過去、そして今 ( 2001/06/23 )
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登場キャラクター
カーナ、+α



 少女は語る。言葉少なに。
 自らの生い立ち、掠れた過去。
 重ねた季節を、静かに振り返る。

 少女は語る。声も密かに。
 尊敬する人を、父親を、
 亡くした時を、思い浮かべて。

 些細な傷から熱病に侵され、
 森の梢にもたれかかり、
 目の前で命の輝きが、
 静かに衰え行く父を、
 見取ることしか出来なかった、
 けれど涙は見せなかった、
 それは今より六度ほど、
 季節を遡った頃の出来事。

 少女は語る。瞳静かに。
 緩やかな時を、遥か昔を、
 母の幻を、思い浮かべて。

 変哲のない昼下がり、
 岩に包まれた街の中で、
 穴と鏡を伝い伝って、
 部屋に辿るやわらかな光を、
 母の裁縫の姿とともに、
 心の中に刻みつけた、
 それは今より遥か昔、
 記憶も霞に散る頃の出来事。

 少女は語る。視線迷わせ。
 気の合う仲間を、友人を、
 亡くした時を、思い浮かべて。

 危険の少ないはずの遺跡を、
 ほうほうの体で出てきた皆を、
 襲った狂人は山賊一味、
 男の剣士はゆらりとよろめき、
 女の剣士にもたれかかり、
 血の華を咲かせ露に消えた。

 愛する女を護るため、
 嫌いな半妖を護るため、
 身を盾とした男の命を、
 その血と言を聞き入れて、
 気付けば始めて人を殺めた、
 山賊と言え人を殺めた。

 手に握る父の形見を、
 血に濡れ震える短剣を、
 地に伏せ動かぬかつての仲間を、
 天に慟哭する女を見て、
 けれど涙を見せなかった、
 それは今より一度と少し、
 季節を遡った頃の出来事。

 少女は噤み、席を立つ。
 瞳合わせて微かに呟く。
 話し聞かせた相手に向けて、
 それは悔やみを微かに乗せて、
 確かに耳に届き震える。

 互いに友と呼び合えることを、
 求める訳ではないけれど、
 壊してしまった信頼を、
 紡ぐ糸口になれば良いと、
 微かな願いを言の葉に乗せ、
 静かに戸を開け部屋を出て行く。

“カーネリア・レム・リクルティーク”

 旅路の門出に自らつけた、
 隠された名を暗に伝えて。



  


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