盗賊ギルドの騒動
( 2001/06/14 )
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作者
R
登場キャラクター
Thieves
そもそもの始まりは”白髭”が衰え、引退するという噂だった。
”逆回し”グラハムにより、その話は常にない早さで広まっていった。
盗賊ギルドにあって、幹部の席の一つを永きに渡って独占してきたこの男の引退話は、
その歳月を考えれば当然のことと思えたからだ。しかし、ここには騒動の種が一粒落ちていた。
「気をつけて」
そのとばっちりを早くから受けていたカーナがエルメスにそう告げたのは、
しかし、”同胞”に対してというよりもむしろ、彼女の友人としてだっただろう。
流れ者に対する地付きの盗賊たちへの嫌がらせが顕著になったのはこの時期だった。
意味するところは明らかだった。
もともと流れ者は嫌われるものであるが、その関係が悪化することがなかったのは”白髭”の力である。
流れだろうが駆け出しだろうが、上納金さえ納めていればそれ以上口出しするものではない。
その代わり、度を外し過ぎた者にはきっちりと制裁を加える。そうやって彼は双方を納得させてきたのである。
しかし、その”白髭”の力が衰えればどうなるか? たまっていた不満が弾ける形で流れ者叩きが始まるのである。
ヴェイラもそのとばっちりを受け始めたころ、リックが動き出す。
彼は単純に、図に乗ったバカ一人を抑えればこの騒ぎは収まると考えていた。
そうして実際に、騒ぎがその一人に煽られていることを突き止める。
しかし、これによって事体は深刻化した。
リックの話を聞いた”螺子回し”アリュンカを始めとする数人がその一人を抑えに動き出した途端、
その一人が姿を消してしまったのだ。
結果、どうなったか?
扇動者の存在は流れ者たちに怒り出す理由を与えてくれた。
扇動者が消えたことで、地付きの盗賊たちはそれを流れ者のせいと考えた。
もはや、収拾の余地なしである。
もし、”白髭”に後継者がいれば、そもそも騒動の種は発生しなかっただろう。
彼にも弟子はいるが、師の存在が大きすぎたために名が売れていない。
幹部の椅子は”白髭”個人のものではなくギルドのものだ。
となれば、他の名の通った者たちを差し置くわけにはいかない。
”白髭”の後釜と目されている”骸骨指”を始めとするいくつかの勢力は、いつまでも幹部の椅子を
譲ろうとしなかった”白髭”と反目していた。そうなると、そのやり方にも反発するのが常である。
ただ椅子を譲られるだけでは足らず、その前に力ずくで”白髭”の勢力を追い出そうとした結果が
この収拾の付かない騒ぎなのかもしれない。
しかし、この事体も急速に収拾する。
事体を深刻化させた原因の一人であるリックの元に”鸚鵡”ミゲェが現れ、のたまう、天辺が動き出したと。
事体がここまで深刻化して、いつまでも放置されるわけがなかった。
それを密告したのが誰か、とは、リックは”鸚鵡”に聞き返したりはしなかった。
ここでふと考える。
今回のことで騒ぎを起こした者たちは一掃されるのだが、それはつまり”白髭”に反目していた者たちが
一掃されるということである。”白髭”の後釜候補から名の通ったものは尽く消えたことになる。
そうなると、師の跡を継ぐのは弟子という構図がもっとも説得力を持つものになるだろう。
そもそも、流れ者への不満は土壌としてあるのだから、今回の騒ぎの煽ることは誰にでもできた。
そして、扇いだ結果、どこまで火が大きくなるかというのも、一部の人間には予想できたはずだ。
しかし、その結末まで予見できた者となると、果たしていたのだろうか?
もし”白髭”がそこまで見越していたとすれば、最初の一石を投じたのも当然・・・。
”鸚鵡”は偉大なる老人を賞賛し、リックは憮然としながらもそれに倣った。
もっと早く気付くべきだったのだ。最初に噂を流したのが”逆回し”からして”流れ者”だということに。
後日、ギルドに出向いたリックは”白髭”の手配により重みを感じる程度の銀貨を渡される。
その重さに、彼は今回の騒動の中で自分が知らぬままに果たした役割を教えられた気がした。
この上なく、嫌な方法で。
銀貨の意味を興味本位で尋ねてくる同僚に見向きもせず、銀貨を懐に仕舞い込んでリックはギルドを後にした。
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