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No. 00075
DATE: 2001/05/06 23:28:16
NAME: メリープ&ザード
SUBJECT: 救出
「……うっ……」
意識が戻ったのは、荷物のように抱えられてた身体が、どさっと固い地面に投げだされたから。
メリープは、痛む腹部を押さえながら身体を起こした。
目に入った物は、薄暗い明かりをもたらすランプ。それから、ちらかされてる雑多な物。
それと、バリオネスの部下だった男が4人、自分を囲んでいた。その全員が、品物を検分するような、いやらしい目つきでメリープを見ている。中には、その口許に下卑た笑いを浮かべている男もいる。本能的な恐怖を感じて、メリープはとっさに後ずさろうとした。
「げへへ……逃げるなよ、嬢ちゃん……オレ達と遊ぼうぜぇ?」
「やだぁっ!来ないでぇっ!!」
悲鳴を上げて必死に逃げようとしても、狭い室内の上に相手は大の男。メリープ一人でどうにかできる相手ではない。
男の手が、逃げ惑うメリープの服に伸びる……
「きゃあぁぁぁっ!」
男の手は、メリープのワンピースの、肩口の部分をしっかりとつかんでいた。バランスを崩して、メリープは思わずその場に倒れ込む。すかさず、男の一人が、動けないようにメリープの上に馬乗りになった。
「思ったより、すばしっこいねぇ、嬢ちゃん」
口調は笑っているが、目は怒りに燃えている。男は、容赦のない力で、メリープの頬に拳を見舞った。それも、一発ではなく何発も。
口の中に鉄の味が広がる。それでもメリープは、できる限りきつい目で相手の男を睨み付けた。この反応が、相手の気に障ったらしい。
「ふざけんじゃねぇ!てめぇはただ、オレ達の望むように、しおらしくしてりゃいいんだよ!」
びりっ…………
周りに群がっている他の男が業を煮やして、メリープのワンピースを力任せに引きちぎった音だ。
現れた白い肩口には、ひきつれた傷跡。その白く滑らかな肌に、男達が色めき立つ。
「いいか、コイツは順番で頂く。文句はねぇな?」
馬乗りになっている男は、どうやら男達の新しい頭領だったらしい。他の部下を下がらせ、部下の一人にメリープの動きを封じさせると、頭領はにやけた笑いを浮かべながらメリープに近づいた。
びりびりっ……!
音がする度に、ワンピースは現形を崩してゆき、徐々にメリープの肢体があらわになる。一度ワンピースをちぎるたびに、男の息遣いが荒くなり、メリープの顔が朱に染まってゆく。
「くっくっくっ……綺麗な身体、してるじゃねぇかよ。」
男の手が、メリープの胸に伸びる。恥ずかしさと怒りと恐怖で、メリープは、声を限りに絶叫した―――。
「……メリープの声!……くそっ、僕の足がもう少し速ければ!」
夜の裏通りを全力疾走しながら、ザードは毒づく。男を脅して口を割らせた先は、廃虚になっているはずのとある家。
(メリープ……どうか、無事でいてくれ―――)
それだけを強く願いながら、ザードは走り続ける。
メリープの悲鳴はまだ途切れない。
何度も迷いそうになりながらも、メリープの悲鳴に導かれるように、ザードは目的の場所までたどりついた。
この中にメリープがとらわれている……そう思ったら、また怒りが込み上げてきて、ザードは怒りにまかせて建て付けの悪いドアを蹴り上げた。
「メリープを返せっ!!」
いきなり現れた魔術師風の男(ザード)に、男達は一瞬どうしようか判断に迷ったようだった。しかし、すぐにザードの行く手を塞ぐように、ザードの前に仁王立ちになる。
「メリープだぁ?……けっ、知らねぇな。坊やはさっさと、お家に帰っておねんねしてろよ!」
ザードは怒りを必死に押さえつつ、懐からメリープの肖像画を出した。奧で馬乗りになっている男を指して、努めて静かに言い返す。
「あそこにいるのは、メリープじゃないのか?……貴様らの仲間から、聞きだしたんだけど。」
肖像画を見ても、男達は知らん顔をするだけだ。ザードはムカッときて、自分の足止めをしている男の手を乱暴に振り払い、奧へと走って行く。
「メリープっ!!」
ザードの目に見えたのは、メリープの銀の髪と、細く白い足。そして、それに絡み付く、男の太い足。
「……お前らあぁぁぁぁぁっ!!」
怒りに、目の前が真っ赤に染まる感覚。ザードは怒りのままに呪文を呟き、魔法の矢を4本呼びだして、その場にいる男達全員に投げつける。
男達の情け無い悲鳴が4つ、重なった。エネルギーの直撃を受け、しかし全員が立ち上がる。だが、先程までの殺気は微塵も感じられない。
「……てめぇ……魔法使いかよ……」
そう呟く男の目には、紛れもない恐怖の色。ザードは無言で相手を睨み付け、顎を出口の方にしゃくった。
男達は、捨て台詞を吐くことすら忘れて、一目散に逃げていった。ザードは男達が逃げる気配を見せると、そちらには見向きもせずメリープに駆け寄る。
「メリープ……」
ほとんど形をとどめていないワンピースを見て、ザードは顔をしかめた。取りあえず自分のマントを外し、メリープにかけてやる。
「……………………」
メリープは虚ろな目でザードを見つめ返すだけ。ザードはやるせなく溜息をついて、メリープの身体をマントでくるみ、抱え上げようとして上半身を抱き起こす。
「……ザードさん?」
呟いたメリープの瞳には、純粋な安堵の色。ザードはメリープの身体をきつく抱きしめて、その耳元に囁く。
「メリープ……僕はようやく、自分の気持ちに気がついたよ……。ごめん……もっと早く気がついていれば、こんな思い、させないですんだのに……君を、恐がらせることも、淋しがらせることも、なかったのに……」
「ザードさ……ん……」
メリープの言葉を封じるように、ザードはメリープの唇に、自らのそれを重ねた。一瞬の口づけの後、熱く、強く、メリープの瞳を見つめて一言。
「メリープ……愛してるよ……」
その瞬間、メリープの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。口許が何か言いたげに動くが、言うべき言葉が見つからずとまどっているように見えた。
そんなメリープがたまらなく愛おしくなって、ザードは再びメリープを抱きしめる。メリープもザードの背中に手を回して、小さく呟いた。
「ザードさん……私も、あなたのこと、大好き……あなたに巡りあえて、良かった…………」
しばし熱い抱擁を交わした二人は、やがて寄り添って夜の闇の中に消えていくのであった。
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