調査(Probe) ( 2001/07/01 )
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作者
みやじ
登場キャラクター
カディオス、クリア



「う…ん……」
ベッドの中でごそごそと体を動かし、ゆっくりと目を覚ます。重そうに体を
起こすと左頬に傷がある男が一言つぶやく。
「…今、何時だ?………」
よほど長い間寝ていたらしく少し頭がぼんやりしている。カーテンを開けて
外の景色を見ると街を行き交う人々が忙しそうに働いてる姿が見える。
どうやら昼頃らしい。
「んー、と…どうやら昼らしいな…だいぶ寝てたなあ。もっともここんとこ
 仕事が立て込んでたからな。たまの休みぐらいゆっくり寝てても文句言われ
 ないだろう(苦笑)」
窓際から離れ寝間着から紺色の私服に着替える。ふとフィクドラの方を見ると
ずいぶん前にもう起きていたらしくあちこち動き回ってた跡がある。
「おっす、フィクドラ。お前は相変わらずいつもどおりに起きてるみたいだな」
フィクドラ、と呼ばれたその”鷹”が軽く一泣きし返事をする。男は着替え終わり、
「さて、腹減ったから下行って何か食うか。お前も来るだろ?」
当然、とばかりに軽く羽ばたき男の左肩に止まる。
「んじゃ行くか。」


一階は酒場、二階が宿屋。男が泊まっている宿屋兼酒場、ここ”きままに亭”は
そんな作りをしている。下に降りてみると昼頃ということもあってか今日も
たくさんの人が来ていて下は賑わっている。
カウンター席に座り店員に「A定食一つ。あとこいつ(フィクドラ)の飯も」
と追加注文する。
店員が注文を反復すると奥の厨房へそれを伝達する。
「おはようさん。今日はやけに起きてくるのが遅かったな」
注文を伝達し終わった店員が男に話しかけてくる。
「まあね、ここんとこ仕事が立て込んでてろくに休んで無かったから。たまに
 はこんな時間までゆっくり寝ててもいいだろ(笑)」
「ま、たまの休みだ。今日はゆっくりするといいさ。ほい、A定一丁上がり。
 お前さんにはこっちな」
と言って生肉が入った皿を鷹に差し出す。
「ありがとう」と言って料理を受け取り食べ始める。
「ああ、そういえばカディオスってあんただったか。鷹飼ってて左頬に傷のある
 男なんざ他にいないからな」
「確かにカディオスは俺だが、何だ?」
「お前さんに伝言が届いててな、それを預かってる。これだよ」
と言ってカウンターの下から二つに折り畳まれた羊皮紙を取り出しカディオスに渡す。
(伝言?…来たか?)羊皮紙を受け取り飯を食べながら中身を読み始める。
(やはり…盗賊ギルドからか…どうやら見つけたらしいな。)
「なんだって?」
「ああ、捜し物が見つかったんで連絡したいんだとさ」
「ほう、そいつはよかったじゃないか。」
「やっと見つかったよ、やっぱ本職は違うね。まそのぶん少し高くついたが(苦笑)」
「ま、なんにせよ捜し物が見つかって良かったじゃないか」
「まあね。あ、お茶もらえる?冷たいやつ。」料理を食べ終わったらしく今度は
 飲み物を注文する。
「お茶ね、ほらよ。」
「どうも。」カップを受け取り一気に飲み干す。
「ふう…ごちそうさん。金はここに置いとくよ」
カウンターに料金を置き、席を立つ。
「なんだ、もう行くのか?食べたばかり何だから少しゆっくりしていけばいいのに」
「上(二階)行って上着とか取ってくるだけだよ。ま、どっちにしろ待ち合わせ
 の時間が近いからすぐ出掛けるけどな。(苦笑)」
「なんだ、今日だったのかい?」
「そ。ちょっと出掛けてくるよ」
「ま、気ぃつけてな。」
店員の言葉を背中で聞き、手で返事をしながら上に上がっていく。


         −−数刻後…オラン市内中央広場−−
「少し早く来すぎたかと思ったが…ちょうどいい時間みたいだな。さて待ち合わせ
 の場所は、と」
酒場で渡されたメモを懐から出して場所を確認し、辺りを見回す。書いてある
とおりなら赤い屋根の出店が出ているはずで、そこを待ち合わせ場所に指定していた。
少し探すと赤い屋根の出店を見つけることが出来た。他に赤い屋根が無いことから
してどうやらここで間違いないらしい。店を見ると客がいないのでどうやら自分
が先に着いたらしく、まだギルドからの繋ぎの者は来ていないらしい。少し早く
来すぎたか、と思いつつ席に座り紅茶を頼む。
頼んだ紅茶を啜りつつ、ギルドからの人間を待っていると後ろから誰か来たらしく
靴音が聞こえてきた。
(誰か来るな…ギルドの人間か?)
靴音はすぐ後ろで止まり、一言「あなたが”人捜し”の依頼主ね?」と行って来た。
声を聞いて解ったがどうやらあいては女性らしい。
「ああ、確かに俺がギルドに頼んだ依頼だ。見つけてくれたんだろう?」
返事をしながら声のする方、後ろを向くとそこには見知った顔があった。
真紅の、裾が長く、深いスリットの入ったソフトレザー。黒の上着を着、後ろで
縛ってある漆黒の髪が風に揺れる。整った顔立ちの中にある緋色の目が自分と合った。
「…クリア?」
「…やっぱりあなただったのね、依頼人は。」
「やっぱり…って、え?じゃギルドからの繋ぎって…」
「そ、わたし。」
「え?だって……整体師じゃなかったの?」
「あれは表の職業。本業はシーフなのよ、私達一家は。ま、シーフって言っても
 こういう風に情報収集とかの裏方だけどね。」
「じゃ、あの診療所は?」
「素性を隠して仕事してると色んな情報が聞けるからね、何かと便利なのよ。
 普通に生活してる分にはバレ無いけどやっぱりこんな風に時々、ね。
 あ、そうそうこのことはくれぐれも内緒に頼むわね。」
「ああ、分かった。」
カディオスの返事を確認するとクリアは向かいの椅子に腰掛ける。
「OK、じゃ本題に入りましょ。あなたの探してた人…確か父親だったわね?」
「ああ、そうだ。見つかったんだろ?親父は。」
「私も上からの伝達だけで詳しくはわからないけど、あなたの父親がいる場所は
 スラム街…それもスラム街の一番奥。」
「スラム街の奥…その場所に行けば親父に会えるんだな。」
「間違いなく会えるはずよ。でもあそこは広いからそう簡単には見つからないわよ」
「かまわない。広いオランの街中を探すよりは遙かに楽だからな」
「そう、あなたがそれでいいなら私からはもう何も言うことはないわ。
 がんばってお父さん探してね。」
そう言い終わった後、役目は終わったとばかりにクリアは席を立った。
「ありがとう、世話になったな。」
「礼だったら私じゃなくて調査した本人に言ってよね。
 私はただの繋ぎなんだから。じゃ、また何かあったらよろしくね〜」
クリアは微笑みながらそう言うと足取り軽くカディオスから離れていった。
「ああ、何かあったらまたよろしく頼むよ」
別れ際にクリアにそう言うとカディオスはすっかり冷めた紅茶を飲みながら冬の空を眺めた。
(やっとここまできた…もう少し、あと少しで会えるんだ。)




  


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