英雄と卑怯者
( 2001/06/16)
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作者
かいちょ〜文成
登場キャラクター
バリオネス
新王国歴513年5月25日。
バリオネスは新しく買った刀の切れ味をためすために、一つの依頼を請け負った。
それはゴブリン退治。
頻繁に出没する彼らを排除する仕事は余ることはないが、逆に尽きることもまた、ない。
冒険者の店でいくつかの雑用をこなすと店の主人に顔が売れる。
すると、初めての冒険、または力試しとして回ってくることが多い。
バリオネスの知名度からすれば、ゴブリン退治の仕事を取ることはけして難しいことではない。
しかし、つい最近まで野盗団の頭として活躍していたので、本名を出すと逆に退治される側になりかねない。
そこで彼はリッフィルと偽名を使い、さらに報酬の額を下げることでこの仕事を請け負うことに成功した。
しかし、ここで予定外の問題が発生した。
その日の深夜。ひさしぶりにきままに亭にナンパをしに行ったのだが、食べる食べないの話しになり、食べられることになってしまったのだ。そのままの意味で・・・
結果、バリオネスの左手は包帯で固定されることになった。
怪我さえなければ一人で行くつもりだった。
が、片手が使えないと言うことは魔術師として致命的なので、仲間を捜すために酒場を回ることにした。
今、私の左側をディーネと言う名の女が辺りを警戒しながら歩いている。
海と同じ色の美しい青い目。半妖精の特徴であるとがった耳が肩口で束ねた金色の髪の間から突き出ている。黒いレザーの服とミニスカートが、露わになった太股の白の魅力をよりいっそう引き立てている。
「鼻の下延びてますよ。」
後ろを歩いている魔術師に指摘される。
名前はネラード。
深い青色の瞳に、セミロングの銀髪を後ろでまとめている二十歳前後の男で、ディーネに比べれば口数は少ない。
「あ、おおすまん。」
私はゆるんだ顔の筋肉を慌てて引き締める。
「リッフィル!今変なこと考えてたろ。」
「いや、そんなことはない。私はいつだって真面目だよ。」
顔を赤らめスカートの裾を下げようとするディーネ。が、そんなことをしても元々短いスカートが長くなるわけではない。
そんなことに気を取られている隙をつき、一匹のゴブリンが茂みの中から出てきてこちらを威嚇し、仲間を呼ぶ。
「仲間を呼ばれた、一撃でしとめるぞ!」
私は二人に指示をすると、鞘からフランベルジュを抜いた。
パン切り包丁を大きくしたようなその刀は、波打った刀身が炎の揺らめきに似ていることからこの名前が付いた。
ディーネもネラードもそれぞれに武器を構えてはいるが、目の前に突然現れた敵に少しとまどい気味だ。
『やはりここは私がやるしかない』
そう思いフランベルジュを構えたが、私はある重大なことに気が付いた。
「重い・・・」
当たり前だ。市販されている中でもっとも大きく重いものを選んだのだ。片腕だけで支えられるはずはない。
サクッと切っ先が地面に刺さる。それを見逃さなかったゴブリンが私めがけて飛びかかって来た。
「危ない!」
とっさにディーネがゴブリンに斬りつけるが、当たらない。しかし、威嚇としての効果はあり、ゴブリンは一歩飛び退きディーネと対峙する。
「怪我してるんでしょ、僕に任せてよ。」
「無理はするな、新手が来るかもしれん。ネラード、周りを警戒しとけ。」
フランベルジュから手を離し、カーナから借りた刀を抜きながら私はゴブリンの後ろに回り込む。
たとえ同じ強さの相手と戦うとしても、二方向からの攻撃が出来れば無傷で倒すことが出来る。
それにカーナから借りた剣なら片腕で十分あつかえるし、それなりの重さもあるから十分いける。
不利を悟ったのか、慌てて逃げようとしたところを後ろから袈裟懸けに切りつける。
「リッフィル、後ろから斬りつけるなんて卑怯だよ!」
ディーネが後ろで叫んでいるが、そんなことにはおかまいなし。
ころんだゴブリンに刀を突き立て、武器を持った手を思いっきり踏みつける。
「背中を見せたヤツが悪いんだ。」
「だからってそれjじゃあ卑怯者のすることだよ。」
「だまれ、勝ってしまえば正義になるんだ。」
「それって悪役の台詞だよ。」
私とディーネが言い争っていると、ネラードが古代語で詠唱を始める。その視線の先には新たに現れた数匹のゴブリン。詠唱が終わると共に二匹のゴブリンが倒れる。
「いまは言い争っている場合ではないですよ。」
ネラードに言われるまでもなく、今は言い争っている場合ではない。気を取り直し、迫り来る敵を迎え撃つ。
ディーネと私が横に並び、ゴブリンの侵攻を止める。その後ろでネラードが魔法による援護を行う。
しばらく戦っていると私が前に出すぎているに気が付く。
魔法の援護があるとはいえ、実戦経験の少ないディーネには一進一退を繰り返のが精一杯なのだ。
私は一歩前に踏み出して目の前にいるゴブリンの刀を下から払い、大声を上げながら殺気を放つ。
そうすれば敵はすくみわずかに隙が生じる。それを前提として横でディーネと戦っているゴブリンを斜め後ろから斬りつけ、返す刀で自分の目の前にいたゴブリンをなぎ払う。
返す刀は当たらなかったが、ゴブリンを威嚇するには十分に効果がある。またもやゴブリンは踏み込むのを躊躇した。
