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No. 00098
DATE: 2001/06/07 02:46:08
NAME: カディオス、以下5名
SUBJECT: ゴブリン退治・終幕
−登場人物紹介−
カディオス
鷹を肩に乗せた神官戦士(♂)。見かけはクールだが実は熱血漢だとか。
サイ
生粋の戦士(♂)。無口だがその豊富な経験と技量は実に頼りになる。
ティカ
冒険にあこがれる街の吟遊詩人(♀)。あどけなさの残るその瞳の奥に誰よりもアツい情熱を宿している。
ケイ
神官兼詩人(♀)。元気いっぱいなその姿はパーティの清涼剤。
エルネスト
コギエント子爵の末子。正義感に燃えるナイスガイ。その性格からか、領民の人気は以外と高い。
執事
コギエント子爵家の執事。コギエント家の先代に忠誠を誓った宮中の策士。その過去は謎に包まれている。
−前回までのあらすじ−
カディオス、ケイ、サイ、ティカの4人は依頼主であるコギエント子爵家を訪れ、末子エルネストと
執事らとともに、ゴブリンの被害に苦しむとある村を目指してその日のうちに旅立つ。
夜半近くに目的の村へ到着した一行は、村の住民達に暖かく迎え入れられ、ゴブリン退治が終わるまで
村長の家に逗留することとなった。 そして一行が明日からの戦いに備えて眠りについてすぐに、
村長からゴブリンが村の中に数体出現したという報告を受ける。 カディオスとサイは家畜小屋へ、
ケイとティカは畑へと赴き、ゴブリン達を迎撃することに成功した。 森の中へ逃げていくゴブリン達を
追って行く途中、エルネスト達が居ないことに気づいた4人は…?
−第3話 真相、そして策略−
数体のゴブリンが村の外に広がる森の中へ逃げ込んだとき、月は雲に隠れてしまって辺りはすっかり闇に
包まれてしまった。 しかし、カディオスの持っている「明かり」のコモンスペルを封じた指輪の白い
輝きが辺りを照らし出しているので、ゴブリンの血の跡を追うには難儀しなくて済みそうだった。
だが、ここには雇い主であるエルネスト達はいない。 4人はどうしようかとそれぞれ考えていると、
カディオスは真っ先に血の跡を追って歩き出した。
「大丈夫、大丈夫。 今日はもう夜中だし偵察だけで済ませよう。 どうせ明日起きてすぐに退治に行くと
言いそうだからさ、今のうちに調べておいた方が得策かも知れないし」
高く生い茂る雑草を慎重にかき分けながら、カディオスは苦笑いを浮かべている。
「ゴブリンは夜行性だ。 ヤツらの塒には、おそらくかなりの数のゴブリンが居るんだろうが……。
夜中にそこへ行くのは、あえて罠に飛び込むようなものだし、オレ達はまだここに着いたばかりだぞ?
この辺りの道は全く知らないし、途中で襲われるかも知れない。 そうなったらオレ達はたった4人だ、
ひいき目に見ても辛い戦いになるだろうな。 血の跡は日が昇ってから追った方がいい」
サイはカディオスの肩をぐっと掴んで、先行しようとするカディオスを止める。
「大丈夫だ、雨が降らない限り血の跡はすぐには消えたりはしない」
「子爵様達が居ないまま先に行ったりしたら、あとで何を言われるかわからないわよ? ひょっとしたら
ただ働きにされちゃうかも……」
ティカはぼそりと呟く。 確かにそうされてしまう可能性も十分に考えられる。 何しろあのエルネスト
達がゴブリン達と戦わずに退治されてしまったとあっては、自ら剣の錆にしてくれるとまで言い放った
メンツが丸つぶれになる。
「お金貰えないんじゃ、折角来た意味がなくなっちゃうわよぉ★ ね、今日は戻って正直に話した方が
良くないかしら? それに眠たいしぃ…ふぁ……ね?」
欠伸をしながらのびをするケイ。 その緊張感のなさにティカはくすくすと笑っている。
「…判った、それじゃ追跡は明日にして今日は帰るか」
「わーいっ★ ようやくちゃんと寝れるぅ♪」
嬉しそうなケイを見て3人はくすくすと笑いながらその場を後にした。
