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今日は、初仕事で下水に入った。
シオンさんとはぐれちゃったので、カイさん、ケルツさんと一緒にしばらく歩いた。 すると、一匹の大ムカデが。 怖かった。 ケルツさんの光の精霊が炸裂し、カイさんの炎の矢が炸裂する。さらに剣撃を受け、弱っていくムカデ。 わたしはパニックするだけで、何も出来ない。 だが、隙を突いてムカデがカイさんの足に絡みついた。 (・・・怖いけど、でもっ!) 仲間を見捨てるなんて出来ない。わたしは勇気を振る起こし、杖を握って力いっぱいムカデを殴る。 それは見事にムカデの脳天を捕らえた。気持ち悪い音を立て、その頭部から体液が飛び散った。 「やあああ!!」 一瞬の隙を見て、カイさんがショートソードを突き立てる。気味の悪い声をあげて、ムカデが絶命する。 その日、それを最後に切り上げた。が、大変だったのは次の仕事の日。 数日後、残りの仕事を片付けようと、4人で下水に入った。 そしていきなり、蝙蝠の群れ。みんなで必死に応戦するけど、パタパタ空を舞う蝙蝠に、なかなか攻撃が当たらない。 ついには、シオンさんに牙がかかった。もう、この乱戦状態で使うべきではないが、あれをするしかない。 「夢をいざなう雲よ。彼の者に安らかなる眠りを与えんことを!」 スリープクラウドの魔法。けど、眠ったのはたったの1匹。しかも、残った1匹があろうことか私の首に噛み付いた。 「きゃ〜〜!痛い痛い〜〜!」 「だ、大丈夫!?」 すぐにシオンさんがそれを引っぺがし、カイさんが叩き落した。 「あ、ありがと・・・って!そこ、ネズミ!」 「え!?」 そこには、目を爛々と光らせたネズミが一匹。カイさんに任せたが、隙を突いてすばやく走り、わたしに飛び掛ってきた。 敵を任せて、報酬を少しでも多く貰うため、死体を回収していたわたしは、避けることが出来ずに腕でブロッキングした。 「きぃぃっ!!」 わたしの腕にしがみつき、牙を立てようとする。噛まれて病気貰ったら洒落にならない。わたしは思いっきり腕を振り回す。 なんとか剥がれてくれたネズミを、怪しい笑みを浮かべて睨む。手には握り締めた杖。 「乙女の柔肌に傷をつけた罪は重いよ〜(妖しい笑み)。えいっ!」 ケルツが呼び出したシェイドに怯えたネズミに向かって、杖を振り下ろす。寸前でネズミは避ける。暗がりに走り去っていった。 「みんな、無事・・・・・・」 確認を取ろうとしたシオンさんが凍りつく。何事かと、みんなが振り返ると、そこには・・・。 数十の赤く光る目、目、目。さっきのラットが仲間を呼んだみたい。 「・・・逃げる?」 「三十六計なんとやら・・・」 「撤収〜〜!!」 揃って、逃げる。それを追いかけてくるネズミの大群。狭い下水道を、左に右に、また右に。 それでもしつこく追ってくるネズミ。 「あ!」 シオンさんが転んだ。まずい・・・! 「おい、レイナ!さっきの眠らせる魔法、あれはもう使えないのか!?」 この状態では、本気でみんなも一緒に眠りそう・・・だけど、シオンさんを放っておけない。 ザザザッと立ち止まる。 「みんな、時間を稼いで!!それと、出来るだけネズミから離れて!」 わたしは短く叫び、一番後ろで杖を構える。 「汝、夢の世界に橋架ける者睡魔の名において・・・」 わたしは、魔法の拡大をする。学院で習って、最近復習したけどちゃんとできるか心配。 「光の精霊、我が友よ!」 ケルツさんのウィル・オー・ウィプスが呼び出される。 「もぅ〜〜!!」 ちょろちょろ動き回るネズミに、必死にダガーで応戦するシオンさん。 「火蜥蜴さん、力を貸して!」 咄嗟の機転でサラマンダーを使い、ネズミを追い払うカイさん。 その中で、一人黙々と魔法を練り上げていく。杖をかざし、印を結ぶ。 「我、汝に命ず、我らが前に群がる愚かなる畜生を、汝が域たる夢の淵へと導かんことを・・・」 激戦を繰り広げる、仲間の皆。その協力が無ければ、わたしは魔法を詠唱する暇も無くやられていただろう。 わたしの方に向かってくるネズミを切り倒すシオンさん。 必死に精霊を呼び出すカイさんとケルツさん。 ここで失敗するわけには行かない。 「汝、睡魔の力よ。其は我が魔力を糧とし、すべての畜生に安らかなる眠りを与えんことを・・・」 長々と練り上げた魔法が、今完成した。 「《眠りの雲》!!」 ネズミの群れを中心に発生した、眠りを誘う雲はネズミはおろか、仲間の皆も巻き込みながら広がっていく。 ネズミの大半が夢の淵に落ち、仲間はシオンさん以外眠らずに済む。シオンさんも頬を叩かれ、すぐに目を覚ます。 「まだ、残ってますよ・・・」 「ああ、そうだな。どうする・・・?」 荒くなった息を整え、よく見れば、まだ数十匹のネズミが残っている。眠りの雲に対抗したとんでもないネズミたち。 これはまずいよ・・・。わたしの魔法を放つため、みんなありったけの精神力を使って援護してくれた。 だから、みんなもう魔法は使えない。それぞれが、武器を手に取る。が、それが振るわれることは無かった。 さっき割れたランタンから、油を伝ってネズミたちに火が燃え移っていた。 瞬く間に燃え上がり、ネズミは慌てて退散。寝ていたネズミは、仲間に踏まれて死んでいく。 「た、助かったよぉ・・・」 ずるずる崩れ落ち、安堵の息を吐く。 みんなで無事を確かめ合う最中、わたしは苦痛がする身体に鞭打ち、拾える限りの死体を回収する。この怪我の治療費を賄う為、少しでも多くの報酬が欲しい。 しばらくすると、下水の影から犬頭巾をかぶった人が出てきたけど、それからはあまり覚えていない。 苦しくなって、顔が赤くなって、意識が遠のいていく。さっき噛まれたときに、バットフィーバーにかかったみたい。 気がつけば、そこは病院のベッドの上。倒れている間に、みんなが運んでくれたみたい。直ぐ近くのベッドには、同じくシオンさんの姿が。 この2人が、一番病気が重傷だったみたい。でも、すぐに直るよね。みんなが居るし、早く元気になった顔を見せなきゃ。 わたしの大切な、仲間の皆に。
おわり<>0:4<>
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