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No. 00091
DATE: 2001/05/29 02:08:13
NAME: アリュンカ
SUBJECT: 螺旋回し
「螺旋回しくらいの役には立つだろ」
師匠はそういった。
誉めたのか貶したのかは分からない。
誉め言葉で浮かれあがってても、実はひどく馬鹿にされてるときも在るし、それにその逆だって多い。
なんてたって「机上の泥棒」とか「学者センセイ」とか、そんな二つ名のついた人なんだ。理屈をこねくり回したり、ほんとの事をうまく隠したりするのはお手の物。
だからね、結局こう言う。
「ふぅん、どーせ、螺旋回し程度の色気しかないサ♪」
ボクが、捨てられたのは、暖かい春の日だったってきいた。
スラムの西側、皆がごみ捨てにくるとこなんだけどさ。
ほんとごみだらけ。『ごみの巣』って皆は呼ぶ。
古い服やらそれから壊れた家具なんかも時々あるよ。
その近くにね、育ての親・・・・ってほどでもないけど、とにかくその爺さんがすんでた。
春の暖かい日に、赤ん坊の泣き声がするんだよ、ごみの中から。
で、拾って数年育ててうっぱらえる歳になったから、ギルドに売った。
生むに生めない子とかだったんじゃないかな。
ほらあるでしょ。不義の子とか、そういうの。
その爺さんとこに比べりゃ、ギルドは厳しかったけど、天国だった。・・・・食べ物に限ってってことならね。
じいさんは黄色い毛の犬後生大事に飼っててさ、食い扶持は3人分だよ。
ほんと、ごみ漁りも楽じゃないって。
そのせいか今でも金あるときなんか腹いっぱいになるまで食べちまう。
・・・その他の、うん、まぁ、修行に関しては、君も盗賊なら分かるでしょ。
ボクはどう見ても兎には不向きだったし、最初のころは狐になる予定だったのさ。今想うとずいぶん変な見込みされてたと想うよ。
変装とか、口調とか、きしきし整えられて、この口調もそのときの名残なんだ。
そして師匠に会った。
金髪伸ばした碧眼の優男。最初は絶対狐だと想ったね。
まぁ、狐でもあったって方が正しいかな。
あの人はほんとなんでもある程度出来る。僕の修行が足りないだけかもしれないけどね。
でもあの人は穴熊なんだ。
滅多に帰ってこないのもそういうわけだよ。
ボクの手先が器用なのを、初めて気がついたのもあの人だった。
5歳の子供が器用か器用じゃないかなんて、普通はそれよりも一通り教育させるほうが先だと想うけど。
とにかくそういう風にして、僕はあの人の弟子になった。
毎日毎日細かい作業、それから師匠とギルドの誰かとの連絡役。
あ、いまボクが連絡役やら、いろいろ、やってるのは知ってたっけ?
たいした連絡はやらせてもらえないけどね、ちょっとした伝言とかそういうのあれば、大抵届けられるよ。
・・・・あ、でも、あんまり偉い人とかやめてね。
今になってみれば師匠のお陰で鍵明けだけは自慢できるし、それにいろんなお仲間のつてが出来たわけだけど。
そのときは普通の修行が良かったって後悔したよ。
何しろ、変なところで昔かたぎで「3回稽古」の人だったからね。
3回目の前でやって見せて、はい、終わり。
信じられないでしょ。
ボクが10歳くらいになったときね。
急に「じゃ、お前でかくなったから、俺行って来るし」って。
今じゃ慣れっこだけど、そのときはもうどうしたんだか分からなかった。
間抜け面してたんだろうねぇ。
大分馴染んでた、技術屋の爺さんとこに連れてって…それで、さっきの台詞。
やっぱり、多分誉めてくれたんだよと想うよ。
免許皆伝には程遠いけど、それからはもう独り立ち。一応はね。
まだまだ勉強することはあるけど、これから自分はどれだけ教えられかって言うよりも、どれだけ自分で学んでいくかだと想ってる。
生意気って言わないでよ。
これから?
うーん、そうだな、いつか師匠みたいに穴熊になりたい。
今、細い剣扱う練習もしてるのさ。
こないだは、初めて師匠の旅に連れて行ってもらった。
冒険じゃなくて旅だったけど。でも、楽しかったよ。
鍵開いたときの、あの気持ち。
ああいうのに似てるって、そんな気がする。
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