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No. 00076
DATE: 2001/05/07 01:27:10
NAME: ユウラ・フレスベルク
SUBJECT: One’s First Experience
ある晩、わたしはふらりと冒険者の店に入っていった。
オランは自分の出身国ながら、わたしはあまり歩き回ったことが無い。
だから、このような店に入るのも初めてだった。
でも、これから冒険者としてがんばろうと意気込んだ以上、仕事を貰わなくてはどうしようもない。
だから、噂で聞いた「きままに亭」という所に行った。
楽天的な性格のせいか、すぐにその場の空気に馴染めた。
しばらく雑談をするうちに、店のマスターが出てきた。
「お前さん、仕事でも探してるのかい?」
まさにその通り。
「はい〜。探してるんですよー」
するとマスターは、キャラバンの護衛の仕事を紹介してくれた。
初めての仕事、嬉しくて二つ返事でそれを了承した。
それから、しばらくマスターとわたしと、たまたま店に来ていたファリス神官のお姉さん――確かアリスティラさんって言ったっけ?――と3人で話に花を咲かせていた。
「わたしキャラバンの護衛のときに、オーガに出会ったことがあるんですよ」
はぅっ!
いきなりの恐怖発言。
オーガ・・・見たことは無いけど、噂でなら聞いたことがある。
食人鬼とも呼ばれ、野蛮で凶暴で、人を殺して食べてしまうとか。
「そのとき私も肩口を・・・うふふ」
はぅんっ!(涙)
またも・・・怖いぃ〜。
「まぁ、稀にそんな魔物が出るらしいけどな。ほとんどは野盗か獣だろ」
マスターがつぶやいて、少しホッとした。
そんなこんなで、2人の仕事の体験を聞きながら、わたしはエールを飲んでいた。
で、仕事当日。
「あんたかい、護衛ってのは。ま、きままに亭のマスターの紹介なら信用できるだろう。よろしく頼むよ」
ふえ・・・マスターって人望が厚いんだ。
なんてことを思いながら槍を肩に担いで一礼した。
「えーっと、今日が初仕事になりますので、よろしくお願いします」
一応、礼儀って物だろうと、しおらしく・・・。
顔をあげると、視線を集めていた。
「あんた・・・黒いな」
「・・・へ?」
どうやら、みんなはわたしの格好――黒髪、黒目、黒鎧、黒手袋、黒ブーツ、黒槍――のことを言ってるみたいだった。
「黒色が好きなので・・・」
「よし、じゃあ黒いお嬢ちゃんと呼んでやろう」
と、その中の一人が笑いながら言った。
すると、みんな「そりゃいいや」と笑い出す。
「ちょ、勘弁してよ〜」
思わず軽く握ったグーでその人をポカポカ叩いていた。
「ははは・・・悪ぃ悪ぃ」
どうやら、この人たちは愉快な人たちみたいだ。
初めての仕事、楽しくやっていけそうだと心中でつぶやきながら、キャラバンはパダを目指し出発した。
1日目。
キャラバンの馬車が、溝にはまった程度のトラブル以外、なにも問題はなく隊商は進んでいく。
でも、その溝が泥だらけだったため、車輪を元の道に戻したわたしの鎧は、泥だらけになっていた。帰ったら綺麗に拭かなきゃ。
2日目。
草木も眠る真夜中。
槍を携え、キャラバンの馬車の直ぐ脇にしゃがみ込んでいる。
もちろん、他のみんなは寝ている。
いわゆる夜の見張りと言うやつ。
ランタンの炎を極力小さくし、自分の姿が見えないように待機する。
そうすれば、わたしは黒尽くめだから見つかりにくいだろう。
なにかがキャラバンを襲撃しても、予想外の反撃に遭う。
う〜ん・・・我ながら素晴らしい作戦(はぁと)。
――キィンッ!!
「ひゃう!?」
いきなり、槍の上部に伝わる衝撃。
「チッ、はずした!」
そして男の声。
しまった、逆に不意をつかれた。
ザッと立ち上がり、槍を構えてランタンをかざす。
うっすらと浮かび上がったのは、野盗の類だろう、2人連れのダガーで武装した男。
「おおおぅ、女か。うっし、商隊の商品奪うついでに、こいつをのして闇市場にでも売りさばこうぜ」
「いい考えっスね、兄貴。一石二鳥っスね」
ニタニタ笑って、ダガーで切りかかってくる。
的確な動作で、足や手を狙ってくるその一撃を槍の柄でなんとか受け流す。
「こいつ、なかなかやるぞ!?」
・・・はい?
自分では、そんなに実力はないと思っている。
もしかして、この野盗も駆け出し(?)なのかな?
そう思って、試しにがら空きになった下っ端(予想)の腹に、柄頭でブローを叩き込む。
「ぐえ!」
うめいて、倒れこむ。
はっきり言って、本気で弱かった。
「マイリー神の加護を!」
祈りの言葉を叫びつつ、刃のついた穂先のほうで兄貴(予想)を突く。
バキィ!
わたしの攻撃を受け止めたダガーが粉砕される。
「げげ・・・」
そして、わたしは槍を突きつけて、
「降参してね〜」
能天気に笑って、警告する。
「降参します」
縛り上げて、隊商の人たちに突き出す。
「こんなのが襲ってきました〜」
「ま、警備隊にでも引き渡すか」
「お〜た〜す〜け〜」
後日分かったことだが、どうやらこの2人正式なシーフなどではなく、一般人の突発的な犯行だったらしく、実力はわたし以下、つまりは弱弱だったのだ。
と、言うわけで、わたしの護衛したキャラバンに降りかかった脅威とは言いがたい脅威は去った。
しかし、こいつら、こんな腕で冒険者の護衛つきのキャラバンを襲うかな、普通。
その後も、大した出来事もなく(空腹の獣が襲ってきたことはあったが)、パダに到着、荷下ろしを手伝い、そして帰ってきた。
「じゃあ、これが報酬だ」
「あ、ありがとうございます!」
わたしの手には、報酬金が詰まった袋。
全身の疲労は、仕事をこなしたという達成感に変えられる。
「じゃあ、またな。黒いお嬢ちゃん」
「はい〜!」
〜Fin〜
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