半分を失った日 ( 2001/06/24 )
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作者
登場キャラクター
エーセル



……そう、あれはもう、10年も前の話になります。


エルフの父親と、マーファ神官の母親の間に生まれたエーセルは、やはり、というか当然、と言うか、ハーフエルフでした。
周りの人には、「混ざり者」などと言われ、石を投げ付けられたりしていましたが、両親の愛に包まれ、エーセルは幸せでした。

しかし、不幸は突然やって来ました。

エーセル達の暮らしていた村に、魔物がやってきたのです。
やってきたのはゴブリン達……しかし、その数は数十匹もいました。
村の人間達も、エーセルの父親も母親も必死になって戦いました。
もちろん、エーセルも。エーセルは魔術師の素質を持っていましたから、その力を使って、村を守るために必死になって戦いました。
視界の悪い森の中で、村の道の中で、ゴブリンを見つけたエーセルは、その場に立ち尽くしてしまいました。
何故かというと、ゴブリンの脇には、知っている人がいたからです。
それも、もう既に生命がないと、見てすぐ分かる状態で。
今まで、自分に石を投げ付けてきた人でも、知っている人が全く違う姿で横たわっている……その事に、エーセルは恐怖したのです。
恐怖心から我に返ると、ゴブリンは、赤黒くぎらつくダガーを振りかざして、エーセルに襲い掛かってきていました。
(……やらなきゃ……)
エーセルは、半分は無意識のうちにマナを繰る呪文を呟いていました。
「エネルギーボルト!」
白く輝く光の矢は、狙いを寸分もたがわずにゴブリンの胸を貫いていました。
「あ…………」
いともあっさりと倒れたゴブリンを見て、エーセルは思わず後ずさりしていました。
自分がこんなに簡単に相手の生命を奪ってしまったのだ、と言う恐怖が、エーセルを襲ったのです。
「きゃああぁぁぁぁぁぁっ!」
エーセルは思わず絶叫していました。その声を聞き付けて、ゴブリンがぞくぞくと集まってきます。
「いやぁぁぁぁっ!!来ないでぇッ!!」
エーセルは恐慌状態に陥っていました。だれかれ構わず、気力の尽きる直前まで、エネルギーボルトを放ち続けていたのです。
おかげで、でしょうか。あれだけいたゴブリン達は、みんな逃げてしまいました。

「…………あれ?わたし……」
エーセルが我に返ったときには、ゴブリンの影も、人の影もほとんどありませんでした。
ただ、一つだけ人の気配がしたので、エーセルは気配のする後ろを振り返りました。
その気配は、馴染みの気配だったから、エーセルは安心していたのです。
「あ……おとうさま?」
しかし……
おとうさまは、手に持った小ぶりの弓に矢をつがえ、エーセル目がけて放ったのです。
ひょぉぉん、と風を切る音が、エーセルの耳に届いた次の瞬間、エーセルの頭の、ほんの少し上を矢が通り過ぎていきました。
突然の出来事に再び我を忘れそうになったその時。
おとうさまの左手が、エーセルの右眼の視界一杯にうつしだされ……次には、その視界は真っ赤に塗り潰されていました……


次に気がついたのは、どの位の時間が経った後だったのでしょうか。
エーセルが目を開けると、右眼に激しい痛みを覚えました。ついで、誤魔化しきれない違和感。
ゆっくりと起き上がって、周りを見まわしてすぐに、エーセルは違和感の正体を悟りました。
自分の右側が、全く見えないのです。
そして、左手には、いつの間に握っていたのか、目を隠すのにちょうど良い、銀細工。
(どうして、おとうさまが私の目を……どうして……)
エーセルの頭の中は疑問だらけでした。しかし、ここでずっと寝ていても全ては始まりません。
(おとうさま……わたし、信じませんから。すべての真実を明らかにするまで……)



  


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