翌朝、村長からいっしょに朝食でもいかがかな、という誘いがあったので、皆朝早くからリビングへと
集まっていた。 暖炉には既に火が入れられており、部屋は十分に暖かい。 そして、朝食を取り終わった
辺りで1人の村人が村長の家へと訪れた。 村長はその人をリビングへと呼んで一緒の席につかせると、
昨日の夜にあわただしく知られに来てくれた人だと紹介してくれた。
「昨夜は本当にありがとうございました。 襲撃があったというのに、家畜が少々傷を負ったぐらいで
済んでいます」
村人は慇懃に4人へお礼を言うと、程良く暖められたミルクを飲み始める。
「この村の唯一の自慢は良質の乳製品ですじゃ。 そんなだから、家畜は村全体の財産なんじゃが……
ワシらだけではとても妖魔どもには勝てなんだ。 村の若い衆はみな剣術や戦い方を知らん。
そこで領主でもある子爵様にお願いしたというわけなんじゃ」
「そういうことだ、諸君。 我々は領民のため、ひいてはオラン国民のために戦いに赴いているのだと言う
ことをしっかりと肝に銘じておくように。 聞けば昨夜の戦いではゴブリンどもを数体逃がしたらしい
じゃないか? そのようなことがあってはならんのだ! ヤツらは卑しい泥棒風情と同様、見かけたら
即刻排除するべきであるッ! そもそもだな、やつらは(中略)我々の敵であるッ! 私は、
領民のため…いやオラン国民のために、いや私は神(後略)」
エルネストは両手でテーブルを叩くと、延々とどうでもいいような演説を始めた。4人はその様子を
ミルクを飲みながら呆れた様子で聞き流しているが、執事と村長、先ほど訪れた村人は真剣に
聞き入っている。
(今度は演説かよ……)
(……)
(く、空気が重たい……この人のお守りなんて要らないんじゃないのかしら?)
(これも試練なのかしら…?)
「……とにかくだ、これから連中を退治しに行くぞッ! のんびり朝食など取っている場合ではないのだ!!
諸君は各自準備を整え、私が来るまでここで待機していたまえ」
エルネストは言いたいだけ言って、うんうんと頷いたり褒めちぎったりする執事を連れてさっさと自室へ
と戻っていった。 村長と村人は「彼は大物になるに違いない」とか「新しい領主さまにふさわしい人だ」
とぼそぼそと呟いてやたらと感心している。
「……あの、誰か森の中の道に詳しい人は居ませんか? ゴブリンどもを数体逃がしたのは巣穴を探し出す
ためにわざとやったことなんです。 おそらく、まだ血の跡が残っているはずですから、
すぐに突き止められるでしょう。 俺達はまだこの辺りの道には詳しくないから、道案内が必要なんですよ」
カディオスが席を立って村長達にとりあえず必要な注文をすると、2人の若い男の村人がいきなり入ってきた。
「あ、あの、オレ達で良ければ森の中を案内しますョ。 オレ達は猟をして生活してるんだけども、
ゴブリンが出るようになってから森には行かせて貰えなくなって……それに、あの次期領主さまが戦う
姿を見ておきたいんです! あ、立ち聞きする気はなかったんだけど…外を通りがかったら、演説が
聞こえたもので」
「案内をするだけなら良いがの……無理はするんじゃないぞ? おまえらは村の中では貴重な若い男たち
なんじゃからの」
「心配すンなって、じーさん。 頼もしい冒険者さん達も一緒なんだから、なぁ、みんな?」
「そうそう、オレ達だって戦えるってコトを証明してやるんだっ!」
「…重ねて言うが、無理はするんじゃないぞ」
「それじゃ、あんた達に案内は任せるからいそいで準備してきてくれないか?」
「まかしとけ!」
2人は駆け足で村長の家を出ていくと準備をするためにそれぞれの家へと帰っていった。
「ねえ、あの2人本当に連れて行くの?」
最初に戻ってきたティカがまだその場にいたカディオスに尋ねる。 カディオスは最初肩をすくめ、
そのあと苦笑いをしながら「何とかなるさ」といって自室へと戻っていった。
4人の準備はすぐに終り、リビングで暫くくつろいでいると先の2人が狩りで使う大きめの弓矢を持って
