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No. 00085
DATE: 2001/05/15 23:55:16
NAME: ブルーミュレーン
SUBJECT: 遺跡への道での告白
遺跡へと向かう道中。とある夜の話。
ちょうど不寝番で、ブルーとミュレーンが焚き火を囲むことになった。
「ごめんなさいね……あなたを、無理やりこの旅に連れ出してしまって……」
ポツリと、ミュレーンが呟く。
「いや……気にする事じゃねぇよ。むしろ、あんたに感謝したいくらいだ。確かに、あのままいたんじゃ、ネイだって喜びやしなかっただろうさ」
全てをふっきったような顔で、ブルーはにかっと笑った。
「……そーいや、ミュレーン。あんたはなんで遺跡にこだわる?……俺の過去はずいぶんあんたに話しちまったが、俺はあんたの過去の話は何一つ聞いちゃいねぇ。もし、話してもさし支えないのなら……話してくれねぇか?」
ミュレーンはしばらく焚き火を見つめて考えていたが、やがてゆっくりと頷いた。
「そうね……私ばっかりあなたの話を聞いて、私の話をしないのは、やっぱり失礼に当たると思うし……」
そして、ミュレーンは自分の生い立ちや今まで歩んできた道をぽつぽつと話し始めた。
どこから話せばいいのかしら。お世辞にも聞いても楽しい過去じゃないのは確かね……
私の両親は10の時に亡くなったの。おやっと思ったでしょ?そう、今のお父様シャドゥムは養父。本当の両親はお父様の弟子で助手としていつも傍にいて、いつもお父様たち3人で本とか広げて難しい顔をしているんだけど、私はその横で楽器を吹いたり、興味本位だけで転がっている本を読んだりして困らせたこともしばしばあったと思います……
でも、そんな私にお父様たちは子供の私にわかり易く文字の読み方を教えてくれたり、楽器のつかい方を教えてくれたり……そのおかげで今の魔法の知識の基礎とかが備わったから本当にお父様たちには感謝しています。
何で亡くなったのかですって?そうですね……話せば本当に長くなりそうだけど、丁度その頃、お父様たちと同じような研究をしている人たちが学院内にいたんです。でもうまくいかずにずっと妬んで嫌がらせとかも度々やられていたって聞きました。
そんな中、お父様たちはやっと研究を一つの論文をあげたんです。「音と魔法の関係」という題材で……
そう、私が研究しているのはお父様たちの延長。だから、以前ブルーさんが家に来た時になんで私の家の楽器庫があるのかって聞いた理由わかったでしょ?
ごめんなさい。また脱線しちゃって……で、その論文をあげた事でその人たちの必用な程の嫌がらせがエスカレートして、結果、本当の両親は命を落とした……事故じゃなかった……ごろつき雇って暗殺されたって……後で知りました。
……その時のお父様の悲痛な顔は今でも忘れられません……今にも命を絶ってしまいそうな顔でしたもの……
結局お父様は論文を焼き捨て、私を養女に迎え入れた後、私を連れて今の家に引きこもってしまったんです。
でも世の中悪い事が続くものじゃないですね。学院内でもその事が問題になったみたいで、両親を殺した人たちは学院から追放されて、お父様は再び学院に呼び戻されたんです。そして私もお父様の助手見習いとして学院に入って色々と勉強する事になったんです。
楽しかったかって?ええ、とっても……。でも私、あまり魔術師らしくないって事で苛められもしたけど、両親の事知っている人が多かったから、大体の人からよくしてもらいました。お菓子貰ったり、勉強を見てもらったりってとっても楽しかったわ……
そうそう、中でも一番のお友達はカリっていう男の子みたいな格好しているの子がいるんですよ。
彼女は今は学院から離れていますけど、同じ机でお勉強したり遊んだり……でもお互い気が強いところがあるから喧嘩も結構してたけど、何かあった時はいつも相談してもらってました。
