俗謡
( 2001/06/10 )
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作者
Ken-K
登場キャラクター
名も知られぬ吟遊詩人
とある酒場の演壇にて、吟遊詩人かくのごとく唄えり……
――口笛吹いてる劇場の、
――横の路地へ入ってご覧。
――霧の服着た可愛い少年、目もとの涼しい彼がいる。
――そしてお前にカードをくれる、それは表が波打つカード、そう、本当の水面さ。
――波紋はゆらゆら揺れ動き、水の底には藻がゆらめくよ、藻の合間を縫うように、時折魚も横切るよ。
――カードの裏のおまじない、一言唱えりゃ、あら不思議。
――お前の声は魅惑の稲妻、聞いた相手はイチコロさ。
――男も女も皆々集い、聞く人誰もがお前の虜。
――どうしてどうしてそうなるの?
――ハハハ、俺は知らないね!
――がたぴしよろめくボロ宿の、
――横の路地へ入ってご覧。
――「あらまあ」「なつかし」そこにいるのは、
――死んだお前のおばあさま。
――なになに、顔を覚えてないって、
――そんなことは心配ご無用、
――向こうはちゃんと知っている。
――そしてお前に小箱をくれる。
――青い夜風に色めく小箱。
――おっと笑うな見くびるな、そんじょそこらの小箱じゃないよ。
――蓋を開けば耳にするのは、世界のあらゆる歌と曲
――すべての声色すべてのことばで
――常世と彼岸を唄うのさ
――どうしてどうしてそうなるの?
――ハハハ、俺は知らないね!
――厚化粧した神殿の、
――横の路地へ入ってご覧。
――道化姿のティルマン・エディス、ボールに跨り待っている。
――そしてお前にワンドをくれる、七色リボンをかけたワンドさ。
――これを振ればさあご覧ぜよ、お前の姿は変幻自在。
――エルフにドワーフ、男に女、石ころ雑草、どうでもなるぜ。
――いかした伴奏ついてくる、「花売り娘」の歌声きこえる。
――それを聞いてりゃいつのまにやら、おいおい泣き出す按配よ。
――どうしてどうしてそうなるの?
――ハハハ、俺は知らないね!
――おたかくとまった学院の、
――横の路地へ入ってご覧。
――びしょびしょよれよれふにゃふにゃの、三毛の老いぼれ猫がいる。
――そしてお前にボレロをくれる。
――いかにもぼろのぼろぼろボレロ。
――こいつを纏うとあぁなんと、お前の服までぼろになる。
――お前が触れるものも皆、まごうことなきぼろになる。
――えらそな貴族にすかした宮殿、贅をこらしたアクセサリー、
――お前が触れば「それ!」ぼろになる。
――あとはホウキにチリトリあれば、すっきりきれいに大掃除。
――旅立つ鳥は跡を濁さず!
――ふさぎこんでる共同墓地の、
――横の路地へ入ってご覧。
――哀れ悲恋で命を落としたグラマール姫が立っている。
――おっと顔を合わせるな、特に視線にご用心、魔力で心を縛られるから!
――巧みに夜の挨拶かわせば、彼女はお前に雫をくれる。
――遺恨の雫と呼ばれるそれは、
――たっぷり水気を含んだ葉から、ぽたぽたぽたぽた際限もなく、垂れて恨みを唄い続ける。
――その葉のついた桂の枝を、そっとそっと持ってお帰り。
――そして雫を薬缶に溜めて、沸かして、お茶を煎じてごらん。
――どうなるかって? どうもしないさ!
――飲めば美味いってだけのことだよ!
――とうに潰れた工房の、
――横の路地へ入ってご覧。
――顔が日よけの覆いでできた、若い女が立っている。
――ちなみに顔は見えないよ、顔そのものが覆いだからね。
――女はお前に小瓶をくれる。
――中では風が吹き荒れてるんだ。舞い散る葉っぱのおまけつき。
――蓋を開けても風は逃げずに、瓶の中でびゅーびゅーやってる。
――鼻を近付け匂いを嗅げば、なんとも言えない香りがこぼれる。
――最高級の香水を、はるかに凌いだいい香り。
――耳を澄ませば歌も聞こえる。風の乙女の歌声だ。
――そして動物を探してごらん。
――なんとやつらの言葉がわかる。
――それがこいつの効力さ。
――もっとも相手はいわゆる犬猫、大したことは言わないけどね。
――「腹が減ったよ」「遊んでくれよ」おおむねこれの繰り返し。
――耳傾けるなら、鳥の言葉だ。
――奴らの見聞、バカにはできんよ。吟遊詩人もかなわないかも。
――特に天気予報をさせたら、野伏も裸足で逃げ出すさ!
――こんな具合で横の路地には、
――いろんなものが待っている。
――アンタも一度入ってごらん。
――不思議な出会いがあるだろう。
――もちろん世間にゃいろいろいるから、
――よくない出会いもあるだろう。
――だけどこんな世の中だもの、
――誰にも覚悟は必要さ。
――そうでなければこの世知辛さ、
――とてもじゃないけど越えていけぬさ。
――それにお聴きよ、こう言うだろう、
――渡る世間に鬼はなしとね!
――これにて今宵の歌はおしまい、
――みんなお休み、よい夜を!
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