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No. 00079
DATE: 2001/05/13 23:05:01
NAME: ユウラ・フレスベルク
SUBJECT: Memory‘s Break
(注意:このエピソードは、『ザッピング・エピソード(レイナPLさん命名)』です。「レイナ・ティリス」さんのエピソードと連動しています)
わたしのこの黒い槍。
愛用の黒い槍。
師匠がくれた、黒い槍。
わたしが心から慕っていた、師匠。
その姿を忘れようとしたのは、いつからだろうか。
ある日、師匠の魔獣退治に付いていって、わたしは襲われた。
魔獣に、ではなく、師匠に。
岩の露出する地面に押し倒され、貞操を奪われた。
すべてが終わった後、わたしは物言いた気にわたしを見つめる師匠を残し、走り去った。
泣きながら、どの道を通ったのかも分からない。
途中で遭遇した、罪の無い動物を気づかないうちに屠り殺しながら。
たまに大きな魔物に襲われていたのかもしれないが、記憶は鮮明ではない。
宿に帰ると、宿のおじさんが慌てていた。
そこで始めて気づいた。
わたしの身体は、無数の傷――魔物にやられた物と、岩で作った擦り傷――
顔は、涙でボロボロ。
整えた髪も、砂や石の粒でザラザラ。
どうしたんだ、とたずねられても、「なんでもないよ・・・」と力なく笑う。
お風呂に入って綺麗になったものの、身体は汚れたまま。
こんなのはイヤだった。
確かに師匠は好きだった。でも、こんな形ではイヤだ。もっと普通の恋がしたかった。
その日から、わたしは師匠荷に会い行くのを止めた。
そして、数日前。
わたしはエリシスさんと出会った。
彼女の苦しみを聞き、わたしの苦しみを聞いてもらった。
すると、わたしはあることに気づく。
この槍。師匠がくれた槍を、なぜ今も持ち続けているのだろうか?
きっとそれは、今の心のどこかで師匠を愛しているから?
そう思うと、思考がとまらない。あの日の、師匠の物言いた気な顔。
・・・・・・。
明日、師匠に会いに行こう。
そう、硬く決心した。
次の日。
槍を持って、鎧を着込んでわたしは師匠の家に向かったが。
師匠の家は、空っぽだった。家はあるが、人が誰も居ない。
中に入ると、ひとつの羊皮紙がダガーで壁に突き刺してあった。
『ユウラへ。昨日は、すまないことをしてしまった。わたしは、自分を許すことが出来ない。君には本当にすまないことをしてしまったと思っている。あの、泣き顔を見て、私の心は後悔の念に押しつぶされた。わたしは、もう君に会う資格はない。だから、わたしは此処を出て行く。わたしのことを、許してくれとは言わない。だが、これだけは覚えていて欲しい。わたしは君が好きだった。最後にもう一度、すまない。君に面と向かって謝れない、わたしの勇気が情けない』
わたしは愕然とした。『昨日』ってことは、あの日(もう何ヶ月も前だ)の次の日に書いて、家を出て行ったの?
それを今まで、師匠の思いにも気づかないで、わたしはずっと師匠を避けてきた。
わたしは、そのダガーと羊皮紙を壁から引き抜き、家を飛び出した。
泣きながら走った。体力が尽きようとも、走り続けた。
気づけば、街道を外れていた。かなり遠くまで来てしまったようだ。
地面に大の字になって倒れ、疲れを癒す。
が・・・
「き、きゃあああああ!!!」
「!?」
向こうのほうから、女の子の甲高い悲鳴。
何かあったんだ!
わたしは槍を引っつかみ、声の方向へと走った。
体力は限界だったかが、走らずに入られなかった。
しばらく走ると、そこにはローブを着た女の子が、必死に何かと戦闘をしていた。
巨大蟻・・・しかも4匹も!?
「はああああっ!!!」
しかし、助けないわけにはいかない。わたしは、気合一番槍を突き出した。
どかっ!
予想外からの一撃に、女の子に迫っていた巨大蟻が吹き飛ぶ。
「大丈夫!?」
肩で息をして、女の子を助け起こす。格好から、魔術師だと分かった。
「あ、貴方は・・・もしかして」
助け起こされた女の子が、わたしを見つめる。
「噂のユウラさん!?」
「う、噂って・・・」
「全身黒尽くめで、暑苦しそうな女性が居るって、この前に出会ったキャラバンの人が・・・」
う、あの時のキャラバンの人たちか・・・。
でも今はそんな場合じゃない!
「いいから、来てるよ!」
巨大蟻が、ガサガサ這ってきた。
「仲間を呼ばれたら大変だよ!」
巨大蟻が居るって事は、巣が近くにあるかもしれない。
「は、はい!」
わたしも参戦して、槍を繰り出すが、硬い装甲の前にはびくともしない。
助けた彼女の魔法も、あまり強くないらしく、《光の矢》もその装甲にはじかれている。
事態は、完全にこちらが不利。
あっという間に、蟻の顎を受け、わたしも彼女も倒れてしまう。
「くっ・・・」
「うう・・・」
4匹の巨大蟻に囲まれる。
死んだかな・・・。
わたしは死を覚悟した。
(マイリー神よ・・・)
とうに癒しの力を使う気力もなくなっている。
「じゃああ!!」
巨大蟻の顎が襲ってきた。
が、その顎が届くことは無かった。
「斬ッ!」
凛とした声が響き、数瞬後には巨大蟻の腹から一振りのバスタードソードが生えていた。
どさっと崩れ落ちた巨大蟻の向こうに居たのは、豪奢な金髪を紐でくくった、仮面をつけた男の人。それと、向こうの方には、お供と思わしき精霊使いの姿が。
この金髪に・・・この髪の留め方・・・。
「はああぁっ!!」
剣を抜き、残りの巨大蟻に切りかかっていく。弱点を上手く突いたように、巨大蟻は薙ぎ倒されていく。
「勇気の精霊よ!我に力を!」
向こうの精霊使いが巨大蟻に向かって《閃光の槍》を放つ。
魔法の槍によって、こちらも粉砕されていく。
私と彼女が立ち上がった頃には、巨大蟻は全滅していた。
「あ、あなたは・・・」
彼女が先に口を開いた。
「・・・ただの、馬鹿な冒険者さ」
!!この声はやっぱり・・・。
「じゃあ」
後ろを向き、精霊使いのほうに向かって立ち去る。
「師匠!!」
叫ぶと、その足がぴたっと止まる。
やっぱり、この声と金髪。わたしの師匠、クルツ・ノイエンさん。
剣だって、あの頃と変わらぬバスタードソード。
「俺は、ただの冒険者といったはずだ。その名は捨てたよ、ユウラ・・・」
悲しげに呟き、そのまま去っていく後姿。仲間の精霊使いは、こちらをチラチラ見ていたが、歩みを速めた師匠を見て慌てて追いかけていった。
何故かわたしは、それを追うことが出来ずに、泣き崩れた。
「・・・・・・」
無言で、彼女――帰り道、レイナさんと自己紹介してくれた――が頭を撫でてくれていた。
そして、わたしの記憶の中から、クルツさんという存在が砕け散った。
でも、忘れはしない。あの、わたしたちを助けてくれた、“名も無き冒険者”さんのことは。
わたしは、手にした彼のダガー(羊皮紙を止めてあった物)をぎゅっと握り締めた。
〜Fin〜
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