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No. 00078
DATE: 2001/05/13 23:04:02
NAME: レイナ・ティリス
SUBJECT: 自分のチカラ
(注意:このエピソードは、『ザッピング・エピソード(私命名)』です。「ユウラ・フレスベルク」さんのエピソードと連動しています)
「お前の魔法は、まだまだだ」
今日、学院で先生にしこたま怒られた。
知り合った冒険者の紹介で、なんとか学院には入れたが、元々独学で勉強していたせいか、集団での勉強は性に合わない。
だから、最近サボってばかりいたので、それも含め、魔法がなってないとしかられた。
学院帰り、悔しくてわたしはがむしゃらに走り回った。街道まで出て、そのまま街道外れを走り回った。
「ふぇ・・・疲れた・・・」
直ぐに体力の限界がきて、その場にばったりと倒れる。荒い息をつき、呼吸を整える。
吹いてくる風が涼しいが、人気がまったく無く、寂しい。
ガサガサッ!
「な、何!?」
周囲で何かが這うような音がした。
慌てて立ち上がると、すぐそこに4匹の巨大蟻が。
「え、なんでこんなところに巨大蟻が居るの?!」
行き成りの事態に驚きつつ、なんとか立ち上がって杖を構える。
その間にも、巨大蟻はガサガサと近づいてきている。
「唸り轟く《光の矢》よ!」
即座にややこしい印を結び、杖をかざす。そして、何とかマスターしている、《エネルギーボルト》の魔法を唱える。
バシュッ!
風を切って、巨大蟻の背中に《光の矢》が炸裂する。が、全然効いてないように巨大蟻は突き進んでくる。
(これが・・・わたしの実力・・・)
改めて、自分のチカラを実感した。先生に咎められるのも無理は無い。
「じゃああ!!」
大きな顎を開いて突進してきた巨大蟻を、咄嗟に引き抜いたショートソードで受け止める。
が、力量の差ははっきりしていて、敢え無くショートソードは弾き飛ばされ、その顎をまともに身体に受けてしまった。
クロースが裂け、血が滴る。
そして、残りの巨大蟻も突っ込んでくる。
「き・・・きゃあああああ!」
恐怖に耐えかねて、悲鳴をあげる。勿論、それで許してくれるほど巨大蟻も甘くない。突っ込んできた2匹をギリギリ避け、残りの1匹に足を少し傷つけられた。
「くぅっ・・・」
顰めた顔をあげると、最初の1匹がまたもや突っ込もうとしていた。
だが、その顎はわたしに届く前に、威勢のいい女性の声が響いた。
「はああああっ!!!」
突如として現れたその黒い影は、手にしたロングスピアで巨大蟻の身体を吹っ飛ばした。
「大丈夫?」
差し出された手をつかんで、立ち上がる。よく見ると、助けてくれた彼女は、黒い瞳、黒い髪、黒いルージュ、黒い手袋、黒いブーツ、黒い鎧に黒い槍。
全身黒尽くめ。この人が、この間出会ったキャラバンの人が言ってた、『黒いお嬢ちゃん』ユウラさん・・・?
確かめてみると、確かに本人だった。余計なことかもしれないけど、暑そう・・・。しかし、そんな思考をしている場合じゃない。
「来てるよ!」
ユウラさんの声に、ハッとすると、目の前には巨大蟻が。巣が近くかもしれない。仲間を呼ばれたら大変だ。
「行くよ!」
「は、はい!」
ユウラさんの鋭い槍撃。それもたやすくはじかれている。
「唸り轟く、怒涛の《光の矢》よ!」
わたしは、今日、学院で習った「魔法の拡大」を実践してみた。しかしそれでも、巨大蟻には大したダメージを与えられない。
巨大蟻はずんずん向かってくる。ユウラさんの槍をはじき、その顎を叩き込んでいく。
わたしも、さっきの傷に加え、魔法をはじいた巨大蟻による一撃を更に食らってしまう。
「大丈夫!?・・・マイリー神よ、彼の者に《癒し》の力を示したまえ!」
ユウラさんが、マイリーの聖印を切って願うと、わたしの傷に淡い光が射し、その傷がふさがっていく。
神官様たちが使う、神の奇跡・・・。ユウラさんは神官戦士だったみたい。
それでも、事態は悪くなるばかり。わたしの傷は治っても、ユウラさんは傷を負うばかり。自分にも《癒し》の魔法はかけているものの、戦力に決定的な違いがありすぎる。
・・・やるしかない。あの魔法を。
わたしは、教わって以来一度しか成功したことの無い魔法を詠唱し始める。
「我が魔力よ。燃え盛る炎となりて、彼の者に力を与えよ。《炎力付与》!」
不完全な《ファイアウェポン》の魔法。ユウラさんの槍に向かって投げかける。
が、一向にその炎は生まれてこない。失敗した・・・。
これで、わたしは魔法の力を使い果たしたようなもの。ドカッと巨大蟻の突進を食らって、地に倒れる。
「あ、だ、大丈夫・・・ぐあっ!」
油断したユウラさんに、巨大蟻が突進する。
二人とも、もう駄目だ。やられちゃう・・・。
わたしにもっとチカラがあれば・・・。自分の力量の無さを呪った。
「しゃああ!!!」
4匹が踊りかかってくる。
死を覚悟した、刹那。
「斬ッ!」
凛とした声が、戦場に響いた。同時に、踊りかかってきた1匹の巨大蟻から剣の切っ先が生えていた。
それに驚いたのか、巨大蟻たちがいっせいに攻撃を中断して、新たな敵影を確認する。
そこに立っていたのは、風になびく長い金髪を紐で縛り、顔には仮面を被った男の人。手には一振りのバスタードソード。それと、仲間だと思うけど、精霊使いが一人。
「りゃあああっ!!」
「ヴァルキリージャベリン!」
瞬く間に、剣撃と魔法で巨大蟻を惨殺してしまった。
その後、ユウラさんとワケありな会話をして、立ち去っていった。この二人、何かあったようだけど、さすがに聞けるような状況じゃなかった。
事が終わった後、二人で待ちに戻る道中自己紹介を済ませた。
この事件(?)で、自分のチカラというものをはっきりと思い知らされた。
これからは、もっと勉強しなくちゃ・・・ね。
おわり
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