戻ってきた。 そしてエルネスト達が準備を整えて戻ってきたのはそれから半刻も過ぎた後だった…。
ゴブリン達が逃げていった森の中は、いまだ雪に覆われていてとても歩きづらくなっている。 表面だけ
が一度溶けて固まったのか、すっかり堅くなった雪に一歩踏み出せば、ざく、ざくと深く潜り込むところ
もあれば、何の苦労もなく歩ける場所もあった。 そして、時折吹く森の中の風が新雪を舞い上げ、
冬の弱い日差しをその表面で跳ね返している。
昼頃には、一行は眩しそうに雪の上についた血の跡を追って深く森の中に分け入ってきていた。
この辺りには岩場がいくつもあり、樹木も岩に押されて曲がりくねって群生している。そしてその中を
縫うようにして血の跡と足跡が延々と続いている。
「さ、寒いぃ〜★ 昨日の夜ここに来なくて良かったのかも〜★」
ケイは防寒用に持ってきていた外套を羽織っているがそれでも寒いらしく、時折手を暖めるために息を
吹きかけている。 吐き出す息が白い。
「あのとき、俺1人ででも行くとか言ってたら、今頃この辺りで凍ってたかも知れないな」
カディオスも苦笑いしながらそう答える。 サイやティカも無言で頷きながら、案内の2人の後を
ゆっくりと歩いていく。 エルネスト達に至っては、出発前はあれだけ喋っていたのに、寒い中をずっと
歩いていたせいか、もう喋る気力はなさそうだった。
暫く歩いて切り立った崖の下の開けている所に出た。 そこには1軒の古びた家があるのを遠目に
確認できた。
「アレは材木を切り出すための道具とかをしまってある小屋です。 そうか、あいつらあの小屋を塒に
してたんだな?」
「あの中には木を切るための斧と雑草を切る小刀が沢山しまってあります。
切れ味のいい物じゃないですけど、十分に注意してください」
先行していた案内の1人がそーっと小屋の近くまで忍び寄る。 さすがは狩りをして生活しているだけの
ことはあってか、うまく壁の所に張り付くことができたようだ。 一行は少し離れたところでその様子を
見ながら、いつでも斬り込めるようにと武器を準備する。 エルネストもようやく始まる戦いを前に、
少し興奮気味だ。 だが、執事はそんな雰囲気を全く見せず、むしろかなり落ち着いているように見える。
小屋の近くに潜んでいる案内人がなにやら手で合図をしている。 一行と一緒にいるもう1人の案内人が、
その合図を見ながらこくこくと頷いている。 一連のやりとりが終わったかと思うと、
潜んでいた1人が裏に回って雪の積もった屋根の上へと登っていた。
「生意気にも見張りが居るみたいですよ。 見張りの数は2匹、小屋の中には10匹ぐらいらしいですねェ。
あいつは屋根の雪を真上から落とすから、そこで何とかしてくれって言ってます」
「それじゃ、雪が落ちたら一気に行きますか」
カディオスは槍を構え直し、突進体制を取る。 サイとケイもそれぞれ剣を構えていつでも
飛び出せるようにかがみ込んでいる。 エルネストもおっかなびっくり剣を構えている。
「一撃で仕留めれば中の連中も出てこないだろうし、うまく中に入ったら後はこっちのモンだ。
楽勝に行けるかも知れないぞ……それ、今だっ!」
真上から大量の雪が屋根や木の枝からすべり落ち、見張りのゴブリン達の上に落ち、
見張りのゴブリン達を埋め尽くす。 雪の中から這い出してきたゴブリンの首にサイの剣がぐさり、と
突き刺さる。 束の間、サイの方を睨み付けたかと思うと、そのゴブリンは声一つ出せずに絶命した。
もう一方のゴブリンも、這い出してきたところをカディオスの槍で体を突き抜かれ、ケイの剣でとどめを
刺されていた。 一足遅れたエルネストは剣を振り下ろす場所がなくなってしまって、悔しそうに
地団駄踏んでいる。 執事もこの速さには驚いているようだった。
「ふう、ひとまず成功だな?」
カディオスは槍を引き抜いて血を払うと、ゴブリンの持っていた手斧に持ち替える。
槍では屋内で戦うには向いていない。
「中はどうなってるのかな……」