「僕一人でも何とかなるから、卑怯なことはしないでよ。」
「うるさい、うだうだ言ってる暇があるなら、こっちを手伝え!」
ディーネの前のヤツを切っている間に私の所にゴブリンがもう一匹駆けつけてきた。
「ディーネ、左から来てるから気をつけて!」
後ろからネラードの声が響く。
相変わらずゴブリン相手に苦戦するディーネであったが、ネラードの援護のおかげで優勢のまま敵を切り伏せることに成功した。
「勝ったぁ・・・」
安堵のため息と共にその場に座り込むディーネ。
ネラードは魔法を使いすぎたのか、近くの木にもたれかかっている。
依頼人の話から大体のゴブリンの数を聞いている。ちょっと多いような気もするが、ここで全てのゴブリンを退治したことになる。
少し休んだ後、巣穴の方に行ってみるがゴブリンはいなかった。
念のため巣穴の中を探索するが、これと言って価値のある物はなさそうだ。
「罠があるかも知れないから気おつけろよ〜。」
冗談で言ったつもりだったが、ディーネはしゃがんで地面を探り始めた。
「おいおい、冗談だよ。ゴブリンがそんな上等なもん作れると思うか?」
そう言いながらディーネに近づこうとしたその時、足下で『カチッ』という感触がした。
「うわぁ!!」
ディーネの足下が突如左右に開き、深き暗闇へと吸い込まれていく。
「ディーネ!」
一番早く反応したのはネラードだったが、吸い込まれてしまった者はもう戻ってこない。
ネラードは落とし穴に飛び込もうとするが、羽交い締めにしてそれを阻止する。
「離してください!ディーネが・・・・」
「落ち着け、お前が落ちたところで何の意味もない!現在の状況を確認しろ。」
必死にネラードを落ち着かせていると、落とし穴の中から半泣き声で助けを呼ぶディーネの声が聞こえてくる。
「ディーネ、大丈夫か!どこか痛いところは無いか・・・・う゛!!」
落とし穴の縁に手をかけ中をのぞき込むと、ものすごくくさい臭いが鼻から脳天を直撃する。
「ひぇ〜ん、早く助けてよぉ〜」
穴の中では、ゴミに胸まで埋まったディーネが半泣き状態で助けを求めていた。
作りから見て、古代王国時代の物だろうが、ゴブリンにその価値が分からるずはずない。便利なゴミ捨て場として使うのがもっとも良いと考えるだろう。
しかし、その大量のゴミのおかげでディーネは助かったと言っても過言ではない。
強烈なにおいを我慢しつつ、穴の中にロープを垂らし、それにつかまったディーネを男二人が引っ張り上げる。
胸まで埋まったディーネを引き抜くのは大変だったが、半妖精の女を引き上げるのは難しいことではない。
しばらくして引き上げられたディーネだったが、身体を払うくらいではそのにおいは取れなかった。
「私が水場を探してくるから君たちはここで待っててくれ。」
私の頭に名案がもぐぽんッと・・・もとい、ぽぽぽんっと連続で浮かんできた。
「僕たちも行くよ。」
ディーネが率先してついてこようとするが、ここでついてこられては私の計画が水の泡。
色々ともっともな理由を並べてディーネ達をここにとどまらせる言い訳をする。
「と、言うわけで探しに行ってくるからちゃんとまってってくれ。」
まんまと言いくるめに成功。
あらかじめこの辺の地形をある程度聞いていたので、水場はすぐに見つかった。
あらかた危険がないことを確認してから、さっき思いついた迷案を実行に移す。
腕の痛みを我慢し、魔法を唱える。痛みに負けて何度か失敗したが、そのうち痛くないやり方がわかり詠唱が完成する。
茂みと茂みの間に茂みを出し、あたかも私が覗きをしているような幻影を作る。
幻影にたどり着くルートを確認しながらもときた道を戻る。戻りながら再度確認したが、この道からは幻影は見えない。
「みつけたぞ〜。」
何食わぬ顔で二人と合流し、ディーネに行き方を教えて水場に行かせる。
ディーネが行くと男二人が自動的に取り残され、辺りを沈黙が支配する。
その沈黙を破ったのはもちろん私だ。
「ネラード。」
「はい?」
「覗きに行くぞ。」
「・・・え?!」
突然の愚考に、あっけに取られるネラード。
「行くのか、行かないのか。」
「覗きなんてダメですよ。」
「では私は行くぞ。」
「ちょっと待ってください、行ってはダメですよ!」
ネラードの制止を振り切り、私は素早く茂みに分け入る。
そしてネラードがついてきていることを確認しつつ幻影を出した方角に進む。
目的地に着くとその辺に身を隠し、ネラードをやり過ごす。
「リッフィル、やめましょう。今ならまだ間に合います。」
ネラードは足音を殺して幻影に近づき、小声でつぶやいた。
返事をしない私(幻影)の肩を掴もうとした瞬間に幻影を消してみせた。
茂みから飛び出したような形でネラードが。身体についた臭いを一生懸命水で流しているディーネ。
私が作り出した偶然によって鉢合わせする二人。
ちょっと離れた茂みから、心の中でガッツポーズ。
さ・て・と。
後は若いもんにまかせて私はもときた道を気づかれないように戻り、
@しらをきりとおした。
A全てネラードのせいにした。
B事故だったと言うことで無理矢理納得させた。
私がどれを選ぶか?今更言うまでもないですよね♪
皆さんならどれを選びます?
っと言うわけでゴブリン退治は無事成功しましたとさ、めでたしめでたし。
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