確か私がチェルトに一目惚れして、向こうも一目惚れで…………あ、チェルトって私の昔の婚約者だったんですけど……そのチェルトのプロポーズを受けた時もフィルシーと一緒に相談に乗ってもらって、最終的には婚約までこぎつけたのもカリの……いやフィルシーとかみんなのおかげかな……
でも、結局結婚まで至らなかったんです……
……チェルト……チェルトは私を喜ばすためにこっそりレックスに行ってそのまま帰ってこなかった……亡くなっていたんです……崖から落ちたみたいで……
でもそんな事知らずに待っていました。気がついたら子供まで授かってました。でもその子も一季節の命で……
さすがにあの時は自暴自棄になっちゃいましたよ……
ごめんなさい。こんな辛気臭い話をしてしまって……
次々に出てくる衝撃の過去に、ブルーは何も言えずただミュレーンの顔を見つめるだけだった。
長い長い告白が終わったミュレーンを、ブルーは焚き火の炎越しに見つめていた。
心の中に、色々な感情が吹きすさぶ。
ブルーは、目をギュッと瞑り頭を振って、それらの感情を締めだそうとした。
(遺跡に着いたら、ここにいるみんなの盾にならなきゃいけねぇんだ……つまんねぇ感情なんざ、今はいらない……持っちゃ、いけない……)
「ブルーさん……?」
気がつくと、ミュレーンが隣にいた。心配そうな視線に、理性の枷が吹き飛ぶ。
次の瞬間、ブルーはミュレーンの身体を抱きしめていた。
「……ブルーさん……!?」
「……今度は、俺が過去を語る番、だな……俺の話も、長くなるぞ?」
ミュレーンを抱きしめたままの格好で、その耳元に囁くように、ブルーは自分の過去を語り始めた。
俺は草原の国に生まれた、物心ついたときから、旅が生活の全てだった。楽器を扱い自然の声に耳を傾け、自然と共存せよ、と教えられてきた。
自然とは慈悲深い存在でもあり、同時に怖ろしい存在でもある。だから、俺達の一族の男は皆、それぞれに合った武器を取って戦うことも教えられてきた。一族の中にはやっぱり、魔法を使える奴もいたよ。そいつらも勿論、魔法とは天から与えられた力だ、と解釈してて、その力で自然と共存する方法を模索していたみたいだけどな……まだガキだった俺には、そこまでは分からなかったよ。
で、旅が全ての生活は終わる。俺達ガキのために、旅ばかりしていても仕方がないと思ったらしいな。んで、オランに定住の地を求めた。オランに定住できて、仕事も無事に貰えて、自分の中に風が吹かなくなったら……今度は旅がしたくなってな。
旅……いや、それよりもっとぞくぞくするような刺激を、俺は求めていたのかも知れないな……それが、冒険だった。一緒に旅をしていた幼なじみの魔術師でついでに俺の恋人だったネイと、そんな夢を語りあってて……親の反対も押しきって、冒険者として剣を取ったのはもうそろそろ、9年前の出来事になるのか。
「堕ちた都市」レックスの方に、良い情報がある、と聞いて……その遺跡の手ごわさ、すら聞かずに、遺跡の情報を得ただけで有頂天になって、俺達は早速遺跡に向かったよ。
今思い返してみれば、何て向こう見ずだったんだろう、って恥ずかしくなるけどな……。
そうそう、それでだ。その遺跡に行ったよ。ほとんどの罠が解除されてなくてなぁ。俺もネイも盗賊ではなかったから、死にそうになったよ。精神的にも緊張を強いられてたしな。そして、そんな俺達でも、奇跡的にお宝に辿り着けたんだ。
……だが、それは罠だった。宝箱を開けたネイの身体を、俺のブロードソードが刺し貫いていたんだよ……俺自身の剣は、確かに鞘に収まっていたはずなのに、だ……。
あとでこの話をしたら、一種の幻覚だろう、って言われた。だが、そんな言葉で納得できるほど、俺は強くはなかった……だから、ミュレーン。あんたの一言があるまで、俺は剣を取るつもりはなかったのさ。
お互いに長い告白が終わった時には、宿直の交代時間も近かった。次の見張りを起こして、ブルーとミュレーンは毛布にくるまり丸くなる。
(……今度こそ、守ってやらねぇとな……)
まどろみの中の決意は、やがて来る眠りの波に攫われ、ブルーの内に秘められるのだった。
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