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No. 00096
DATE: 2001/06/07 02:42:50
NAME: ティカ、他
SUBJECT: ゴブリン退治・第1幕
〜第一話〜
新王国歴513年、冬。
刺すような寒さの中、オランから「蛇の街道」を北へ向かう一行。
先を歩くカディオスは、槍を背負い戦士風な出で立ち。頭上では鷹が旋回をしながらついてきている。彼の相棒のフィクドラだ。
その直ぐ後ろには、肩で切りそろえた銀髪を冷たい風に踊らせているケイ。背中には、その容姿に派不釣り合いにも見える大剣を背負っているが、別段重そうには見えない。
時折歌を口ずさみながらケイの横を行くティカは、踊るような足取りで真っ赤なコートを翻す。彼女が跳ねる度に、背中のリュートと肩の長弓が一緒に揺れる。
そして、みんなの後を最後に付いてくるのはサイフリート。銀髪の下からのぞく半端に長い耳から彼がハーフエルフだとわかる。更に、腰の左右に差している小剣をみれば、彼が両利きだと分かるだろう。
一際高い声でフィクドラが鳴くと、カディオスの肩に舞い降りてきた。それに答えるようにケイが道の先を指さす。前方には豊かな荘園に囲まれた城が見えてきた。
さて、一行が目指しているのはオランから2日ほど北へ行った、コギエント子爵領地。その子爵の末っ子が領地内に現れた、大きいゴブリン退治をすると息巻いているという。子爵にしてみたら、幾ら腕に覚えがあっても可愛い我が子、一人で退治に行かせるわけには行かない。もし何かあったら一大事。
そこで考えた末に、経験豊か(?)な冒険者と一緒ならなにかと安全だろということになった。
早速、執事に伝え冒険者を手配させる。しかしこの執事、主人の言いつけを更に営利的に考えた。もし冒険者達が子息を守れず怪我などさせたら、来月のミードまでの出荷の護衛を無償でさせてしまおう。それなら、冒険者にも気合いが入るし、こちらにも損は少ない。
そんな思惑を秘めた依頼を受けた冒険者4人は、2日の道程を得て無事コギエント領にたどり着いた。ここで子爵の末っ子と会い、領地内の森へ行くことになっているのだ。
てなわけで、ここはコギエント子爵の屋敷。
子爵の末っ子と会うために通された部屋で、しばし待たされる冒険者一行。
「ね〜、末っ子ってどんな子だとおもう?」
ティカの質問に、そうねぇ、とケイが頭を巡らせる。
「う〜んとね、やっぱりやんちゃな男の子かしら★」
「マスターがとんでもない子だ、みたいにいってましたよね」
穏やかな調子のサイだが、言葉の端にはちょっぴり困ったもんだという響きがある。
「こっちの言うことを聞いてくれるヤツならいいんだけどな」
カディオスのもっともな意見に一同は深く頷いた。
2人の男が入ってきたのは、4人がそんな会話をしているときだった。初老の暗い色調の服をきちんと身につけた男と、黒髪をもさっとした髪型にしている、ちょっぴり野暮ったい中年の男。
「お待たせしました」
初老の男は冒険者の側まで来ると、白髪混じりの頭を申し訳程度に下げた。どうやらこれが、マスターの言っていた執事らしい。もう一人の方は、執事の補佐か何かかもしれない。
「お話は冒険者の店の主から聞いていると思いますが、皆様には当家のエルネスト・コギエント様の手助けをお願いします」
「わかっている、それは任せてくれ」
カディオスが自信を持って請け合った。今回のパーティは4人の内、2人が神官だ。そうそう無茶をすることがなければ、怪我をすることもないだろう。
「宜しくお願いします。・・・さて、早速ですが、直ぐに出発なさいますか?」
執事の言葉に、一同怪訝な顔をした。
「あの、執事さん。それは坊ちゃんに会ってから」
サイが一同を代弁する。今度は執事はきょとんとしたが、直ぐに「ああ」と声を出す。
「私としたことは、紹介が遅れましたね」
斜め後ろに立っていた中年の男のほうに向き直る。
「こちらが当家の末の御子息、エルネスト様です」
紹介された中年の男は、むっつりした顔のまま胸を反らした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばし言葉を失う冒険者達。一番先に口を開いたのはケイだった。
「末っ子っていうからもっと・・・若いのかと思ってたわ」
「君。今、なにか言ったかね?」
エルネストの口調が鋭くなり、目に険が現れる。どうやらこれは彼にとって禁句らしい。これ以上失言されては困ると、更に何かを言いかけたケイの口をカディオスが慌ててふさぐ。
「えっとぉ〜ケイおねいさんが言ったのは〜・・・思ったより経験が豊富そうだ、って意味です〜」
えへへ、と間に合わせの笑顔を浮かべてティカが取り繕う。
「まあ良いだろう。本来なら私一人で十分なのだが、父上の立っての願いだから仕方なく君らのような輩を連れていくのだ。くれぐれも私の足を引っ張るようなことはしないでくれたまえ」
その間だ、サイは終始黙っていた。もしかしたら、一番驚いていたのかもしれない。
末っ子との挨拶も無事(?)終わり、一行は屋敷から半日ほど離れた森へと向かうことになった。
すぐにでも、ゴブリン退治に向かうと言い出したエルネストに、サイが「まずはゴブリンを見たと言う人に話を聞いた方がいい」と助言してたが「そんなに悠長に構えていては被害が増大するだけ。お前達を待っていただけでも時間を失っている」とものすごい形相でまくし立てる。
神官の二人がそんなエルネストを何とかなだめ、やっと納得してもらうのに半時ほど費やす。
ここまでで既にサイ、カディオス、ケイ、ティカの顔色に共通の色が見え始めた。それは、疲労と困惑と憂鬱を足した様な表情だった。今回の仕事は、考えていたより厄介なことになりそうだと、誰もが心の中で呟いた。
〜つづく〜
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