サイはそーっと入り口の戸をスライドさせて中をのぞき込む。 なるほど、手前に土間があってその奥は
仕切りのない広めの部屋が一つだけ。 そこにはゴブリンが十数体転がっている。
おそらくまだ寝ているのだろう。
「1、2、3……12、13…13匹か、かなりの数だが、みんなで中に入って一斉にやるなら、
今がチャンスだ」
「私は弓しか持ってないんだけど」
ティカが申し訳なさそうに弓矢を掲げると、サイはにやりと含み笑いをする。
「斧がこの中にある。 それを使いな」
「あ、そっか。 さっきあるって言ってたよね」
ティカは恥ずかしそうに苦笑いすると、壁に弓矢を立てかける。
「それじゃ、こっそり行くぞ」
「ちょっと待ってください、このまま小屋に火を付けて焼き払いましょう」
執事がぼそりと過激なことを呟く。 その場にいる全員がぎょっとしてその場に凍り付く。
「ゴブリンどもは愚かにも木造の小屋に陣取っているのですよ? さらに眠っている。 聞けば十数匹
いるみたいじゃないですか…どう見ても我々が劣勢。 このまま焼き払えば誰も怪我せずにゴブリンを
退治できるのです。 怪我をしたいのならば止めませんが? あ、それと、この小屋も村の資産の
一部です。 私は焼き払うことを提案しましたが、決めるのはあなた方です……」
神妙な表情で一行を見つめる執事。 一行はひそひそと案内人達と相談をしている。 しかし、
エルネストはこの話には不満そうな表情を浮かべている。 そう、エルネストの目的はゴブリンを
退治することなのだが、なによりも自分の剣の腕でゴブリンを倒したかったのだから。
焼き払ってしまっては、剣を振るう機会はほとんどなくなってしまうだろう。
(ふん、おそらくこれで火をつけて一掃する方法を封じたな。 こいつらならゴブリンを剣で一掃するのは
可能だとは思うが…多少は苦労するだろうな。 エルネストはまだ剣を振るいたがってるから斬り込む
ことを選択するだろうしな。 あとはエルネストがほんの少し怪我をするのを見守っていれば、
それだけで目的は達成される……)
「……早くしないと中の妖魔共が起きてしまいますよ?」
(この剣で斬ってみたかったが……)
「わかった、焼き払おう……」
一行の予想を裏切る言葉がエルネストの口からこぼれる。 そして何よりも執事がこの言葉に驚いた。
「エルネスト様、ホントに焼き払うのですか?」
「くどいぞ。 切り伏せたところでこの木屋があれば、またここに住みつくかも知れない。
これさえなければ、今後そんなことはないだろうしな。 よし、火を放つ準備だ! 3方向から火を
つけて、入口から出てきたところを叩くぞ! 案内の2人と弓使いの女は火をつけろ。
残りは入口を固めるぞっ!」
エルネストは自慢の剣を構えると、入口の前に仁王立ちになる。 カディオス、サイ、ケイもそれに
倣ってぎこちなくエルネストの周りを固める。 ティカと案内の2人は火を焚く準備のために、
林の中へと歩いていく。
(ただの力試しかと思っていたが……なかなかにいい判断するじゃないか。 意外と良いコンビ
じゃないのか、この2人は)
サイは緊張感たっぷりのエルネストと、それとは対称的に不満そうな執事をチラリと見やり、
にやりと微かな笑みを浮かべる。
(この依頼主にしては意外な選択だけどな)
しばらくすると、松明を持ったティカ達が林の中から帰ってきた。
「ホントに火をつけるわよ? あなたたち、準備はいい?」
「問題ない」
エルネストがぶっきらぼうに応える。 それを聞いてティカは、はいはいと生返事をして木屋の裏側へと
駆けていった。 そして、すぐに木屋の3方から煙が上がった。 空気が乾燥しているせいか、
思ったよりも火のまわりが早い。 瞬く間に燃え広まり、紅蓮の炎が木屋を包むとにわかに
中から絶叫が響きわたる。
「さあ、戦闘開始だ」
そして最後の戦いの火蓋は切って落とされた。
to be cntinued...
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