るたびにわざわざ落とす必要なんてないもん。
あれは、俺たちが来るとわかって仕掛けられたんだよ」
はっ、とリーラが息を呑んだ。
「ってことはもしかしたらもうこの辺に敵がいるかもしれないってこと!?」
悲痛な声で叫ぶ。
ネットもぽかんと口を開けている。
レイシアも言葉が見つからないという様子で、シリルを見た。
「そうだよ」
やけにあっさりと答が返ってくる。
「人数が減ったことがわかったら、すぐにでも仕掛けてくるかも──」
言葉が終わるより先に、地面から植物の根が飛び出した。
「シリル!」
ネットが駆けつけるより先に、根は鞭のようにしなり、あっという間にシリルをがんじがらめにしてしまう。
「あ〜あ、なにもんかが俺らを討伐に来るって言うから楽しみにしていたら……なんだ、雑魚じゃねえかよ」
「誰っ!?」
レイシアの声と共に、すぐ近くの木の陰から、若い男が現れた。
真紅の髪と瞳。華奢な体つき。そして少しとがった耳……
それよりも、目を引いたのはその左眼から頬にかけて彫られてある刺青だった。
「赤熊団!?」
端整な顔立ちが、にやりと笑った。
「……か、かあちゃんを…とうちゃんを、兄ちゃんを……殺した……」
ネットが目を大きく見開く。
「う、うわぁぁぁぁっ!!!」
叫び声を上げて、男に飛びかかっていく。ダガーを抜き、切りかかるが、男の皮の鎧を掠っただけだった。
お返しとばかりに、男の足がネットを蹴り飛ばす。
「ちくしょう…ちくしょおぉ……」
小さなこぶしで、地面を叩く。なぜ自分はこんなにも非力なんだ。
「あ?なんだてめえ。俺にけんかを売るにゃあまだ50年はええよ、ガキ」
「待ちなさいよ」
レイシアが声をあげる。
「たった一人で来るなんて、私たちもなめられたものね」
しかし内心は冷や汗をかいていた。シリルは捕まって動けない。ネットが先走ってしまったため、こちらの連携は総崩れだ。
連携の崩れたパーティなど、ただの烏合の衆に過ぎない。
それにこの男はただものではないと、頭ががんがんに警告を発していた。
「はっ」男は鼻で笑った。「てめえらごとき雑魚にナントカされようなんて、俺らもなめられたもんだぜ」
しばし対峙する。男が先に動いた。
「サンドマン、その女の目に眠りの砂を撒け」
小さな一言だった。
だがそれで充分だった。
強烈な睡魔がレイシアを襲う。
頭を振り、必死で追い払うが……しかし、瞬く間にレイシアの意識は闇に閉ざされた。
「レイシアおねえちゃん!」
シリルの声が、はるか遠くに聞こえる。そしてそれが最後の感覚になった。
レイシアが倒れるのを見届けると、男は初めて気付いたかのように、リーラを見た。
ひゅうっ、と口笛を吹く。
「ほお、こいつはまた…俺好みの子猫ちゃんじゃねえか」
「や、やめて!こないでよっ!」
構えていた矢を放つ。しかし手元が震えて、全然的外れの方向へ飛んでいった。
「どうしたぁ?手元が震えてるぜ?子猫ちゃん」
「来ないでったらぁ!今度は本気で狙うわよ!」
声が震えている。おぼつかない手つきで矢をつがえようとするが、矢は上手く弦にかみ合わない。
男が近づく。じりじりと追い詰められる。
「可愛がってやるぜ……」
男の手がリーラの顎を引き寄せる。
リーラの瞳に涙がにじんだ。
「!」
突然男が背後を振り返った。
ネットだ。
ダガーを構え、男に突進する。
避けるのが一瞬遅れた。
ダガーはあたりたがわず、鎧の隙間に深々と突き刺さった。
「…っのガキ……ッ」
憎悪に燃える目でネットをにらみつける。
「バルキリー!!」
男の声と共に、輝く銀色の槍がネットを刺し貫いた。
「ぎゃぁっ!」
ネットは仰向けに倒れ、動かなくなった。
リーラは口を押さえた。血まみれのネットの姿が、そこにあった。
「ちっ……命拾いしたな……」
男はリーラにそう言い残すと、くるりと背を向け、傷ついた体を引きずるように去っていく。
──今なら…今ならとどめをさせるかもしれない……
矢をつがえ、しっかり狙い撃てば……
しかしまるで金縛りに合ったように、体が言うことを聞かなかった。
焦燥がつのる。
リーラが迷っているうちに、男の姿が掻き消えた。また魔法を使ったのだろう。
しばらくして、はっと我に返った。
「ネット!」
慌てて駆け寄る。ほとんど虫の息だが、まだ死んではいない。
荷物から三角巾を取り出し、止血する。応急手当を学んでおいてよかった。
しかし……リーラは思う。
完敗だ。
たった一人相手に、ここまでズタボロにされたのだ。
「……シリル?」
ふと頭数がひとつ足りないことに気付いた。
シリルがいたはずの場所はまるで最初から何もなかったかのように、ただ風が舞っていた。
「シリル!」
青くなってその名を呼ぶ。しかし、どこからも返事は帰ってこなかった。
 |